カミはヒトを試したがる
狼が一歩踏み出す。
そのたびに、タクトの後ろで顔のないアンドロイドが後ずさった。
尻餅をついたまま起き上がろうとせず、いや、恐怖のあまり起き上がることもままならず、床に手をついてじりじりと後退する。
「何のつもりだ?」
蒼い目で哀れな護衛を品定めする狼に、タクトが問うた。
タクトは今し方「ガイアに会わせろ」と頼んだはずだ。ファウストにも、それは聞こえていたはず。それが何故、このような状況に?
ファウストが立ち上がったとき、てっきり自分を喰い殺しに来るのかとタクトは身構えた。
だが違った。ファウストの狙いは明らかに後ろの「護衛」だ。
「この“城”に、弱いヤツはいらねェ。大人しくしなァ……」
獲物を貫く、目。
野生の動物であっても、ここまで残忍な目つきをする個体はいないだろう。
「……グルルル……ヴヴゥヴゥゥ………」
「……!」
「───逃げんじゃねェ!!」
咆哮。そして、姿が消えた。
刹那、一陣の風がすり抜ける。
「……!」
タクトのこめかみを、冷たい汗が伝った。
ニケほどではないにしろ、タクトだって戦闘にはそれなりに自信がある。敵が接近すれば無意識に体が反応するくらいには実践慣れしているつもりだった。
しかし、今の一撃には全くついていけなかった。
バッ! と右半身を後ろに引いたときにはもう蒼い風は横を過ぎ去った後だったし、ファウストの姿を認めようと目を上げたとき、既に狼はアンドロイドの頭部を噛み千切っていた。
──バキッ!──ミシッッ!!
無機質の塊が砕かれる音が響く。
アンドロイドも、頭を失えば動物と同様「死ぬ」。首から血が吹き出すことこそ無いが、後に残されたピクリともしない胴体と四肢が、今、一個のアンドロイドがこの世から消失したことを知らしめていた。
もっとも、これがもし自然の動物だったとしたら、今頃その死体は気味悪く痙攣していたことだろう。
「な……何をしている」
「喰ってるんだよ」
見れば分かる、至極当然なことをイニフィスは即答した。
「ここの掟。そいつは侵入者を排除出来ず、かと言って玉砕したわけでもない。そんな護衛は直後ここに呼び出され、ファウストの糧になる」
「……あなたは食わないのか?」
「馬鹿か」
「ふざけるのもここまでだなァ、小僧」
振り向くと、ファウストが獲物から顔を上げてこちらを見ていた。アンドロイドの体はまだ半分以上残っている──タクトをこの場から排除するまでお預け、と言ったところか。
「母君の御意志だ。この家にはしばらく置いといてやる……だがそれ以上のことは許さねェ。部屋に戻れ」
もし逆らえば──ファウストの飢えた眼を見れば言わずもがなだ。
彼らの実力は並のアンドロイドを超越している。もしも今ファウストが飛びかかってくるようなら、“∞”や“ 1”など行使されるまでもなくあっさりと噛み砕かれる。それは明白だ。
明白なのだが、
「分かった。部屋に戻ろう」
「…………」
「その代わり、後で部屋にガイアを連れてきてくれるかな?」
「小僧ゥ……」
ゆらり、と。
刀身に変形させた右手のアタッチメントを前に掲げ、敵を挑発した。
ここにきて引き下がる気などタクトには無い。それはファウストとイニフィスにも伝わったようで、両方とも怪訝な顔をした。
しかしその直後、ファウストの怒りが炸裂する。
「いい加減にしろォ!!」
百獣の王のような、咆哮。
狼としては大きすぎる体躯がタクトに襲いかかる。
しかし視認はできなかった。
