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生身の刃  作者: δ
第二章後編:生身の諸刃
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迷い無き刃

「早い……!」


 彼らが外に出たときにはもう、弓月の姿はどこにも見えなかった。


「どうしよう、これじゃあ……」


 走りながら、不安げな言葉を安城がこぼす。

 彼女の心配も分かる。雨宮達が目的地に着く頃には、最早手遅れになっているかも知れない。

 このただならぬ磁力の源を目指して行けば、弓月に合流することは出来るだろう。だがその時には既にレイナもしくはツバサとの戦闘が始まっているはずで、下手をすると弓月が窮地に陥っている可能性もある。

 もちろん、弓月が本気を出した以上は、並の相手には負けることはない。しかしこの磁力……一体誰が、どうやってこんな大規模な磁界を生み出したのかは知らないが、これほどの力を持つ相手と戦って勝てる者などいないのではないか。

 断言したくはないが、そう錯覚させるに足りる迫力だったのだ、この磁力は。

 万が一にも、弓月はやられるかもしれない───


「……だったら尚更止まれねえだろ! とにかく走れ、安城!」


 僅かずつだが、体を引っ張る磁力が走るに連れて強くなっていた。

 間違いなく自分達は敵の場所へと近づいている。だとすればもう、あちらに到着するまでに弓月が倒されていないよう祈りながら走るくらいしか、自分達には手段がないのだ。


 背後の足音が少し遠くなったのに気付き、雨宮は後ろを見た。

 すると、PGオフィスを出たときには手の届く位置にいた安城が、いつの間にか5メートルほど後ろに離れたところを走っていた。


「はっ……はっ……」


 もう疲れが回ったのかと呆れかけたが、その様子はなかった。呼吸は整っているし、脚は滞りなく運動している。第一、安城だって言うまでもなく生身の刃の候補生なのだ。これくらいでバテるほどやわな鍛え方はしていない。

 では何故? 雨宮は心の中で首を傾げた。

 そして、周囲の状況に意識を向けたからだろうか、彼は直ちに気が付いた。

 自らの身体が妙に熱いことに。


(これは……)


 季節は冬の入り口、増してや今は夜中だというのにこの熱気。

 全身という全身に血が巡り、耳の裏が盛んに脈打っている。

 この感覚。雨宮には身に覚えがあった。

 “カルヌス機関”が覚醒しかけているのだ。


(そうか……これなら…!)


 普段の脚力だと弓月には追い付けないかもしれない。しかし“覚醒”した状態ならば───。

 少々リスクが伴うが、弓月のことを考えればどうのこうの言っていられない。

 ただ走っているだけでも既にこれだけのエネルギーを発しはじめているのだ。ここから意識して全力疾走すれば、すぐにでもカルヌス機関を活性化させることが出来るだろう。


「安城!」


 そうなれば、安城はこのまま置き去りにされてしまうことになる。

 だが彼女はそもそも狙撃手なのだ。考えてみれば弓月のすぐ側に駆けつける必要はないはず。それどころか、むしろ多少なりとも離れたところから支援を行う方が彼女の戦闘スタイルに合っていると言える。


「お前はこの辺りでポジショニングしてくれ! 弓月と合流したらすぐに場所を報せるから!」

「敵は近いの!?」

「分からない。あとどれくらいの距離なのか……だけどさすがに狙撃可能な場所にはいるはずだ。」


 安城の射程距離は500メートル。如何に敵が──レイナかツバサか、はたまたより強大な何かが──異常な能力を有していたからと言って、いくら何でもそんなに離れた所から磁力が届くとは考えづらい。

 安城は走りながら、周囲の建物を物色していた。

 建物の高さは元より、障害物の少なさも大切な要素だ。射線上に建物は無いか、屋上に囲いは無いか───狙撃時は体の軸を固定するために寝そべった状態でいることが普通なのだが、囲いがあるとそれが出来なくなる───そういった条件に沿う建物を見つけ出すのはあっと言う間にできることではない。

