第5話
過去編第5話です。
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結局、今回の事件はこちら側の正当防衛が認められた。
普通なら、やり過ぎだ。相手の7人のうち、最初に片桐に顎を蹴り上げられた奴を除いて、全員ほぼ再起不能になった。
組織が警察に手を回したとも、考えられなくもない。
だが、そんなことを紫苑が考えても仕方がない。
当然、千冬の耳にこのことが入った。
紫苑と片桐は、事件の詳細を話した。
ーーといっても、紫苑はほとんど覚えていなかったが。
片桐も、平気で嘘を付く人間ではない。当然、正直に話した。
千冬は、激怒した。それを、紫苑も必死に宥める。
それでも、今も片桐は怒られている。
「片桐! どういうことかしら? どうして、紫苑が怪我をしたの? あなたは何をしていたの!?」
相当お怒りだ。
「……も、申し訳……ありません」
片桐は、声を出すのも精一杯のようだ。紫苑ですら、縮こまっている。
「片桐、あなたには事前に話をしたわよね。あらゆる場合をにおいて、紫苑を守りなさいと」
「……はい」
そうだったのか……
紫苑は初めてそのことを知った。
「今回のようなことが起こることも、想定済みだったはずよ。
それなのに、このザマよ」
「……」
ーーもう片桐のライフポイントは、ゼロに近い。
「姉さん、もうそこらへんでいいでしょう。勝手に暴走したのは、俺です」
さすがに、紫苑もこれ以上は見かねたようだ。だが、
「いいえ、今回は一歩間違えば貴方の身が危なかった。それを防ぐことも彼女の役目だったの。私は、片桐を信頼してたわ。だから今は、凄く失望しているわ」
「姉さん! 少し言い過ぎでしょう。片桐も反省しているようですし、これ以上言っても意味はありません!」
いつも紫苑の前では、へらへらしてる姉さんも今は真剣だ。一人称が、「お姉ちゃん」から「私」に変わってる。
「……貴方がそう言うなら、この辺でおしまいにしましょう。
でも、彼女には罰を受けてもらうわ」
「……片桐はどのような罰を受けるのですか?」
紫苑は、ある程度察しはついたがそれでも、聞くのは怖かった。
「……現在、片桐家は鷹司家の傘下にあり、両家は協力体制をとっているわ。
でも今回、彼女は一条家次期当主の貴方を危険にさらした。その結果、貴方は決して軽くない怪我を負い、彼女は自分の務めを果たせなかった。
これは、決してあってはならないことだったわ」
片桐も、どのような処分が下されるか、覚悟が出来ているようだ。
片桐の目には涙などない。
あるのは、絶望感。
「……今回のことで、鷹司家は片桐家との関係を解消、つまり片桐家を鷹司家の傘下から除名します……」
ーーやはりそうきたか。
いや、そうせざるをえなかったのだろう。姉さんも辛そうだ。
(それにしても、厳しい社会だ)
紫苑は、組織の厳しさを実感した。
☆
ーー除名か……
覚悟はしていた。自分は、それだけのことをしてしまったのだから。
ーーこれからどうしよう。
鷹司家という、大きな後ろ盾もなくなった。さらに、今回のことが組織内に知れ渡れば、片桐家の評判は池に落ちる。
それも、時間の問題か。
鷹司家や九条家などと、肩を並べるまで家を成長させたいと思っていたのはいつだったか。
逆に悪くしてしまった。
それだけではない。今回のことで、鷹司家も他の家から叩かれるかもしれない。
除名は仕方ない。組織から追放されないだけマシだ。
だが、片桐家は完全に組織内で孤立してしまった。
ーーもう、絶望しかない。
だけど、涙は流さない。
今日で、紫苑様の側にいるのも最後だ。以前彼は、私の笑顔が一番好きだと言ってくれた。こんなことになるなら、もっと笑って過ごしたかった。
また、泣きそうになる。必死で堪える。
最後くらい、笑顔でいたい。
彼が一番好きだと言ってくれた笑顔でーー別れを告げたい。
病院で、彼が「あとは任せてくれ」と言ったときは、少し期待してしまった。
ーーまだ、彼の側に居れるかもしれない。
だが、現実はそんな甘くない。
今は後悔と、彼への感謝でいっぱいだ。
私を庇ってくれた。
私を慰めてくれた。
私の笑顔が一番好きだと言ってくれた。
私を「仲間だ」と言ってくれた。
彼はもちろん、千冬お嬢様のことも恨んでいない。
もう心残りは無い。
片桐は、千冬と紫苑に別れの挨拶をしようとした。
☆
ーーピピッ
そのとき、紫苑のポケットの中にあった携帯が鳴った。
〜続く〜
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