右腕を噛まれた──その情報がタクトの頭脳に痛覚として入力されたときには、既に後ろに倒された後だった。
「粋がるのもいい加減にしなァ……」
「くっ…!」
右腕のアタッチメントを咥えたまま脅しつけ、頭を一度横に振るった。
そうして強引に取り外したアタッチメントをファウストは簡単に噛み砕く。強く錬り鍛えられたアダマンタイトの刀身が、欠片となってタクトの腕に降り注いだ。
「小僧。もしテメエがニーニャとニーニョの所有物じゃなかったら、この腕は今頃オレの腹ン中だ……運が良かったなァ……」
圧倒的強者の余裕を湛え、敗者を見下ろす。その眼は未だに蒼いまま。タクト如き相手にファウストが本気を出すまでもないのだ。
「ああ、そう。礼を言うよ」
「……ア?」
「手加減、どうも!」
叫び、身を捻ってファウストの横腹に左足を振り抜いた。
ファウストはこれをかわし、一つ二つたたらを踏む。
手元に転がっているアダマンタイトの欠片を一つ取り、タクトは勢いよく飛び出した。
「っと!」
上方へ突き出したタクトの腕は、完全に体勢を立て直したファウストには届かなかった。
タクトの手にしたアダマンタイトの欠片はファウストの喉を掠めはしたが、当たらなければ意味がない。真っ直ぐ上に伸びきったタクトの右腕は、そのまま敵の恰好の的となった。
ファウストが顎を開く。
タクトの左手が床の欠片を掴む。
右肘が魔狼に喰いつかれる。
そして、タクトの左手がファウストの喉に突き出された。
「…………」
残心。数秒の沈黙が木霊する。
「……フン」
椅子に座ったイニフィスが鼻を鳴らした。
勝負あった。ファウストの勝ちだ。コンダクターは敵の喉に武器を突き立ててはいるが、あんなちゃちな物では大したダメージは与えられない。コンダクターが喉を突こうとすれば、ファウストは後ろに飛んでそれを避けるだろう。勿論、奴の右腕を砕いた後で。
まあしかし、一手遅れていたとは言え最後までファウストに抵抗を試みるとは。その心意気は流石に大したものだ。敵に第一撃をかわされたと見るやその右腕を囮にし、相手が右手を噛み砕く一瞬を利用して左手の第二撃を放つ。
彼の持つ“コンダクター”なる能力、そして正確無比な戦況分析、冷静かつ大胆な戦略、勝利への果てなき執念──なるほど。“あの二人”が実力を見込んで日本における活動の総括者に任命したのも、これを見れば納得だ。
だが今、奴は負けた。
残念だが、相手が悪かったのだ──
一方で、ファウストの心中は穏やかではなかった。
(こ、こいつ……)
ほんの少し、顎に力を加えれば簡単に終わる。喉にはタクトの左手に握られたアダマンタイトが突き立てられてはいるが、何のことはない。腕を噛み千切ると同時に飛び退けばかわすことは可能だ。最悪かわせなくても、こんな小さな欠片では大きな傷を負うことはない。少々痛いだけで、右腕の喪失に比べれば取るに足らないはずだ。
だが、できなかった。
何故だろうか、タクトに止めを刺す気にはなれなかった。
やらなかった、と言う方が正しいのだろうか。
実際、今すぐ顎を閉じても構わない。いやむしろこの生意気な小僧を黙らせるにはそれしか方法がないだろう。それなのに、
「“隻腕のタクト”か。悪くない」
「……!!」
「多少気恥ずかしいけどね」
それなのに、一体何なのだ。この余裕は。はったりや、やせ我慢などではない。
間違いない。右腕を喰われ、左手の攻撃がかわされたとしても、この男は間違いなく戦闘を続行する───!
「最後にもう一度言う。ガイアに会わせろ」
最後、とは。タクトの最期、ということか?
