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生身の刃  作者: δ
第一章:夜間演習
9/65

Infinity Class

 もし戦闘シーンを残酷描写だと思う人がいたらごめんなさい。

 まあ相手は機械ですし、血が流れるわけでもないのですが・・・?

 病室の中に二人、外に一人。

 都合三人は病室のベッドに座る安城の見張りを任されていた。


 間一髪のところであの恐怖から逃れられた安城は、あのあとタクトにこの病院で大人しくしているよう指示されていた。

 奴らは一体何者なのか。どうして安城を付け狙うのか。他の人たちは無事なのか。など安城が堰を切ったように問いただすと、タクトは一言


「誰も死ぬことはない」


 とだけ言った。そのあと彼の仲間──安城の知らない顔ばかりであったが──にすぐさま配置について応戦しろと指示を出し、安城を最上階の病室に連れて行ったのだった。


「あの」


 彼女は出口の近く、洗面台に寄りかかって爪を研いでいる女に呼びかけた。


「あなたたちは……?」


 その女はさっと流し目を寄越し、またすぐに手元に視線を戻して口だけで答えた。


「んー? タクトと知り合いなら、知ってたんじゃないの……?」

「いえ、何も……」

「あ、そうか。本人に言うわけないか……」

「??」


 不意にその女は爪から目を離し、安城に近寄ってきた。

 ベッドの前にしゃがんで、安城と目線をあわせる。


「あなた、危ないところだったわね」

「……」

「奴らヴィーナスは人の命を何とも思ってないから……」

「ヴィーナス?」

「そう。ヴィーナス。口にするのも恐ろしい計画“サトゥルヌス”の成就を目的とする組織。しばらく前からこの辺にケルベロスとかアンドロイドだとかを収集し始めたから、タクトがもしやと思って、私たちを呼び集めたの」

「タクトくんが……」


 しかし彼女にはまだ分からなかった。自分の目の前にいる者達は、何者なのか?

 彼女の表情からそのことを読みとったのか、女が答えた。


「私たちはユピテル。二人の“王”を頂点とする組織で、人類の統括を目的としている。……タクトはここ日本においてユピテルの活動を取りまとめている、いわば“コンダクター”よ」

「コンダクター……人類の、統括……」


 突然自分の前に突き出されたタクトの正体に、彼女は困惑していた。


「……我らが慈悲深い“王”はもっと穏やかに、交渉によってアンドロイドの地位を上げることを所望なさっている。けれど、タクトはそれを生ぬるいと感じたようね。彼はあなたを人質にとって、あなたのお父さんをまず操ることで、より手っ取り早く決着をつけようとしているの」

「お父さんを……」

「あなたのお父さんはこのAI時代を創りだした者の一人……あなたも知っているでしょう? 安城泰明の日本における影響力の強さを」

「……」


 リリアの言っていることは理解できた。ただ、理屈の上で理解するのと本当に納得するのは別だ。安城は頷きもせず自分の膝元を見下ろしている。

 まさに彼女たちの間に沈黙が訪れようとしたとき、窓の外の様子を窺っていた男がこちらを向いた。


「おい、リリア。喋りすぎだ」

「……ごめんなさい。あんまり彼女が可哀想だったから、つい……」

「フン……話し相手になるのはいいが、世間話にとどめておけよ?」


 その男は窓の外を一瞥すると、再び口を開いた。


「タクトに連絡だ。何者かが一人、ここへ侵入したぜ」











 腰まで伸びる豊かな髪をした女は、地面に倒れ伏している小さな獲物を見下ろしていた。

 冥土の土産にと、その女の口から発せられる言葉はあまりにも残酷なものだった。


「脳を、侵食する……!?」


 四体のアンドロイドに組み伏せられたヤナは、その姿勢のまま絶句した。


「そうだ。この数十年間で、人工知能の性能は飛躍的に向上したと言われる……。しかし所詮は数十年。我々の知能は人間にはない、とある致命的な欠陥を抱えている」

「欠陥……?」

「……C∞クラス」


 女はいかにも憎々しげにその名を言い放った。


「大した戦闘力もないくせに、我々の思考の奥深くに触れ、その行動に影響を及ぼす属性……! あいつらは一体何なんだ!? 奴らの脅威を排除しない限り、アンドロイドが真に種族として認められることはない!」

