Promise Pain Project
空が明るみを取り戻してる時、都市はまだ眠っている。 人がいないにも関わらず、街頭だけはかろうじて仕事を続けている。
パッパと点滅を繰り返して、夜までに集めた太陽エネルギーが尽きようとしている。
もうすぐ朝がくる。 都市は人で溢れ、雑音にまみれる。
都市が目覚める手前で、風切り音が聞こえてくる。 飛行機のソレではなく、ジェット機のソレに近い。
だんだん音が大きくなるも、ピタッと音が止んだ。
いつもの静けさに耳が痛くなる。 高揚感にも似た鼓動を感じ、次の動きを待っているとレーダーに反応があった。 それと同時にコンクリートを抉る音が飛び込んでくる。
レーダーと音を頼りにスコープを向けると、銀色の髪をなびかせた少女が辺りを見渡しながら立っていた。
手足には機械を思わせる物が装着されており、両手に身長の半分はあるだろう銃を持っている。 腰には四機のスラスターを装着し、少女の後ろにはコンクリートが抉られた跡が続いていた。
あの風切り音はこの少女のものなのだと瞬時に理解し、トリガーに手をかけた。 スコープを絞って頭を狙ったとき、警戒音が鳴った。
レーダーに目を向けるとあの少女の他に新しく三つの信号が点滅している。 レーダーの示す方向に場所を変えてスコープを最大限に絞ると、輸送機の下に機体を吊り下げて海面上を飛行する三機を発見できた。
そのなかでも一番大きな機体を連れてる輸送機に狙いをつけ、射程範囲に入った瞬間にトリガーを引いた。
ゴインと金属を打ち付けるような硬い音が鳴った数秒後に輸送機が炎上し、回転しながら落下し始める。 しかしここでパイロットの根性を見せられた。 コントロールを失いながらも、吊るしてある機体の切り離しを最優先してみせた。
切り離された機体はスラスターを炊いて、重力を受けながらも都市に近づいてくる。 他の二機の機体も切り離され、自機のスラスターで侵攻してくる。
ある機体はビルに足をかけて落下のスピードを落とし着地し、またある機体はスラスターで落下スピードを落として着地した。
カメラから情報が入ってくる。 二機は赤と青の細い機体をして、武装は両手に銃が二丁。 最後の一機はさっき狙った輸送機から放たれた機体。 ゴツゴツした黒い外装を施し、肩に九連のロケット弾ポットを装備。 さらに機体の大きさに見合ったバックパックも持っている。
この機体が他の機体の武装も持っているのだろう。 舌打しながら非常ボタンを押す。 地面のハッチが開いてタンク型の機体と、深緑の細い機体一機が発進した。
動きが良かったのは相手の方だった。 機動力のある二機が場を乱し、混乱しているうちに火力のある機体が一蹴する。
こちらは翻弄されるだけで、防衛をしながらも徐々に後退していくしかなかった。
私も狙いがうまくつけられずにいた。 最初の一撃でスナイパーがいることが露見し、相手は三次元移動を心掛けている。 平面移動であれば動きを予想することができるが、立体的に動かれてはスコープからすぐに外されてしまう。 これでは狙うに狙えない。 下手に撃てば、こちらの場所がバレてしまう恐れもある。
下唇を噛みながら、あの少女のことが頭をよぎる。
レーダーに感もなくなり、どこかに逃げていったのだろう。 もしかしたらこちらの味方になってくれたかもしれないが、仕方ない。 あの小さな機体ではどうにもならない、と考えよう。
気持ちを切り替えて再びスコープを覗く。
黒い機体が九連のロケット弾をすべて撃ち、タンクタイプが後退しながら撃ち落としている。 しかし落とせたのはたったの二発だけで、タンクタイプは早々にビルの陰に隠れた。
その隙に相手は前進してくる。 もう都市の三分の一程度は破壊されている。 これ以上は————
銃身を持ち上げて、ロケット弾を狙う。 息を吸って、止める。 トリガーを引く。
一発、二発。
撃ち落としていくうちに弾がこちらに飛んできた。
バレたか!