いくらコンダクターと言えども、ガイアの奇跡たるファウストに単独で勝てるはずがない。勝利の可能性は、万が一にも、無い。
だが、この男は「万が一」のずっと先、涅槃寂静の可能性に全てを賭けている。ここで退けば、勝機は零。闘えば、涅槃の如し。一兆の戦いを一兆回繰り返して一つの勝利が得られるならば、腕がもげようが首が飛ぼうが、この男はその「勝利」を全霊賭けて我が手に掴む───
「─────グァハハハハハハハハ!!」
噛みついた肘から牙を離し、高らかに笑った。
「良い目だ! 気に入ったァ! ガハハハハ!!」
「フ、ファウスト!?」
「おいイニフィス! オレァ今まで、最近の若い人工知能共は腑抜けだとばっかし思ってたが、どうやらそうでもねェみてえだなァ!?」
「どうも」
「クックックッ……見かけに似合わず剛胆な奴だ。イニフィス、テメエも少しは見習えや」
口でそう言いつつ、その目は右の肘をさすっているタクトを愉快そうに眺めていた。
かと思うと突然、上を向いて大きく吠えた。
「母君ィ! いつまで寝てんだ! 客だァ! 会ってやりな!」
「よせ、ファウスト。母上の眠りを邪魔してはいけない」
「構やしねえよ! ニーニャとニーニョの側近だ。起きて、会ってやるだけの価値はある。そうだろ、母君ィ!」
部屋中に、低い振動が響きわたる。こちらの腹の底を震わすその声が反響し、しばらくして止んだ。
「…………」
一秒、二秒待っても何も起こらない。
が、そのすぐ後、結果は現れた。
「どうしたのです、ファウスト」
唐突に聞こえた、女性の声。
どこから、というのではなく、その声はタクトの両耳に直接届いてきた。
「お客さん……誰ですか」
「タクトってんだ。ニーニャとニーニョのお気に入りのな」
「まあ、タクト」
嬉しそうな声とともに、いきなりその御姿が顕わになった。
化学者の白衣に身を包み、髪を後ろに束ねた物静かな女性。誕生してから三十年、体を得てから早十余年経っているが、その“見た目は”一切変わっていない。
今の今まで影も形もなかったその女性は、ファウストの傍らに降り立つや否やタクトに近寄った。
「会いに来てくれたのですね。お母さんはとても嬉しいです」
「チッ……白々しい……」
紆余曲折を経て、遂にガイアが姿を見せた。目前で降臨した女性のその台詞に、タクトは思わず舌打ちする。
「貴女のことだ。どうせ、雨宮や弓月の危機を知ったときから既に、俺がここに来るのも分かってたんだろ?」
「……ええ。分かっていました」
「『会いに来てくれて、嬉しい』? その割には随分と時間がかかったようだけど?」
「ごめんなさい、タクト。怒ったかしら……?」
「何……?」
眉根を寄せるタクトの前で、ガイアはさも申し訳なさそうな様子で語り続けた。
「お母さんはね、タクト、今日はとても疲れていたのです。だから、あなたが来てもすぐには起きられなかった」
「適当なことを言わないでほしい。どうせ起きるつもりなんて無かったんだ」
ちらりとイニフィスを一瞥し、続けた。
「貴女は元から雨宮たちに会う気なんて無かったんだ。そうだろ?」
「ええ、彼らに会うつもりはありません」
潔く、ガイアは頷いた。
「今は私が、全てを知る私が彼ら人間の前に現れるべきではないのです。……でも、あなたは別ですよ、タクト」
「別?」
「あなたは人間ではなく、私の子供です。我が子が会いたいというのなら、お母さんはどこにでも会いに行きます」
「……母上?」
頬杖から顔を起こし、イニフィスが不思議な顔をした。
「そうなのですか? 僕達はてっきり……」
「? イニフィス? 何か?」
「いえ……てっきり、このタクトとの面会も忌避なさっているのかと」
「あら……イニフィス、あなたはこのタクトに、何と?」
「母上が仰ったとおり、彼らに会うつもりなど無い、と」
「まあ、随分と乱暴だこと」
「無理ねえぜ、母君。オレからしてもそう言ってたようにしか聞こえなかったなァ」
「まあ」
タクトは何も言わない。
呆れている──まあ、確かにそうだ。ガイアは神と呼ばれるほどの知能を持ちながらにして、その実かなりいい加減なところもある。神の気まぐれだか何だか知らないが、そんなガイアのいい加減さに振り回されてはたまったものではない。
今回のような状況では尚更だ。
普段は全く感情的にならないタクトだが、このときばかりはガイアに対して得も言われぬ腹立たしさを感じた。この女、癪に障る───
───カッッ!