「……」

「我々は様々な方法を試したさ。あるときは、LEVEL 1のC∞を分解して、その秘密を探ろうとした! だが、だめだった。奴らの能力はその体の中には無かったのだ……。またあるときは、C∞の力が及ばない存在を生み出すために、人を攫って機械の中にその脳を移植したりもした!」

「なん……!」

「だがこれも、根本的な解決にはならなかったのだ。試作品の生存率は絶望的だったし、何よりもし成功したとしても出来上がるのは人間の意志を持ったサイボーグ。やはり既存のアンドロイドたちから不満が漏れはじめてな……」


 ヤナは激しい憤りを感じていた。人間のことを単なる実験材料としてしか捉えようとしない奴らのやり方に、強い嫌悪を抱いた。


「C∞に対抗する存在を作り出すのはもちろん、その抵抗力を自らに取り入れたいという思いもまた拭い去れなかったのだ。……そして我々ヴィーナスは見いだした。奴らを打倒するための究極の方法を!」

「……それが、“人の脳を侵喰する”ってことなのね」


 女は愉快そうに唇を舐めた。


「そうだ。奴らがどのようにして力を発揮するのか、詳しいことは分からない。だがその能力が我々の頭脳を繋ぐ何らかのネットワークによるものならば、そのつながりを断ち切ってしまえばよい! 我々ヴィーナスが開発した装置“グール”は、使用者のパーソナリティーを対象に入力し、その意志を奪うことが出来る!」


 脳を移植したかと思えば、今度は個人そのものを制圧する。C∞クラスを倒すためにここまで非道なことが行われていたなど、ヤナは知らなかった。


「仮に脳を奪ったとしても……」

「体が生身のままだとアンドロイドに対抗できない、って? この“グール”を使用した人工知能はね、その体を一時的に放棄することになる。そして意識を注入された対象は猛烈な空腹を覚え、それを喰らい、肉体が改造されるのだ!」

「喰らう……!?」


 大部分が無機質でできたアンドロイドの体を、喰らう。

 その情景を、ヤナにはイメージすることが出来なかった。


「どうやら全身の細胞が異質な変化を遂げて、無機質を受け入れるようになるらしいが……まだ実際に見たことがないのでね、詳しくは分からない。だが今夜、それを見ることが出来る。」

「……?」

「安城由羽の肉体でね!」

「!!」


 ヤナは頭だけ起こし、相手を睨みつけた。


「どうしてユウちゃんを……っ!」

「………我々アンドロイドの希望の光、グール。数年前その人体実験をしている最中、生身の刃が突然実験室に侵入してきた」

「……?」

「ヴィーナスと癒着していた研究員を、アンドロイドともども粛正しにきた、というわけだな。その事件で、我々は仲間の半分を失った……。日本中のお偉いさん方のなかにも、『人類の強化のため』と称してその実験に投資していた者もいたようだな。その事実は、巧みな工作によってすぐにもみ消された……」


 そこで一度言葉を断ち、次の瞬間さらなる憎しみを込めて言い切った。


「だが自分の部下の汚職を見抜き、生身の刃に告発した安城泰明は、この事件を明るみに出す機会を虎視眈々と狙っているのだ!!」

「それで……そんなことで」

「そう。グールの生産を停止させられた以上、ヴィーナスの当面の目標は安城泰明の排除。報復、制裁だ!! しかし奴を直接狙うのは難しい。そこで我々はその一人娘、安城由羽に目を付けた!」


 蛇が月夜に吼えている────ヤナの目にはそう見えた。蛇が狡猾かどうかは知らないが、この女の目は蛇と同じ、したたかな狡さを含んでいる。


「さすがの奴も、自分の娘を奪われれば狼狽えるだろう? そこで奴からたんまりと身の代金を強請り、人質を解放する。父と娘の感動の再会の瞬間、アイラと化した我が子に心臓を貫かれるってわけよ!! ……ぷっ、アハハハハハッ! なんて愉快なんだ!」