 それでも流石は名狙撃手だ。“高さ”と“視野”と、さらには“退路の多さ”も備え持つ建物を見つけ出した。

 学校だ。

 とは言っても安城達の視界には学校らしき建造物はない。彼女らの目前にある歩道橋。そこに掲げられた祝幕───「システムコンテスト北信越制覇 婦負(ねい)高専三年 稲垣康志君」と書いてある───に、どういう意図だか婦負高等専門学校までの道順が記してあったのだ。


「じゃ、透くん! 着いたらすぐ連絡して!」

「ああ。こっちも出来るだけ狙撃しやすい所に誘導するからな!」

「うん、お願い!」


 安城は引き返すために失速した。

 距離が離れたのを良いことに、雨宮は安城を不安にさせまいとして小声で呟く。

 “誘導”はチーム連携での基本戦術だ。仲間と巧く協力すれば、出来ない芸当ではない。

 しかし、雨宮はともかくとして弓月の方は誘導が苦手だった。それに、


「今の弓月に連携がとれるかどうかは疑問だけどな……。」


 下手をすると、いや、どんなに上手くやっても一人で無闇に突っ込んで行きそうだ。

 だが悩むのは後だ。

 こんな所で苦悶していても何にもならない。

 もっと言えば、いざという時になってみれば万事以外と何とかなるものだ。


「飯島班長がいれば話が早いんだけどな───」












 両足を踏ん張り、雨宮は突然止まった。

 靴底が煙を上げて、2, 3メートル滑り行く。


「安城……!?」


 距離が開いていたが、今の安城の湿った呻き声ははっきりと聞き取れた。


 銃声は、無かった。

 だがその時、雨宮の後方で安城は左の二の腕を押さえて地面に倒れ込んでいたのだ。


「あ……安城!」


 彼女の体の下から徐々に血溜まりが広がっていた。

 撃たれた、のか?

 誰に?


「おい、しっかりしろ! 何があった!?」


 焦りつつも駆け寄って、安城を抱き起こす。

 どうやら意識はあるようで、かなり痛そうな様子ながらも彼女は「わからない」と首を振った。


「誰だ!?」


 顔を上げて、引き返してきた道を振り返る。

 銃創は、安城の二の腕を後ろから掠めていた。服の袖が、後ろから飛んできた銃弾に巻き込まれたかのような形で裂けている。

 引き返した安城が後ろから撃たれたということは、発砲した何者かは雨宮の進路上にいたことになる。が、当然ながら彼はそんな怪しい人影など見てはいなかった。

 一体敵はどこから撃ってきたのか。


「クラス・ノートか? でも……」


 仮にクラス・ノートの誰かが姿を隠していたとして、なぜ「発砲」なのか。

 クラス・ノートが銃に頼るとは思えなかった。奴らならば自らの能力だけで勝つことが出来る。雨宮がツバサと邂逅した瞬間こそ拳銃を突きつけられたが、あれだって雨宮の防御力を確認するために過ぎなかった。最終的には奴も銃は使わず磁力で勝負を決めた。

 今、そこにいるのがクラス・ノートなのだとしたら、銃撃という手段をとるはずがないのだ。


 と。眼前の虚空に目を凝らし、敵の姿を見定めようとしていた矢先、


「────!?」


 銃を撃ったと思われる人物が、姿を現した。

 虚空の中から、突然に。


「何、だ……!?」


 雨宮達の周りには身を隠すような物など無かった。よしんばあったとしても、そこから銃撃したのでは安城にこのような傷跡を付けることは叶わない。

 では敵が姿形を消していたのだとしたら?

 物陰に隠れるのではなく、透明人間となって雨宮の目の前で堂々と発砲したのだとしたら?

