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ゴーン、ゴーンとお昼の鐘が鳴る。……は、思わず没頭してしまった。途中から地図以外の本にも手を伸ばしていたためか頭の中はごちゃごちゃだ。ちょっと背中も痛い。
「それにしても、何故私の手伝いをしてくれるんですか?」
ふと気になったのでいつのまにか隣に移動していたマルガさんに尋ねてみる……って本当になんで隣にいるの!?
「勿論子供たちが心配だからです。付け加えるなら先程申し上げたように、強者であると思われる貴女がどういった風に解決するのか気になるから、でしょうか」
心なしかずずい、と近付いてきたマルガさんは本当に強い人が好きらしい。いや、私強くないんで昨日みたいにイクスさんの方に行ってくださると嬉しいんですけど。
……イクスさんといえば、全然来る気配ないなぁ。ちょっと何処か寄ってから来るみたいな感じだったのに。あれからもう何時間も経ってるし。
「まぁ、長い間街で暮らしてきた者には見えないことも旅人の方ならば分かるかもしれませんからね。そういう意味でも期待しているのですよ」
「成る程……」
それは確かに言えるかもしれない。何かしらおかしいところがあっても、それが日常であると一度脳が判断すれば違和感なんて気のせいだろうと認識してしまうのだ。こればかりは如何に気を付けていても中々気づけないもの。
「それにこの街は五十年に一度、こういう事件が起きるのだそうです。前回は魔物に拐われたんだとか。なので最悪の事態を防ぐために情報を集めているのです」
「魔物に……?」
「詳しく言うならば、集めた子供たちの血を吸うために拐われたと考えられています。実際はどうだったのか分かりませんが」
マルガさんの細められた赤い瞳がゆらりと揺らめく。……もしかしてその魔物というのは吸血鬼のことだろうか。
「吸血鬼というのですが……あら、どうやらご存知のようですね。中々知っている方はいらっしゃらないのですが」
「そうなのですか」
子供たちに読んであげたお話にそんなものがあったのかもしれない。
「件の吸血鬼は街の人々によって見つかり、火刑に処されたのだとか」
……つまり、火炙りか。
「その吸血鬼は煙が肺に到達した為死亡。まさか復活しているとは考えにくいですが、つい先日吸血鬼の死体が掘り起こされたようでして」
「それは確かに物騒ですね」
吸血鬼のお墓は街の南側にあるという。調べてみる価値はありそうだ。……調査人じゃない私たちが見たところで、何か分かるわけではないだろうけれど。