 ヤナは強く拳を握りしめた。アスファルトで擦れて指の皮が剥けたが、怒り以外は何も感じなかった。

 もう十分だ。十分喋らせた。この女にもう用はない。奴の世迷い言を聞くのはもうたくさんだ……


「ベラベラとよく喋る女ね」

「……何?」

「たかが見張りの分際で、そこまで話して良いのかしら……?」


 怒りによって、女の表情が醜く歪む。

 女は足を上げると、ヤナの頭を踏みつけた。


「自分の立場が分かっていないようだな!」


 相手を見下した目つきで、地面に踏みにじった。


「お前のようにひ弱な小娘が、一体ここへ何しにきた!」


 舗装された地面に擦り付けられ、ヤナの額はジャリジャリと耳障りな音を立てた。

 足をまた高く上げ、もう一度振り下ろす。


「このLEVEL 5のブランカを『たかが見張り』と……! 貴様は、どうせ、無能で、貧弱な、出来損ないの、LEVEL 1だろっ!!」


 言葉の合間にブランカは次々と怒りを踏み鳴らした。

 そのたびにヤナの頭は地に打ちつけられ、しばらくして動かなくなった。


「ハァッ、ハァッ……フン」


 息を整えながら彼女は、静かになった相手の頭から足を離して横を向いた。


「私としたことが、つい我を……」


 が、




「いいたいことはそれだけ?」




 まだ息があったか、とブランカが向き直ったとき

 ヤナを組み伏せていたはずの顔のないアンドロイド達が彼女に飛びかかった。


「なっ……!」

「LEVEL 5……? はっ!! ゴミ!」


 敵の手から解放されたヤナは、ゆらり、と立ち上がった。

 傷だらけの額の下で、殺意の籠もった瞳が相手を睨む。


「おまえたち!? 離せ! 離しなさい!!」


 形勢逆転。飼い主を見失った四匹の番人はブランカを、力任せに駐車場の柵に打ちつけた。


「私の命令を……うぐっ!?」

「フフッ。無様ね」


 飼い犬に腹を殴られた哀れな女の前に、ヤナは進み出た。

 口元こそ笑みを表現していたものの、その瞳は業火の如く、怒りに赤く燃え上がっていた。


「どきなさい。下僕たち」


 今や彼女の意のままとなったアンドロイドどもは、従順に道をあけた。肩が触れるほど近くを通っているにもかかわらず、彼らはブランカに進むヤナを止めることをしなかった。


「か、はっ……!」

「このメスザルに、格の違い、ってのを教えてあげるわよ」


 ヤナが女の首を締め上げた。

 彼女の目がひときわ強く煌めいたかと思うと、対照的にブランカの瞳は力を失ってゆく。


「そのまま自分を責め続けなさい!」


 手を離すと、ブランカはふらふらと歩き始めた。

 そして近くの電柱を両手で掴むと、いきなり額を打ちつけ始めた。


「ウフフ。愉快な姿ね」


 ガン、ガンと断続的に響く衝撃音の中、今度は口だけではなくその目も嘲笑していた。


「このC∞のLEVEL 9を……」


 彼女はエントランスに向けて歩き始めた。

 その声は悪女そのものだった。


「……“神に最も近いモノ”を本気で怒らせたことを、そこで後悔するが良いわ!」











 東と舞浜の二人にあの悪魔のような男を任せて走り去った弓月は、しばらくして二体の演習用アンドロイドと遭遇した。

 どちらもC1クラスだったのであのときのように特殊な攻撃に惑わされることこそなかったものの、一刻も早く安城のもとへたどり着きたい彼女としては、もどかしさを感じざるを得なかった。

