第3話
◆◇◆◇◆
片桐が来て一年が経った。
厳しい日々だったが武術の方も、実力がついてきたと実感している。これも片桐のお陰だ。
一年間一緒に過ごして、片桐のこともよく知ることができた。
相変わらず無愛想だが。
それでも、少し微笑を見せてくれるときもある。本当に、綺麗な微笑だ。
おそらく、あの表情が一番好きだ。
☆
私がこの家に来て、一年が経った。
正直驚いた。
決して、楽ではないことも彼はやってのけた。最初は、もって半年くらいだと思っていたのだが。
もともと、成績は良かったし運動神経も良かった。だが、一番凄かったのは彼の精神力だった。
ーー少し見直した。
といっても、嫌悪感がなくなったわけではないが。
彼は、夕方まで中学校にいる。私は、高校にいる。彼は、陸上部らしい。
家に帰ってくるのは、6時頃。そこから8時半くらいまで、勉強。それから、トレーニングや、私と武術や組織に関する勉強。途中夕食を挟み、再開する。全てが終わるのは、12時頃。それが、彼の平日のスケジュールだった。
休日は、午後から実践訓練。さまざま状況を想定して行う。日々のトレーニングも忘れない。
そんな生活を1年間出来たのが凄い。当然、遊びに出かけることは少なかった。
そのぶん、実力はかなりついた。組織内では、まだまだ彼より強い人はいるが、あと2年ある。間に合いそうだ。ーーこのまま順調ならば。
◆◇◆◇◆
その日紫苑は、久しぶりに友達と遊びに出かけていた。
今は友達ーー愛梨と一緒にデパートにいる。
「ねぇねぇ、これ似合う?」
「まぁ、似合うな」
愛梨に聞かれたので、応える。
「ビミョーな反応ね」
「大丈夫だ。愛梨は、何着ても似合うよ」
「……褒めてんの?」
「……一応」
すると、携帯が鳴った。姉さんからだ。
「はい。どうしました?」
「紫苑、貴方が片桐と特訓していること組織にバレたみたい」
いいじゃないか。何か問題あるのだろうか?
「それがどうかしました?」
「貴方のことをよく思ってない人達は、黙っていないでしょう。気を付けなさい」
「……それは、俺が襲われる可能性があると?」
「……ないとは言えない。むしろ、その可能性が高いわ。片桐にも伝えておくわ。もし、危険を感じたらすぐに逃げなさい。相手はプロかもしれない」
「……わかりました」
そう言って、電話を切った。
「どうしたの?」
愛梨が、心配そうに見つめてくる。
「……ごめん、急用ができた」
俺が狙われているなら、近くにいる愛梨も危ない。
「……うん。仕方ないよ……」
愛梨は、哀しそうな笑顔で言う。
「ホントごめん。埋め合わせはいつかするから」
そう言って、デパートから出る。
すると、今度は片桐から電話がきた。
「片桐?」
「紫苑様、大丈夫ですか?」
「姉さんから事情は聞いたよ。今のところ大丈夫だ」
「今、どちらに?」
「デパートを出たところだ。今から家に帰る。片桐も外か? 車の音がする」
「はい。買い出しに行っていたところです」
「そっちも大丈夫なのか?」
「はい、問題ありませ……っ!」
「片桐?」
「紫苑様、早く家にお戻りを」
「おい! 片桐!?」
電話は、一方的に切られた。
そんなことよりも、片桐の身が危ない。彼女は、焦っていた。
いつもは、言葉に感情がなかったが今回は違った。
ーー俺のせいで片桐を傷付けるわけにはいかない。
仲間を何より大切にする紫苑にとって、それは耐えられないことだ。
ーー買い出しと言っていたから、スーパーの近くか。それほど遠くない。
「陸上部を舐めんなよ」
紫苑は全速力で走り出した。
◆◇◆◇◆
片桐は、7人の男に囲まれた。
彼女の片手には、食材の入ったバッグ。
ーー面倒なのに巻き込まれた。
彼女の顔は涼しい。相手がそこまで強くないとわかったからだ。これが、皆武闘派だったら、彼女も無傷では済まないだろう。
ーーこの程度なら、大丈夫そうだ。
彼女の頭をよぎったのは、紫苑のこと。彼は無事に帰れただろうか。
ーー彼を嫌悪していたはずなのに……私も柔らかくなったな。
そんなことを考えていると、一人が殴りかかってきた。
くだらないと思いながら、片桐は殴りかかってきた男の顎を、長い脚で蹴り上げる。
すると、他の6人が一斉に懐からバタフライナイフを取り出した。
脅しではなさそうだ。上から、命を奪ってよいと言われているのか。
片桐の顔から余裕が消える。油断するとグサリだ。
片桐は、本気の殺気を放ち神経を尖らせた。
☆
紫苑が見たのは、片桐が男を蹴り上げる場面。
ーーあの程度では、片桐の相手にはならないな。
だが、次の瞬間他の6人が一斉にバタフライナイフを取り出し、片桐に向ける。
片桐の表情も強張っている。
仲間が、傷付けられる?
それはダメだ。
ーーぷつんっ
紫苑の頭の中の何かが切れた。
紫苑は、このときのことをよく覚えていない。
だが、その代わり片桐はこのときのことを鮮明に覚えているようだ。
〜続く〜
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