弾が飛んできた方向に銃身を向けると、赤い機体がこちらに銃身を向けて乱射していた。 舌打をする間もなく、狙いをつける。 何発が機体に当たり、うまく狙いが定まらない。 一撃で仕留めることを諦めて、一瞬でも照準が相手の機体に重ねった時にトリガーを引いた。
撃った弾は相手の右腕を打ち抜いた。 赤い機体は倒れそうになったが、スラスターを炊いて上空に逃げて行った。
爆発音が鳴った。 私の後ろでほのかに明かりが灯った。
舌打をした。 機体を爆発音があった方に向けると、崩れてるはずのビルが健在していた。 慌ててスコープを覗き込み、煙が舞っている手前を見て顔が引きつる。
二丁の銃を前に突き出して、あの少女が立っていた。 煙が晴れて、相手の機体と少女が向き合う。 青い機体は後ろに飛んで上空から、黒い機体は後退しながら両手に持ってる銃を狙いもつけずに乱射する。 上からそして前方から弾幕が押し寄せてくるのに少女は退かなかった。 スラスターを目一杯炊いて、前に突っ込む。
小柄の体系を活かし、弾幕の合間を縫ってどんどん距離を詰める。 黒い機体は近づかれる前にバックパックのアームを使い、ロケットランチャーを引っ張り出し前方の地面を撃った。
少女の姿が煙の中に消えた。 その間に黒い機体がビルの陰に隠れようと後退していく。 すかさず足に狙いをつけてトリガーを引く。 足の関節に当たり、態勢が崩れたところであの少女が煙の中から飛び出して来た。
片方の銃を背中にかけて黒い機体の頭を掴み、足を両肩に乗せる。 少女の胸のあたりに緑色の光が灯った。 なにかプラズマ系の兵器のエネルギーをチャージしているのだろう。
私は戦闘中にも関わらずにその光に見惚れてしまった。 いつ死ぬか分からないこの戦場で一時の癒しを見つけた。 そんな気さえした。
呆けていると少女の身体が大きく横にズレた。 青い機体が援護に入った。 少女はチャージを中断して大きく空に飛び出す。 青い機体も続くように飛び出した。
少女はあの小さい身体で青い機体と激しい撃ち合いを始めていた。 少女は左右に旋回することで、弾を避け距離を詰めようとするが、青い機体が許さなかった。 一瞬のうちに少女の考えを察したのか、常に一定の距離を取り弾幕を撒いて近づかせない。
私は無線で仲間に連絡した。
『青い機体はあの少女に任せる。 私たちは残りをやるぞ』
仲間から疑問の声が上がったが、少女と青い機体の交戦している光景を見て戸惑いながらも『了解』の言葉を得た。
地上の二人に時間を稼いでもらっているうちに、私はビルからビルへ跳んで移動していた。 場所を悟られた以上、ずっとそこにいるわけにはいかない。
通信機から逐一連絡が入ってくる。 『まだか!!』、『当たらねぇ!!』と怒鳴り声が飛んでくる。 どうやら劣勢を強いられているらしい。
一機は片腕をふっとばしておいたのに攻めきれないとは……。 相手のパイロットが良いのか、ウチのパイロットがヘボなのか。
『あと一分ほど粘れ。 それまでにはポイントに着く』
怒号の返事が返って来て、通信は切れた。
もうすぐ朝が来る。
ポイントに着いた。 スコープ越しに戦況を確認すると、確かに劣勢を強いられている。 同じようなタイプ同士で一騎打ちをしているように見えて、相手はお互いに援護し合っている。 あいつらが一直線になった時に決定的な弾を撃ちこんでいる。 前の奴が避ければ、後ろのやつに当たる。
パイロットとしては相手の方がかなり上だ。 だが読めてしまえば、それまで。
スコープの絞りを緩めて、全体が見えるようにする。
『ポイントに着いたなら……、さっさと援護しろ! クソが!!』