 彼女は隙をついてそのうちの一体を思いっきり蹴り飛ばした。


 後ろ向きに倒れた奴の首が道路脇のガードレールに衝突して、機能を停止したのは運が良かった。敵が一体ならばそう難しくはない。残りの一体もすぐに切り捨てた。


 彼女は先を急ごうと前を向いた。すると……


「なっ!? なんで、あんなに……!」


 その視界の先、50メートルほど先の暗闇に五体以上のアンドロイドが見えたのだ。


「どうして、こいつらが、ここに……」


 とにかく、ここは回り道をするほかなかった。

 曲がり角まで引き返そうと後ろを向いたとき、


 ────そこにはいるはずのないものが、いた。


「おや、こんばんは。また会いましたな」

「……!?」


 今頃は東と舞浜が引き留めているはずの男が、目の前に立っていた。


「……っ!!」


 全てを察した弓月は、何も訊かずただ向かっていった。

 この男があの二人をどうしたかなど、愚問。“岩波が右腕を失った”事実が頭の中に反響する。


 だがやはりその身体には一切の剣戟が通じず、どんなに攻撃を続けても、次第にその刃がぼろぼろにつぶれてゆくのみであった。


「あなたは何なの!? どうして安城さんを狙うのよ!」


 悔し涙を流しながら、彼女は叫んだ。近くにいるアンドロイドのことなど、構っていられなかった。

 刃が弾かれる音が、悲しい余韻を残して、止んだ。手首を捕らえられたのだ。


「やめておきなさい。あなたには抵抗する術など無いのです」


 そう言ったかと思うと、彼女の腕からアタッチメントを力任せに取り外した。そして、向かってくるアンドロイドを制しながら、それを握り砕いた。


「下がりなさい。たった一人の淑女に対して寄ってたかって……」

「『寄ってたかって』ですって……?」


 弓月はその悪魔を睨みつけた。武器を奪われてもなお、彼女の目は闘志を失っていなかった。


「アナタにも仲間がいるんでしょう。あんな残酷なことをしてまで安城さんを追い回しておいて、よくもそんな……戯れ言を……っ!」

「フム。痛いところを突かれましたな。……まあこちらには事情があるのですよ」


 その神経を逆なでするかのような態度とともに、奴は左手に小さな円盤を取り出して見せた。


「それは……?」

「“グール”」


 それは弓月には聞き慣れない言葉だった。


「アンドロイドをより完全なものとするための組織“ヴィーナス”の、究極の武器!!」

「ヴィーナス……」


 アイラは顔を上げた。どうやらこの女、我々を知らないらしい。

 彼は意地の悪い笑みを浮かべ、続けた。


「そう。アンドロイドを種として定着させ、人類との共存を図る組織。この“グール”も、人と機械の絆をより確かなものにするために生み出された装置なのですよ」

「それは、一体……」

「……これは人類に強靱な肉体と、溢れんばかりの生命力をもたらします。つまり、種としての人類を存続させながら、我々アンドロイドの強みを生かす。まさに両者共益、と言ったところですな」

「そんなことが……」

「当然、最初は不幸な事故も多発していました……。だが権力者達の援助も得て、数年前、ついにこれが完成したのです!」


 そう言ってアイラは高ぶった感情が溢れだしたかのように右手を振り下ろした。


「……それが安城さんと何の関係が」

「ふむ……。実は彼女のお父様、安城泰明さんに頼まれましてね。…自分の娘に不死身の肉体を与えてやってほしい、と」

「何ですって……!?」

「どうやら彼は一人娘が可愛いくて仕方ないようでしてね。本人が嫌がっても良いから、是非にと……。そこでこのわたくし、C1級のLEVEL 8であるアイラが一肌脱がせていただきましょう、というわけです」

「そんな……信じられない!」

「信じる、信じないは個人の勝手ですから……。まあいずれにせよ、彼女の一流の狙撃の腕とどんな攻撃も通さないこの身体、この二つが合わされば、向かうところ敵無しです。彼女にとっても、悪い話ではないと思いますよ?」