 確かにそう考えれば辻褄は合うだろう。

 しかし何もないところから突然人が現れる様はあまりに予想外すぎた。

 雨宮の頭では状況の整理が追い付かなかった。

 しばしの放心の後、雨宮はようやく相手の容姿を認めることが出来た。

 宵闇の中から滲むように出てきたその姿は、混乱する雨宮に更なる追い討ちをかけた。


「………え」


 奇怪な出現を成し遂げたその人は、雨宮の知らない男だった。

 だが。雨宮は相手が「誰か」は知らないが、彼が「何者か」は知っている。

 雨宮の見ている前でゆっくりと下ろされる右腕。

 その先端には雨宮が演習中に装着している物とほぼ同じ、遠近切り替え可能なアタッチメントが取り付けられていた。雨宮が使う物との相違点はただ一つ。男のアタッチメントには消音器サプレッサーが付いていた。

 男の苦しげな表情の真横には、耳を塞がない骨伝導式のインカムが。殺気の感じられない立ち姿は、見慣れた任務服で覆われていた。

 その服の左胸の位置。そこには紫の糸で刺繍された、円に外接する八芒星が───


「───“ステルス”は有効なようだな。」


 雨宮が呆気にとられていると、さらに彼の右からいきなり人の声が聞こえてきた。

 何も分からぬまま右を向くと、そこではカーキ色のコートを羽織った人物がアタッチメントを取り外しているところだった。

 銃筒が格納されて短くなった狙撃バレルを無造作に捨てやり、安城を撃った男に問いかける。

 彼のコートの下にも同じく、〈生身の刃〉の任務服が着用されていた。


「しかし……如何せん消耗が激しい。本格的な実用はまだまだ先か。」


 彼がアタッチメントを投げ捨てるのを合図に、歩道橋の上、建物の屋上などからさらに五、六人の隊員が現れた。

 雨宮達二人の前に降り立ち、そのままこちらの様子を窺うように佇んでいる。


「あ、あんたたち……生身の刃……」


 安城の傷と彼らの任務服を交互に見て、雨宮が気の抜けたように呟く。

 と同時に周囲の隊員達の表情が一斉に強張った。


「なに、これ、どうなって……」

「………“雨宮透”、だな?」


 コートを羽織った男が形式的に述べた。

 そして彼は、雨宮の答えを待たずして次の台詞を放つ。


「君はテロリストとして、我々生身の刃に危険視されている。」

「…は……?」

「……我々も人を殺すようなことはしたくない。抵抗などせず、大人しく我々に連行されてくれることを切望する。」


 テロリスト───何の話だ?

 社会にアンチロイドが蔓延って久しく、最早“テロリスト”なんて言葉は死語に近い。それなのに、この生身の刃らしき人物はこちらのことをテロリスト呼ばわりし始めたではないか。