ノイズ交じりにまた怒号が飛んでくる。 被弾率が高くなって、機体の動きが悪くなってきているのだろう。 もう少しだけ耐えてもらう。 もう少しだけ……。
トリガーに手を添えて、じっとタイミングを待つ。 遠慮なしに通信が入る。
苦し紛れに弾幕を撒く味方機に対して、瞬時に弾幕が薄いところを被弾覚悟で突破してくる敵機。 また通信が入る。
まだ……。
味方機の一機が弾を撃ち尽くし、銃を捨てた。 スラスターを炊いて、タンクタイプから次の武装をもらいに行く。
ベストなタイミングが来た。 スコープを赤い機体に向け、絞る。 相手の動きに合わせながらスコープを動かし動きを予測。 先回りする。
トリガーを引く瞬間にスコープに赤い機体が映った。 ゴインと硬い音が鳴り、赤い機体の左肩をぶち抜いた。
『やれ!!』
タンクタイプから受け取った銃をカラにするほど撃ち尽くす。 続けざまにスコープを黒い機体に向ける。 仲間の援護に入ろうと銃口が深緑の機体に向いている。
すぐさまトリガーを引いた。 撃った弾は深緑を狙っていた銃に当たり、爆発した。
『おまえもだ!!』
待ってました、と言わんばかりの声が返って来た。
スコープから目を離して息を吐き、脱力する。 しばらくすると通信が入った。
『状況終了』
『了解。 お前たちは帰還しろ。 あの少女の様子を見てくる』
『了解。 ヘタに手を出————』
通信の途中で遠くから青い線が走るのを確認した。 そのあと、私たちが戦闘をしていたところで爆発が起きた。
通信機を手に取って唾を飛ばしながら呼びかける。
『平気か!! ……おい!! 応答しろ!!』
また青い線が走った。
『そげ————』
爆発音と共に入りかけた通信が途絶えた。
青い線が走って来た方向にスコープを向けて、射出位置を探ると少女と交戦していたはずの青い機体が飛んでいるのを確認した。 スラスターとは別の強く青い光も確認できた。 その光はだんだんと大きくなり、左ななめ下に一直線の青い線が走った。
射出された方向には一つ緑色の光が見えた。 まだ交戦は続いていた。
青い線で緑の光がかき消されたが、青い軌跡が消えると緑の光は灯ったままだった。 緑の光と青い光が互いに接近し合っては引き離される。
ここからだと戦況を理解できない。 あの二つの光を頼りに私は動き出した。
機動力では少女が勝っていた。 火力では青い機体が勝ってた。
互いが互いの利点を生かした戦法を取っている。 少女は機動力を活かし、ゼロ距離でプラズマ兵器を撃ち込もうとしているのに対し、青い機体は特に狙いもつけずにプラズマ兵器を撃っている。
だが運があったのは少女の方だった。
肉薄しようと接近してくる少女を防いでいた実弾の弾が切れたのだ。 少女はすぐさまスラスターを目一杯炊いて接近する。 弾が切れた銃を少女に向けて投げてが、横に旋回することであっさり避けられた。 青い機体はまだチャージしきれてないプラズマ兵器を撃ち込み、自身もスラスターを目一杯炊いて戦線を離脱しようとする。
放たれた青いプラズマはこれまでのどれよりも細く弱々しかった。 少女はこれも横に旋回して回避し、ビルを蹴ってさらに加速した。
どんどん距離は詰められ、とうとう少女が青い機体の後頭部を掴んだ。 足を両肩に置いて、一層大きく緑のプラズマ光が輝く。 青い機体が少女を振りほどく前に、緑色の線が走った。
私が見た景色はそれが最後だった。
「以上が昨夜あった戦闘データです」
「役に立ちそうか……」
「ええ、計画を実行できるほどに」
「そうか……では、はじめるとしよう。 "Promise Pain Project"を」




