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彼女の旅路  作者: 寝歩き
風吹く丘、歌う花
16/30

9

「へえ……あの依頼を見てやって来たんだね」


夕食後にお茶をいただきながら歌う花の詳細について聞いてみると、彩華さんは顎に手を当てて何やら得心がいった、という表情。


あ、結局イクスさんが買いすぎた食べ物は私たち三人の胃にすっかりと収まりました。


なんだかんだで怒っていた彩華さんも、たまにはこういうのもいいねぇと相好を崩していたくらいなので、やはり美味しく楽しい食事は重要なのだろう。


「歌う花についてはアタシもよくは知らないんだ。文献に書かれているくらいのことしか」


「……」


二十年に一度、丁度この時期に見ることができるという歌う花。それは移動するのだそうだ。人間の姿をしているのだとも言われているらしい。流石に移動するとか人間の姿とかは噂に過ぎないだろうが。


「そんなのが宿にあったらさぞ客が増えるだろうなぁって思ってねぇ」


「それって客引きじゃん。……そういえばさ」


割と身も蓋もない理由だと思っていたらイクスさんが声を発した。


「サイカが依頼を出したのはいつ?」


「昨日の昼間。街全体がバタバタしてたから別に急がなくてもいいって言って頼んだよ」


花って言うくらいだし駆け出し辺りが簡単に見つかるだろうって思ってね、と続けた彩華さん。イクスさんはというと何やら眉を寄せて思案顔。


「サイカが急ぎでないと言ったにも関わらず、緊急の方に依頼が貼り付けられていたんだよね。なんだか妙じゃない?」


それはまぁ……確かに。ギルド側は何か情報を知ってるんだろうか。二人で首を傾げていると、彩華さんが爆弾発言を投下してきた。


「妙なことはないさ。巷で騒がれている子供たちが姿を消しているっつぅ噂、あれの元凶が歌う花って情報を掴んでるんだろうよ」


「元凶が歌う花……!?」


思いきりイクスさんと被ってしまったけれど、それは一体どういうことなのだろうか。


「ああ。アタシ自身は見たことないけど、歌う花は風に吹かれると何やら幻覚を見せる粉を出すらしくてね。奥まった所に咲くらしいし、余程の風じゃなきゃ粉は出さないって話なんだが」


何ですか、その明らかに人間が摂取しちゃいけない粉。そんなものを撒き散らしてるんですか歌う花って。


「最近子供たちが丘の方に出入りしていたらしくてね。気になってちびっこに話を聞いてみたんだよ。そしたら『奥にキラキラしてる花が咲いてたの!』ってさ」


「そのキラキラした花っていうのが歌う花、なんだね」


得心のいった表情のイクスさんに彩華さんは一つ頷いて見せた。……行方不明でないのなら、それは良いことではある。あるのだけれど。


「では、子供たちは歌う花の幻に魅せられて姿を消した、と?」


言葉に出してより一層増す違和感。片手で数えられるくらいの子がそうなったのならまだ分かる。でも、街に住んでいる子供の過半数がバラバラのタイミングで幻の虜になるなんてことがあるのだろうか?


確かに、もし子供たちが幻を見ていて何処かへと行ってしまったのなら一大事だ。街の外には魔物や恐ろしい獣も多く、まだ幼い子供たちでは立ち向かうことすら出来ずに食われてしまうに違いない。


でもそれなら、ギルドの方で歌う花の存在を大々的に知らせた方が早いはずだ。けれども彩華さんの依頼は、貼り付けられてこそいたものの行方不明事件の陰に隠れていた。


……何がしたいのかさっぱりわからない。


「そこまで百面相せんでも。事は簡単さ、アタシが……ああいや、とにかく子供たちは必ず帰ってくるよ。心配しなさんな」


頭を抱える私の肩をぽん、と叩いて彩華さんは笑って見せるのだった。


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