 当然身に覚えなどない。そもそも“テロ”と言うが、そんなものいつ、どこで起こったのか。

 もしも雨宮達を取り巻く一連の事件をテロと見做しているのなら、その被害者に降服を促すのは筋違いも甚だしい。


「ちょっと待ってくださいよ! 一体何を…」

「取り押さえろ。」


 何も知らない雨宮が抗議をするのは予想の範疇だったのだろう。

 先の説得らしき言葉は、本当に単なる儀礼でしかなかったのかもしれない。

 男は雨宮の方は見ずに、周囲の隊員達に向かって命令した。


「………。」


 しかし。

 指示は聞こえていたはずなのに、その場の誰も動こうとしなかった。

 指示を下しているところをみると、コートを羽織った男は隊長格なのだろう。

 隊長は、そんな隊員達一人一人を見渡して、最後に安城を撃った男、戦場の兵士のように髪を短く刈り込んだ人物の所で目を止めた。


「……できません……」

「須賀……」

「……隊長。自分には、出来ません。」


 「須賀」と呼ばれたその男は雨宮を、と言うよりは血を流して雨宮に抱えられている安城を見ながら、言った。


「…お前達もか?」


 須賀から目を離し、他の隊員にも問いかける。

 雨宮達を取り囲む隊員達は、ある者は狙撃バレルを、ある者は銃刀身両用パーツを、またある者はアダマンタイトで練成された大型の手甲をアタッチメントに装着していた。

 それぞれが並々ならぬ戦闘経験を持っているのは言うまでもないし、その任務服の下に“エンフォース”を仕込んでいたとしても何ら不思議はない。

 数の上でも圧倒的に有利。その気になれば、殺すことは難しくても、雨宮くらい捻じ伏せるのは造作もないことだろう。

 それなのに、隊員達はそうしなかった。

 隊長の問いかけに、誰一人として首を横に振る者はいなかった。


「───そうか。」


 作戦中は、どんな状況であろうとも隊長の命令は絶対だとされている。

 隊員達が動こうとしないことを知った隊長は、しかし、彼らを叱りはしなかった。


「お前達は、人の命を守るためなら、上官の命令にも背いてみせるんだな?」

「……申し訳ありません。」

「いい。構うな。」


 頭を下げる須賀に目を戻す。


「いいだろう。お前達は先の行動に戻れ。」

「は……」

「雨宮透との遭遇前の、アンチロイド討伐任務に戻れと言っているんだ。まさかこの命令にも従えないと言うのではないだろうな。」

「い、いえ、しかし……」


 命令違反を咎めるでもなく、それどころか捕獲対象を目の前にして部下達を解散させると言うのだ。須賀並びに隊員達が困惑顔になったのも無理からぬことだ。

 自分達がここから去れば、この雨宮透はどうなるのだ。

 まさかその任務を放棄するのか?

 否。そのとき隊長がエンフォースを起動させたのを見て、須賀は彼の成さんとしていることを察した。「少年を死なせずに済むかもしれない」との淡い期待は、脆くも崩れ去った。


「こちらは俺一人で片付ける。」

「隊長…!」

「…何だ? 命令違反の次は作戦の妨害か?」


 黒いグローブを着けた掌を二度三度開閉しただけで、エンフォースの感覚に体を慣らす。

 どういう感情の表れか、彼は皮肉な笑みを浮かべて隊員達全員に語った。


「今頃、“あの”アンチロイドは弓月ハルと交戦していることだろう。どうしても人間を守ると言うなら、先ずはレイナの破壊を遂行しろ。そうすれば弓月ハルは助かる……」

「ですが……隊長! レイナを倒した後は!? やはり我々は弓月ハルの抹殺も指示されているのでしょう!?」


 弓月の抹殺。それを聞いて雨宮は戦慄した。

 先ほどから生身の刃達は自分を取り押さえるかどうかで言い争っている。

 その結論がどうなるにせよ、今自分の身柄が危険に晒されているのは間違いないだろう。そして弓月の命までもが……。

 「雨宮透」に、「弓月ハル」。

 彼らの狙いはまるっきりクラス・ノートと同じではないか────


「隊長! やめてください! もうこんなこと……」

「それ以上の発言は許さん。さっさと現場に向かえ。」


 クラス・ノートは、生身の刃を支配下に入れたのか?

 そんな仮説が突如として雨宮の頭の中に浮上した。

 そんなこと、信じたくはない。あり得ない、馬鹿げた発想だと一笑に付してしまいたい。

 もしも安城が血を流して倒れていなかったなら、実際に彼はそうしていたかも知れない。四方に佇む隊員達に殺気が無いのを良いことに、隊長の“誤解”を解こうと必死になっていたとしても不思議ではなかった。