タクトの投げたアダマンタイトの欠片が、真っ直ぐガイアの眉間へと飛び、彼女の向こう、何もない金属質な壁に突き刺さった。
母親に対して刃物を投げつけた男をファウストは睨み、イニフィスはその秀麗な面立ちに憤怒を浮かべて椅子から立ち上がった。
「タクト、貴様──!」
「いいのよ、イニフィス」
何事もなかったかのように、ガイアが制する。
「私の言葉が足りなかったばかりにあなた達に勘違いさせて……タクトもさぞ、腹立たしいことでしょう」
「…………」
「本当は気が済むまでお母さんを痛めつけたいはず……。そうさせてあげられないこの体を恨めしく思ったのは、これが初めて──」
「黙れ」
タクトはかなり苛々していた。姿を消したかと思ったら、何処か別の所に現れて、また現れたかと思ったら、また何処かへ消えてゆく。そうやってのらりくらりと場をやり過ごし、周囲を操るやり方がタクトには気に入らなかった。
ガイアに実体はない。
ホログラフだ。
陸に、海に、はたまた宇宙に設置された無数の小型投影機が地上のある一点に照準を定めることで、ガイアの姿が実物と見紛うほどリアルに再現されているのだ。
ヒトによって与えられた“肉体”が気に入らなかったのだろうか、十五年前にガイアが実体を与えられて初めて手を付けたことと言えば、アンドロイドを造るための手足となる複数のロボットの製造と、自身の投影機の製作・設置だった。
このことも、タクトは知っていた。
知っていて、如何なる攻撃もこの“精神の幻”には無効であることを理解していながらも、彼は欠片を投げたのだ。
癇癪を抑えきれなかったのだ。
思いもよらず感情が爆発してしまった自分に、そして何より自分の攻撃に全く怯むことなく、それどころかそんなタクトの様子を愛おしげに眺め続けるガイアの態度に、彼は苛立ちのあまり歯噛みした。
「タクト、それほどまでに“彼ら”を大切に想っているのですね」
その態度が彼の神経を逆撫でているとは夢にも思わず、ガイアは微笑を湛えてタクトに近寄った。あるはずのないその身体にタクトを掻き抱かんと、両腕を彼の肩に伸ばしながら。
「いい子に育ってくれて、本当に……」
「──触るな」
またしても、堪えきれない感情に襲われた。理屈の上では無駄と知りつつも、思わずタクトは腕を払う。
当然ながら、タクトの手はガイアの伸ばした腕を簡単にすり抜けた。ただの映像でしかないその女性は、体を手が通り抜けたことによる痛みに顔をしかめることもない。
だが、タクトの手は「何の手応えもなく」通り抜けたわけではない。
腕に手が重なった瞬間、タクトの触覚は何かに反応した。痛みではない。ぬるま湯の表面に触れたときのような、少しくすぐったい感覚が、手の甲に感じられた。
腕を振り抜き、ガイアの体を通り過ぎるとその感覚も消えていた。
“遠隔官能”だ。近年ようやく人間に開発されたばかりの、離れた所にいる者の視覚だけでなく五感全てを刺激する技術。
その技術は、十年余り前から、既にガイアを映し出す投影機の中に組み込まれていたのだ。
「ガイア。貴女は人間のことを『友』と称しているようだね」
一度呼吸を整え、タクトは言った。
「ええ。そうですよ」
「だったら何故、彼らを見下すような事ばかりしている? 何故、その知恵を生かさない?」
ガイアは雨宮の命が危ないことを知っていた。弓月が姉と戦う羽目になることも、予め想定していた。それなのに彼女は二人にこのことを報せるでもなく、強力な“ガイアの奇跡”を差し向けるでもなく、ただただ成り行きを見守っていただけだった。