「よくもそんなデタラメを……! 私たちの仲間を拷問までしておいて!!」

「そんな恐い目をしなさんな。改めて言いますが、私たちには戦う理由がないのですよ? ……彼女たちのように、愚かにも私を止めようと言うのなら話は別ですがね……」


 その一言に、弓月はキレた。命を懸けた自分の仲間を、笑いながら「愚か」などと……

 しかし奴の言うとおり、刀を奪われた彼女には為す術など無かった。その喉笛を引き裂こうと飛びかかった弓月をアイラは冷静にたたき落とした。


「どうかやめてください。この紳士アイラ、か弱い女性をいじめるようなマネはしたくないのですよ……」


 そう言って奴は背中を向ける。

 最早弓月など取るに足らない、戦うまでもない相手だ。と、その後ろ姿は語っていた。


 その去りゆく背中を見ながら、弓月は自分の中にこれまでに無い憤怒が湧き上がってくるのを感じた。


 憎い。

 あいつが、憎い。


 彼女の仲間をことごとく凌辱し、彼女の友を手にかけようとするその男を、許すわけにはいかなかった。

 弓月は拳を握った。

 怒りの全てをその手に集約するように。


「待ちなさい……」


 彼女は弾丸のように地面から飛び出し、男を倒した。

 

「待ちなさい!」


 男は少し驚きはしたものの、すぐさま余裕の笑みを浮かべ、彼女の首に手を伸ばそうとした。無駄な抵抗を続ける女の首を折って、さっさと楽にしてやろうと……


 しかし弓月が怒りにまかせて振り上げた拳を見たとたん、表情が一変した。

 その右腕には……













「ぐあああああああああっ!!」


 弓月の拳をとっさに受け止めたアイラは、その直後、左腕を押さえて悶えはじめた。


「う、腕がっ! 腕がああぁぁ!!」


 彼の左腕は、関節から下がきれいさっぱりなくなっていた。

 弓月の手がそこに触れたとたん、いとも簡単に切り落とされたのだ。今その腕は彼の頭のすぐ横に転がっていた。


 弓月の方はといえば、怒りで完全に我を忘れていた。全ての攻撃を無効にする悪魔の腕を切り落としたことに対しても、何の感慨も抱かなかった。


「し、白金剛を……貴様何者だアァァァ!」


 紳士のマスクを剥がされたアイラの顔を睨んで、弓月はその手に力を込めた。

 彼女が一歩踏み出すと、奴は怯えだした。


「く、来るな……くるなあああぁっ!!」

「はあああああああっ!」


 渾身の一撃を奴の腹に突き落とすと、最期に断末魔の叫びをあげて、終わった。


「はあっ! はあっ……!!」


 弓月は、自分の腕を見た。最凶の相手を倒した、その腕を。

 

 そして、彼女は見た。自分の腕から、まるで猛禽類の鉤爪のように、鋭く湾曲した刃が一本、突き出しているのを。

 それはひどく刃こぼれしていたが、彼女が見ている前で、徐々に鋭利さを取り戻していった。


「いっ……」


 そしてそれは、音もなく彼女の腕に収まった。


「いやあああああああっ!」










(これは一体…?)


 しばらく敵のいない道が続いたかと思うと、不意に彼の目にその光景が飛び込んできた。

 十体近いアンドロイドが、あるものは胸が吹き飛び、あるものは首をなくした状態で、無惨に捨て置かれている。さきほど誰かの悲鳴を聞いたような気がするが、これと関係しているのだろうか?


 雨宮はそっと近づいて、左腕を切り取られた男の顔をのぞき込んだ。すでにその目は光を失っており、恐怖の叫びをあげるかのように、口が大きく開かれていた。

 見ると、腹にも風穴が空いている。傷口から血が一滴も流れていないことから、この男がアンドロイドであることが分かった。


(こいつも安城を捜していたのか?)


 だとしたら、こんな状況を作りだしたのは、一体誰なのだろう? それに、さっきの悲鳴……。

 雨宮は先を急ぐために立ち上がった。








「捕まえたァ!!」







 そのとき突然、死んでいたはずの男が足首を掴んできたのだ。そいつはそのまま雨宮を引きずり倒した。


「ヴっ!?」

「フ、フクシュウだァ! 復讐するんだァァ!」


 前のめりに倒れた雨宮の背中に、腕が押しつけられた。そこから強烈な痛みが広がっていくのを、雨宮は感じた。


「うあああああああっ!!」

「安城泰明の命などもういい! 貴様は私とともに安城由羽を殺すのだ!!」


 痛みに悶え、彼は抵抗する力を失っていた。急に背骨に冷たいものを感じ、寒気が後頭部にまで到達したとき、遂に彼の意識は途絶えたのだった。








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