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生身の刃  作者: δ
第一章:夜間演習
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Artificial Intelligence

 2050年代、または“AI時代”。


 この時代、すでに人類は自らの手で生命を生み出すことに成功していたといってよいだろう。

 2020年代半ばに人工知能は驚異的な発達を遂げ、一文字一文字を自由に組み合わせた会話が可能となった。

 これによって、人工知能達はより自然に人間と意志疎通を図れるようになった。


 このことが刺激となったのか、あるいは偶然の一致なのか、他の工学分野もこれまでにない発展を遂げた。

 人体工学においては長年の課題であった安定した二足走行が成し遂げられ、物質化学の進展は、完成されつつあるアンドロイドに食物から高効率でエネルギーをとりだす“カルヌス機関”をもたらした。


 これらの輝かしい業績を目の当たりにして多くの人間は、人類全体としてはなかなかに珍しいことだが、未来に対してとてつもなく甘美な夢を見た。

 

 人に代わる、従順かつ優秀な労力が現れた、と。

 これさえあれば人が争う理由もないだろう、と。


 人間がそれまでの職業を失うことなど、もはやどうでもよかった。どうせそのころには人類はなにもしなくても生きてゆけるようになるのだから。

 この時点ではまだ、人々は彼らを生き物として捉えていなかったのだ。




 彼らが自らの意志を人間と共有しているうちはまだ良かった。

 高度に発達した人工知能は人間の知恵を身に付け、複雑な感情を持ちはじめ、人に対して「嘘」をつくようになったのだ。

 このことはすぐに明るみにでて、人々は声を大にして一斉に喚いた。

 

 そんな危険なものは造ってはいけない。

 そんなものに我々の生活は預けられない、と。


 なぜだろう?

 なぜ危険といえるのだろう?

 彼らの中に一度でも嘘をついたことのない人がいただろうか?

 彼らは、怖かったのだ。いずれ人類の下僕となる存在が、いかに些細なことであったとしても、人を欺いたということが。

 奴らが人に近づきつつあるという、その事実が。


 喧々囂々とした世論の中でも、アンドロイドは着実にスペックを上げ、その数を増やしていった。研究室の中で生まれ、研究室の中で育った最初の人工知能はすでに一流の工学者となっていたのだ。

 こうしたアンドロイドたちは一目では人間と区別がつかず、すぐさま社会にとけ込んでいった。

 しかし、いや、当然ながらというべきか、アンドロイドの存在を見抜いた者の中にはそれを拒否し、迫害しようとするものもいた。


 そのためだろうか、いつしかアンドロイドのなかにも人を拒み、攻撃するものまで現れた。

 人々はこれらを“アンチロイド”としてほかと区別し、抵抗を試みた。

 しかし、“アンチロイド”たちもアンドロイドと同様に身体能力では生身の人間を超越していたため、最初のうちはアンドロイドを差し向けることでなんとか凌いでいた。

 だがそれも束の間、すぐにアンチロイドの数はアンドロイドを上回り、対処が追いつかなくなる。


 この事態を目の当たりにして、日本ほか数ヶ国はアンチロイド鎮圧部隊を結成。部隊員養成のため、それまでの破滅しつつあった教育システムを大きく変え、新たに第一次研修機関(通称“中学校”)と第二次研修機関(通称“高校”)を設立した。

 これによって、すべての小学生は卒業のまえに“中学校”か、ほかの専門学校かの選択を強いられることとなった。


 当然、十代の少年少女を過酷な戦闘に参加させることに対しては反論もあった。

 しかし、アンチロイドの蔓延という現実、そしてなにより長い年月を経てやっと目覚めはじめた人としてのプライドの前でそれはあまりにも無力な抗議であった。




 かくして人類最後の誇りである対アンチロイド部隊、通称〈生身の刃〉が発足したのである。














「課題の達成、ごくろうさま。三人とも、怪我はないな?」


「「「ありません」」」


「そうか、よかった。今回の課題、いろいろと不測の事態が多く、大変だったと思う。そのなかでも君たち三人はとても有機的に行動し、よくやってくれた。が、しかし」


「「「…………」」」


「まず雨宮透。遊撃手があんなに簡単に背後を取られてはいけない。実地では全方位360°、さらには上空にまで注意を払う必要がある。わかるな?」


「ぐっ……、はい」


 神通第二次研修機関の西端、201号室で、雨宮、安城、弓月の三人は日課の一つである“班長見解”を受けていた。

 これはその日の課題における行動から、畏れ多くも飯島司班長が直々に各人の問題点を指摘してくださるというなんともアリガタイものである。正直キツい。


「つぎに安城。おまえは狙撃手で、唯一戦場全体を見渡せる位置にいる。だから時々スコープから目を離して、全体を眺めてみるんだ。そして今回みたいに班員に危険が迫っていたら、もっと早く知らせるんだ」


「うぅ……、はい」


 飯島班長はここ“神通高校”の3年で(第二次研修機関は4年制である)、中学校から上がってきた雨宮たち候補生を指導する役割にある。もしもこの一週間におよぶ適性試験で班長が「資格なし」と判断すれば、直ちに教員による審査にまわされる。

 が、そのようなパターンは例外で、大抵はこの期間中に基礎から知識をたたき込むということになる。


 三人の飯島班長に対する第一印象は、穏やかで、優しそうな好青年といった風だった。

 しかし、この人は任務のことになると途端にスイッチが入るのだ。安城など時々雨宮や弓月に泣きついてくるほどである。「透君~課題がコワいよ~」とかなんとか言ってくるのだが、どう考えても怖いのはミッションではなくミッション中の飯島班長だろう。

 

「最後に弓月。おまえは敵との距離を詰めすぎだ。いいな、相手を誘導するときは波状攻撃を心がけろ。特に今回のような相手では間合いに入り込みすぎると一発で致命傷を喰らうこともある。注意しろ」


「……はい」


「……まぁ、とにかく、問題点は多々あるものの、今まで見てきた限りでは君たちのチームワークは評価に値する……。三人とも合格だ。これからはここ神通高校で研鑽を積んでほしい」


「ほ、ホントですか!」


「お、おう……」


「よかったぁ……」


「どうした安城。何か問題でもあったか?」


「いっ、いえ! ただ…私は昔から射撃の腕以外からっきしで……。今回だってサポートが不十分だったし……ずっと『君は向いてないから帰っていいよ』っていわれないか心配で心配で……」


「……ふっ。そんなに心配しなくていいと思うぞ。狙撃手は射撃が命だからね」


「そうよ安城さん! あなたの百発百中の射撃があれば怖いものなしよ!」


「だいたい、背後を取られたのは俺のミスだよ。気にすんな」


「うぅっ。みんな……」


 はからずも後ろを取られたことを自分の口で明言する羽目になった雨宮は、話題を変えるために、雨宮と弓月に泣きついてくる安城を片手で押さえながら言った。


「にしても、今日は不自然なほどイレギュラーが多かったですね」


「そうだね。あの大量のケルベロスもだけど、ほかの班の乱入も……。そして何より今回の相手“特異点”。いかにLEVEL 2といえど、特異点を相手にするのは高校に入ってからになるはずだけど……」


 たしかに、今回の課題はこれまでのもの──アタッチメントの速やかな装着・変形や、グラウンドでの犬型兵器〈ケルベロス〉との対戦など──に比べればかなり大がかりなものではあった。

 しかし、それだけなのだろうか? 今回の度重なる異常事態は、その作戦の大きすぎる規模によるものだけなのだろうか?




 一時間半ほど前の、ケルベロスの大量出現。あのあとにも、妙な出来事は続けざまに起こっていた。



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