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生身の刃  作者: δ
第一章:夜間演習
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不意の遭遇

書くのってムズカシイ・・・

ー「妙な気分だよな。見慣れた街なのに」


 秋の寒々しい空の下で、少し湿気をまとった風が人気のない建物の間をゆっくりとながれてゆく。昼間でも太陽は低く、反して空は高かった。


ー「ええ、なんだか活気がないというか……」


ー「やっぱり、人がいるのといないのとで動き方もだいぶ違ってきちゃうよね」


 味気のない風景の中、雨宮透は目を凝らして敵影を、討伐すべき目標を見いだそうとしていた。


ー「……三人供、無駄口叩いてる余裕があるのか?」


ー「「「すっ、すみません!」」」


ー「第一、仕方ないだろ。まさか通勤ラッシュのど真ん中でやるわけにいかないんだからさ」


 飯島班長の言うことももっともで、雨宮たち四人がこれから行う“課題”には激しい銃撃戦や近接戦が伴う。

 彼らのうちの一人、安城由羽は高さ50メートルのオフィスビル屋上から狙撃支援を行っているほどである。いかに実地演習といえども“民間人”がいたのではその被害の規模は計り知れない。


ー「まあ、確かに安城の言うとおりかもな。実戦では周囲の人間の安全も確保しなくてはならないから、演習とは当然動き方も違ってくる。……だけど、いまはこれでいい……。雨宮! 目的地に着いたら40メートル以内で索敵待機! 弓月! ブロックの端まで北東に真っ直ぐ突っ切れ! 安城! 目標を発見次第雨宮まで誘導しろ! 何なら直接撃ち抜いても構わない!」


ー「「「了解!」」」


 ちょうどそのとき雨宮は最寄りのコンビニ「Fマート」の近くにいた。

 もちろん、この無人のコンビニへ買い物をしに来たわけではない。ここが彼の「目的地」である。


(弓月さんと合流するまで3,4分ってとこかな……)


 “適性試験”期間中でなければ雨宮たちもこのあたりはよく寄り道していたので、すでに地形は頭の中に入っている。


 弓月──弓月ハル。雨宮や安城とは出身“中学校”が違うので、実際には呼び捨てにするような関係でもないのだが──はいまから「北東に真っ直ぐ突っ切れ」だそうなので、もし“目標”と接触したらそのままここまで誘導してくるだろう。

 そうでなければ、北西にいるであろう討伐対象をもとめて雨宮が索敵を開始することになるはずだ。


 雨宮は早速周囲を探索した。遊撃手である彼は、主軸──弓月ハルと飯島班長──がくる前に露払いをしておく必要がある。討伐目標は一体でも、敵は単独ではないのだ。

 と、そのときだった。


(……いた……)


 バス停のベンチで、来るはずのないバスを待っているかのように座り込んでいる討伐対象の姿が、不意に雨宮の視界に映り込んだのだ。

 薄く引きのばされた雲を眺めているように見えるが、定かではない。奴に眼球などないのだから。


 遊撃手が真っ先に討伐対象に遭遇した場合、主戦力である闘剣手が到着するまでなるべくその場にとどめておくように指示されている。雨宮は無線をつないだ。


ー「こちら雨宮。Dブロック4三で対象に……」














ー「透君! 後ろ!」


 (なっ……)


 突然の、安城の無線。

 迂闊だった。

 雨宮が振り向くと、視界の端で犬型の影が動くのがわかった。


(ケルベロス!? いつのまに!)


 雨宮は瞬時に腕を構えたが、どうにもならなかった。敵は三体もいたのだ。


「やばっ……!」


 慌てて銃身を構えるも、敵は素早い。

 彼は死を覚悟した。どう転んでも、三体同時では勝ち目がない。

 奴らの俊敏な四肢が、雨宮の銃撃を難なくかわす。

 右に、左に、俊敏なステップで距離を縮める。

 ついに目前に迫った獰猛な獣の、骨まで砕く顎がおおきく開かれた。











 ────ガシャァン!!


 思わず頭を庇った直後だった。

 彼の前で、獣型アンドロイド“ケルベロス”が目にもとまらぬ速さで壁に叩きつけられたのだ。


「ゆ、弓月さん!?」


 獣は哀れにも地面に崩れ落ちる。

 雨宮の前には金色の髪を湿った風になびかせた、背の高い女性が立っていた。

 歳は雨宮と同じ十六。しかし才ある彼女は大人びた、聡明な空気をまとっている。左腕の装甲と右手の刀剣は、残りのケルベロスに油断なく構えられていた。


 彼らのチームの近中距離戦闘員、弓月ハルだ。


「雨宮君! 怪我ない?」


 弓月はこちらに背を向けたまま仲間を気遣った。


「は、早いっすね。まだ一分しか……」


「足には自信あるからね」


ー「雨宮! 状況は?」


ー「あ、ハイ! 目標と遭遇直後、三体のケルベロスに襲われました。……現在、敵数7! 増え続けています!」


 こうしている間にも建物の陰、コンビニの屋上などから大量の獣が現れていた。 今までどうして気が付かなかったのかと絶望する。


ー「目標は! お前らに気づいているのか?」


ー「恐らく……」


 気づいていないはずがなかった。


 先ほどまで呑気に座っていたはずの姿は、いまや突然現れたからくり仕掛けの犬どもに狼狽している人間を捕捉し、立ち上がっていた。

 

 人ならば目のある位置では、人のそれに匹敵する性能の光学センサーが赤く輝いている。

 センサーを保護するアイマスクの下から発せられるその光は、顔のない演習用アンドロイドに表情をもたせ、戦闘状態に入ったことを知らしめていた。


ー「やっべぇ……」


ー「俺ももうすぐそこに着く! 雨宮! それまで持ちこたえろ!」


ー「了解! 弓月さん、目標の討伐を!」


ー「ハイ!」

 

 頷き、弓月は討伐目標へと足を踏み出す。

 しかし、そこにはすでに二体のケルベロスが弓月の進路を阻むように回り込んでいた。


「くっ……!」


ー「弓月さん、どいて!」


 その声に、弓月は反射的に跳んだ。

 弓月が左に飛び退くのと目の前のケルベロスに大穴が空くのはほとんど同時だった。セラミックスが砕け散る小気味良い音が辺りに響き渡る。


ー「安城さん!?」


ー「こいつらは私たちに任せて、行って!」


 安城の超遠距離射撃がもう一体のケルベロスに命中し、弓月の行く手にあるものは目を怒らせたアンドロイドのみとなった。

 敵は腕に自信があるのか、逃げる様子も見せず、一歩、また一歩と近づいている。


ー「安城さん、支援をお願いできる?」


ー「すみません。ここからだとビルの陰で、対象を捕捉できません!」


ー「ん、オーケー。なんとか誘導してみるね」


 と言いつつ、彼女は左腕のアタッチメントを短刀から円い手甲に変形させて


「誘導って、ちょっと苦手なんだよね……」


 と呟いた。

 

 

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