「この少年と、弓月ハル。二人を殺させたくなければ、レイナを倒した後で俺を殺せ。」


 生身の刃とクラス・ノートは、既に手を組んでしまっている。

 雨宮は絶望した。タクトや大川寺のSOSに対して生身の刃は行動を起こさず、ただ「クラス・ノートなるものは確認してない」と応じただけだった。

 その時点で彼らはとっくに自分や弓月を始末する算段を、クラメル達と膝を突き合わせて議論していたのだ。

 そんなことなど露も思わず、今の今まで生身の刃の応援を当てにしていた。出来るだけ長く生き延びていれば、いくら何でも彼らは動かざるを得ないだろう、と。

 しかし、事態は最悪だったのだ。


 隊員達は、人命のためならば命令違反をも厭わなかった。

それでも隊長を殺さねばならないとなると話は別だ。


「くっ………!」


 やり場のない憤りを鎮めようと、須賀が歯を食いしばった。歯だけではない。掌は固く握られ、眉間には深々とした皺がいくつも刻まれた。

 自分達〈生身の刃〉は人を護らねばならない。と言うより、そもそもそれが存在意義だったはずだ。

 それなのに自分は一体何をしているんだ。

 子供達を助けなくて良いのか?


 今ここで隊長と争うか、それともレイナを倒して弓月ハルを救い出すか。

 雨宮透を見捨てるつもりはない。しかし彼ら隊員達が選んだのは後者だった。

 このまま隊長を残していけば、雨宮透が猛攻を食らうのは避けられない。だが彼は、痛みを覚えることがあっても、物理的手段で死ぬことはないはずだ。

 レイナを倒して、ここに戻って来るまでどうか耐えてくれ───


 須賀は、覚悟を決めて敵地へと走り去った。

 隊員達はそれを見て、次に隊長に、次に雨宮と安城に目を向けた。しかし、迷いは見せたものの彼らも決心をつけたようで、エンフォースを起動させるとすぐ、目にも留まらぬ速さで駆けていった。


「アンタ、クラス・ノートと組んでるのか……?」


 後に残された雨宮は、隊長の目を見て問うた。

 隊長は何も言わず、頷くことでそれに答えた。

 雨宮の警戒が戦意へと変わる。

 最後に一度、安心させるように安城をぎゅっと抱きしめ、震える足で彼は立ち上がった。


「生身の刃、なんだろ? それがどうして……何でアンチロイドなんかと……」

「………。」

「……黙ってないで、何とか言えよ。」


 生身の刃の隊長格と言えばふつう、候補生のみならず一般市民からしても尊敬の対象である。

 状況が状況でなければ雨宮のこの態度は懲戒に値するが、


「あんなのと組んで何の利益があるのかは知らないし、知りたくもない。それが何であれ、“人類の武器”であるアンタが“人類の敵”に良いように使われてるのは変わりないんだろ。そんなのが……そんなのが許されるのかよ!」


 少年の怒りを、隊長はただ黙って受け止めていた。

 彼は目を閉じ、呼気を整える。

 雨宮の言葉に憤っているわけではなく、それはまるで懺悔の吐息のようであった。

 だが。悔いてはいても、それで任務を放棄することはない。


「……返す言葉も、無い。」


 言い訳など一切せず、少年の言葉が正論であることを認めながら一歩踏み出す。

 彼の戦意を察した雨宮は、真っ向から立ち向かっていった。出来るだけ安城から距離をとらねばならない、と、竦む両足を叱りつけて。


「────雷轟。」


 自身にしか聞こえない声量で呟く。

 たちまち隊長の“エンフォース”が断末魔を上げ、最期の二分間で全てを終わらせようとその身がカッと熱くなった。

 最早迷うことはない。

 この少年を潰して、その次は自分も───


 雨宮は、その一撃を捉えることが出来なかった。

 彼の目には、数メートル先にいた隊長が自分の間合いへと瞬間移動したようにさえ見えた。




 ─────ド、ゴッッ!!




 雨宮の頭が、一瞬で地に叩きつけられた。

 白金剛で覆われた頭蓋骨が砕かれることはない。しかしその衝撃は容赦なく彼の脳を揺さぶった。

 クラス・ノートのような変則的な技ではない、単純な抑え込み。そのあまりの激しさに、アスファルトで舗装された地面には痛々しいクレーターが生じた。


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