第1話
過去編の本編開始です!
◆◇◆◇◆
紫苑が、中学校に入学した日。
家に帰ると、何故か姉さんと白雪がいた。しかも、姉さんは顔色があまり良くない。
このときはまだ、紫苑の実姉ーー立花と共に生活していた。
姉さんと白雪の鷹司姉妹とは、昔から知っている。紫苑と立花も加えた4人でよく遊んだものだ。
そんな中、鷹司姉妹の突然の訪問に紫苑は驚いた。
「姉さん、わざわざ東京からどうしたの? なんか具合も悪そうだけど……」
姉さんとは正反対に、白雪は無邪気に紫苑に飛び付いてくる。
「……紫苑、貴方は一条家の次期当主よね」
「……そうですけど、それが何か?」
紫苑も組織のことは、少しだけ知っていた。もちろん、他言厳禁だが。
そして、自分が次期当主になることも言われていた。紫苑には、上に姉がいるが、通常男子が当主になる。それゆえ、立花は高校生になっても、組織の一員ではない。正真正銘、普通の高校生だ。
九条家や鷹司家のように、男子がいない場合は例外だが。
しかし、紫苑はまだ中学生になったばかり、両親も海外にいる。組織の話などまだ早過ぎる。
「……紫苑、知っていると思うけど、貴方には、3年後組織の一員になってもらう」
「はい。そのつもりですが?」
珍しく姉さんの歯切れが悪い。
「……それなんだけとね……その……貴方のご両親は海外で仕事をしてるでしょ? それ自体は、全然問題なくて組織にもしっかり貢献してる」
紫苑の両親は、一条家の当主として海外での仕事を任されている。九条グループの力は、海外にも広がっているのだ。
「……それでね、最近一条家が組織内で力を落としてるの……国外にいることをいいことに、一条家を軽んじる人がいるのよ……」
わからないでもない。一条家は、集まりなどでも出席できない。他の当主たちにとって、一条家は脅威になっていないのだ。
「本来一条家は、組織内で力は大きかったわ」
「……それで、俺にどうしろと?」
中学校に入学したばかりの紫苑に、何ができると言うのか。
「……言いにくいんだけど、貴方が高校生になって組織に入ることを良く思わない人も多いと思うの。
貴方が組織に入ったら、見下されるのは目に見えてる」
「……なるほど、それで一条家と協力体制をとっている鷹司家としては、あまりよろしくないと」
「……さすがね。でも、貴方のことを心配しているのも事実よ。それは信じて」
「それで、俺に何ができるのでしょうか?」
「……貴方が組織に入って、軽んじられないように実力をつけてほしいの。
厳しい生活を強いるようで、本当にごめんなさい」
「いえ、姉さんも自分の家のことを考えたら当然です。一条家も、鷹司家に見捨てられることは避けたいので」
「そんなっ! 鷹司が一条を見捨てるなんて私が許さない」
「ありがとうございます、姉さん。それで、具体的にどうすれば?」
「引き受けてくれるの?」
姉さんは、鷹司家の面目を保つために紫苑に厳しい生活を強いることが、本当に後ろめたいようだ。
こんな時でも白雪は、紫苑の隣で彼にもたれかかりながら眠っている。
「ええ、それが最善ならば。俺としても、一条家が軽んじられることは腹が立つので」
「……ありがとう。
紫苑、貴方には学業はもちろん、武術や実践訓練を行ってもらいます」
「はい」
「そこで、貴方専属の指導役をつけます。一緒に生活をしていろんなことを学びなさい。お互い気に入れば、貴方が組織に入った時、筆頭部下にして構いません」
組織に入って部下にしてよいということは、指導役は分家の者か少なくとも、組織に絡んでいる家の者だ。
そこらの、武術の指導者ではない。
「彼女は、私の同級生よ。凄く優秀で、教えることも上手いと思うわ」
「……女性ですか?」
「ええ。立花もいるからいいじゃない。
それに、私は貴方を信用してる」
「てすが、その人も高校生でしょう? 俺たちだけで、勝手に決めていいんですか?」
「彼女には、話をつけたわ。こっちの高校に編入させる予定よ」
「高校に行きながら、俺の指導ですか……」
「貴方も、中学校に行きながら己を鍛えるのよ。
……本当にごめんなさい。貴方にも、彼女にも苦労をかけてしまうわ」
「いえ、それで俺の指導役の人は来ているのですか?」
「そろそろ来る頃よ」
◆◇◆◇◆
それから10分後
玄関のインターホンが鳴り、姉さんが部屋へ入るよう促す。
そして、彼女が入ってきた。
それが、紫苑と片桐が初めて対面した瞬間だった。
背が高い。そして何より、美しい。
それが、紫苑の第一印象だった。背はおそらく、170㎝近い。彼女の美貌は、姉さんにもひけをとっていない。
「失礼します」
彼女は、はっきりとした、美しい声で言った。
「よく来たわね。彼女が貴方の指導役になる、片桐早苗」
姉さんが、手短に紹介してくれた。
ーー片桐家か。たしか、鷹司家の傘下の家だ。
そして、紫苑のことも片桐に紹介した。
「紫苑、貴方には3年間で強くなってもらうわ。誰も貴方を馬鹿にできないように。それを、片桐から学びなさい」
「はい」
「それじゃあ私たちは、お暇するわ」
そう言って、眠っている白雪を起こし鷹司姉妹は帰っていった。
部屋には、紫苑と片桐が残された。実姉の立花は、出かけている。
「……あの〜片桐さん? これからよろしくお願いします……」
少し遠慮がちに、紫苑が言った。
「はい。よろしくお願いします」
淡々とした口調だ。まるで、感情がこもっていないようだ。
(これはかなり厳しい生活になりそうだ)
紫苑は小さく溜息をついた。
〜続く〜
次話も早く投稿します!