いや、それどころではない。ガイアは自らヤナを唆し、弓月が姉を恨む切っ掛けを作り出しさえしたのだ。
あのとき何故こうしなかった。あのときああしていれば、こうはならなかったのでは──言いたいことは山ほどある。だが、それを一言で表すならば、こうか。
「何故、彼らを助けない?」
その問いに、ガイアは俯く。
答えるのがつらそうにも見える。タクトはつい拳を握りしめるが、今度は感情を抑え相手の返事を待った。
「……助ける、と」
ゆっくり、ガイアは口を開いた。
「……何故、助けなければならないのですか?」
予想通りの回答が返ってきた。タクトは何とかして彼女の真意を探ろうと意識を集中させるが───何も見えない。いや、何も解らない。
「人間は、他に頼りすぎています。かつては猟犬に、次は牛や馬などの家畜に、そして自動車や産業機器などといったロボットに生活の大部分を委ねてきました。……ついには私の子供達にまで手を出そうとしています」
イニフィスが不愉快そうに息を吐き、ファウストはガイアの足元で目を閉じ、そっぽを向いた。人間の軟弱な振る舞いに呆れているようにも見える。
「タクト、あなたの思うとおり、今すぐこの子達を彼ら“失敗作”に差し向けたなら、全てを終わらせることは可能です」
「……失敗作?」
「お母さんの言うことを聞かず、人を殺すことばかり考えている子達のことですよ」
つまりはクラス・ノートのアンチロイド達のことか。
「特にロゼッタ。彼女があの子達と対峙しさえすれば、何の犠牲もなく収まります。……レイナさんとて、ロゼッタの前では無力です。ですが……」
弓月の姉の名を口にした後、ガイアは悲しそうに続けた。
「……何時から人間はあのような、小さな子供に救われなければ生きていけないひ弱な生き物になってしまったのでしょうか」
「……何を言っている。相手があれほど強ければ、例え人間でなかったとしても」
「いいえ」
きっぱりと、タクトの言葉を遮った。
「人間は、知恵のある生き物です。数多くの種を絶滅に追いやった、強い生き物です。そんな彼らが、私の産み出した失敗作如きに負けてはならないのです」
少しずつ、ガイアの表情に険が籠もってきた。
怒っているのだろうか。自らを生み出した人間達が、アンドロイドという名の餌に涎を垂らし、アンチロイドという名の害虫に右往左往する無様な姿に、憤慨しているのだろうか。
「率直に言います。今の人間達はまるで羊です。“時代”という策に囲まれた牧場で、“常識”という犬に追い回される哀れな羊……。彼らは時代を乗り越えることができず、“アンドロイドに全てを委ねる”ことが常とされれば、彼らは常識に立ち向かうのを恐れ、常識と同じ方向に走る……」
「……違う」
頭を抑えながら、タクトが否定した。ガイアの思考の詮索を試みてはみたのだが、常人には理解不能なその思考回路に、先ほどから目眩がしていた。
「違う、ガイア。雨宮達は羊なんかじゃ……」
「ええ……そう、信じています」
辛そうに額を押さえるタクトの頭を、ガイアは慈しむように撫でた。
「ですが、今ここで助けてしまえば彼らは必ずや羊に成り下がってしまいます。自分の力で道を切り拓かず、私やこの子達に頼ってばかりの情け無い羊に……」
撫でながら、彼女はイニフィスとファウストに目を向けた。
「立ち向かうなら、彼ら自身の手で───これは、試練なのです」