第2話
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紫苑の通っている高校では、学園祭準備の期間に入った。
クラスの男子の大半は造形担当。造形とは、段ボールとボンドのみで造形アートをつくる。紫苑のクラスは龍を造ることになった。
これには段ボールを運んだり、段ボールをカッターで切ったりする力仕事があるので、男子が担当する。
クラスの半分の女子は担任似顔絵担当。これは担任の特徴を捉え、いかに面白く似せて描けるかを競う。
残りの男子と女子はクラスの出し物担当だ。出し物と言っても、店を出すだけだが。紫苑のクラスはフルーツバーを販売するようだ。
このように担当が決まったところで、準備が始まる。
本来は、その他にクイズがあったりバンドを組んで演奏したりするのだが、まだメンバーが決まらない。
ちなみに紫苑は実行委員なので、クラスの方は免除された。
だが、風紀委員になってしまった紫苑は心底クラスメイトが羨ましいと思った。なぜならーー
現在紫苑は、風紀委員のみでの会議を終え風紀委員会本部(視聴覚室)にいた。
「申し訳ありません。他のお客様にご迷惑がかかりますので、お引き取りください」
「うるせぇ! 引っ込んでろ!」
今本部で行われているのは喧嘩ではない。
危険人物に対する対応の練習だ。
見回りは基本二人一組。そこでペアになった人と役を決め、現在練習中だ。
紫苑とペアになったのは、同学年で一組の男子だった。
この練習では、あらゆる場面を想定する。
当校の生徒が絡まれている場面、店にクレームがつけられている場面、暴力沙汰になった場面等。
いかなる場面でも暴力で解決するわけにはいかない。
相手を宥めたり、待機している教員に連絡したりする。どうしても避けられない場面のみ、こちらの正当防衛が成り立つならば力尽くも良しとされている。
こんな練習して何の役に立つのか。
そんな危険人物が学園祭に来るのか。
そんなことを紫苑は考えていた。
ーーまさかこんなことを学園祭当日までやらされるのか
それだけは止めてくれと願った。
一方、愛梨は担任似顔絵担当のみの会議に出席していた。
彼女の仕事は、主に審査だ。
公平を期すために、他学年のそれも同じブロックを除いたクラスの作品を審査する。
それらを合わせて、担任似顔絵の順位をつけ得点化するのだ。
作品の審査は学園祭前日に行われ、当日は作品が廊下に展示される。結果発表は、もちろん最後だ。
それゆえ、愛梨の仕事は学園祭前日までほとんどない。
紫苑も一緒にやればよかったのにと思った。
愛梨は、実行委員の仕事がないのでクラスの方を手伝うことにした。
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紫苑の方は、さすがに毎日あのこっぱずかしい練習はしなかった。
その代わり、学園祭における禁止事項を全て覚えさせられた。
マナーが悪い人は、外部からだけではない。当校の生徒でも、規則違反はありうる。
風紀委員はそういった生徒を見つけ次第、本部に連絡と生徒に対し注意を行う。注意を受けた生徒のクラスは、獲得した得点から減点を受ける。
減点はクラス順位だけでなく、ブロック順位まで影響する。
その他にも、会議の遅刻や提出物の遅れは減点対象だ。
そういうわけで、紫苑は禁止事項を全て覚える必要があった。
これが、結構細かい。
例えば、造形では使用できる道具は決められている。それら以外の物を使い造形を造ったら減点だ。
また、作業場所も決められている。
それらを全て覚え、違反者を取り締まらなければならないのだ。
紫苑はとんでもないことに気がついた。
造形で使用不可の道具を使っていた→風紀委員が見つける→本部に連絡→そのクラスは減点
この流れからすると、風紀委員は学園祭当日のみ活動するわけではない。
つまり、紫苑は学園祭準備期間中も風紀委員の仕事をしなければならないのだ。
ーー失敗した。もしかしたら、一番面倒な役だったかもしれない。
今更後悔しても遅すぎる。
紫苑は深くため息をついた。
〜続く〜