人生は爆発だと誰かが言った、物理的意味で。
なんとか国のなんとか村。
ど田舎を絵に描いたようなその村の一角で、今日もいつものごとく爆発が起こっていた。
もくもくとあがる白い煙。
けれど道行く人々は特に気にした様子もなく、平然と通り過ぎる。
たまに立ち止まったとしても、「あらあらまた爆発したのね」ぐらいにしか思っていない。
田舎住民の慣れとは、つくづく恐ろしい。
――そんな村であった。
さて、問題の爆発を起こした民家の中では、17歳くらいの少女が、なんの怪我もなく椅子に優雅に腰掛けていた。
煤ひとつついていない、水色の髪を後ろへと流し、満足げに目を細める。
「ふふふ……」
少女、ティーラが不気味に笑う。
たった今出来上がったらしい何かを、とてもとても愛おしそうに持ち上げる。
「できたわっ、できたのよ! ついに完成よ――っ!!」
これは誰かに見せねばなるまい。そしてこの感動を分かち合うのだ。それが発明家としての努め!
と、迷惑極まりない意気込みとともに、いそいそと爆発した自宅を放置したまま、ティーラは駆け出した。
見かけは可愛らしいが、中身に問題あり。
そんな少女だった。
「帰れ――っ!」
「何よ、まだ何も言ってないじゃない」
「言わなくてもわかる。その手に持ったものを捨ててこい!」
「なんてこと言うの!? この私の素晴らしき発明品にむかって!」
だからそれが問題なんだ――! と少年は心の底から絶叫した。
青い瞳が特徴の、不幸なことにティーラの知り合いになってしまったライは、いつものごとく厄介物を持ち込もうとする危険人物を断固拒否していた。
家の玄関先に立ち、今日こそは……と。
「せっかくの休みなんだ、静かに有意義に過ごさせてくれ……」
かなり切実な願いだが、目の前の少女にはどこ吹く風。
胸を張って、どこか上から目線で言い放った。
「静かなんてつまらないわ。人生もっと刺激的かつ爆発的に生きなきゃ」
この人物の場合、本気でその字の通りに刺激的で爆発的な毎日を送っているので洒落にならない。そして巻き込まれる身としては、本っ当に洒落にならない。
「とにかく、絶っっ対にダメだ」
「うんわかった。じゃあ家の中に入らないから説明させて」
あっさりと引き下がり、これ、と問題のものを持ち上げる。
手のひらサイズの、見た目は可愛らしい、生き物……?
一見、ぬいぐるみに見えるのだが、なぜか……動いていた。
どうしよう、見なかったことにしたい。
扉を閉じて、そのまま布団に入れたらとっても幸せだろうなという思いでいっぱいなのだが、……このあたりで妥協しないとどうなるのか恐ろしい。
ライは涙を呑んで頷いた。
「……手短に」
「うん、えーとね、まずこれの生物紹介」
ティーラはにこっと笑った。
「分類、恐竜」
…………ん?
「機能。火を吐く、歩く、なんか食べる、喋る? 鳴く、巨大化……えーと」
「ちょ、ちょっと待て! いろいろ突っ込みたいところが山積みだけどちょっと待て! 巨大化ってなんだ巨大化って!?」
さらりと言われた怪しげな言葉の数々を前に、ライは無理やり何処かへと飛んでいた意識を戻した。
けれどそんな様子などまったく気にすることなく、というか無視してティーラはそれを高らかに掲げる。
「さあ、見るがいいわ!!」
にやり。
そんな形容がまさに似合う。
「って、何やってんだ――――っ!!」
「きゃ――――っ♪」
「喜ぶな目を輝かせるなぁぁぁぁぁっ!!」
愛らしかった恐竜は、まさに巨大化していた。決して成長したとかじゃなく、文字通り巨大化。なので、見た目はそのまま可愛らしいのだから、なんか余計怖い。
しかも、なんか暴走。
見た目が愛らしい、つぶらな瞳の生物が、手当たり次第に歩きまわって建物を破壊して火を吐いている。
「ああああああああ村が火の海にぃぃぃぃ!!」
叫ぶライをよそに、さすがに常は傍観している村人たちも、避難開始。
『おーい、そっち危ないからこっちこーい』
『ねぇ、またなの? お昼ご飯どうしようかしら……』
『あ、焼き芋なんてどうかしら?』
『さすが俺! ちょうど備蓄用にと思ってサツマイモがここに!』
『たまには役に立つじゃねぇか!』
『はははははは!』
だが、その様子がまた慣れた感じどころか、お昼の心配しかしていないような気がするのが、また何とも言えない。
が、常識人を自称するライは、ひたすら頭を抱えている。
「ああああああ」
「成功よー!」
「って、止めれないのかあれは!?」
「え? 何言ってるの?」
きょとんと、首をかしげる。
「そんな機能あるわけないじゃない」
「つけろといつも言ってるだろうが!!」
「大丈夫よ、そのうち止まるから」
あまりにもきっぱりとした、そのよくわからない自信に、ふとライは冷静になった。
「……またか?」
なぜか合わない目線。
それにライは確信した。
「単三電池か」
「えへ♪」
「…………」
ちらりと、いまだ被害をもたらしている物体と、のんきに焼き芋を作り始めた村人たちの姿を見て、ライは決断した。
よし、ほっとこう。
だって自分の家 に は 害ないし。
――悲しいことに、度重なる経験から、彼の家の防御結界は完璧だった。
「……さて、昼ご飯の準備するかな」
「あ、私にも何か頂戴」
そのまま何もせずに、ライは家に入った。
もちろんティーラもそれに続く。
自称常識人の彼ではあったが、それは“自称”であって、現実は立派な非常識人であったのは言うまでもない。
しかし、すぐに止まるだろうと思われていた恐竜は、なぜか予想に反して三日三晩暴走しまくり、村をほぼ全壊に追い込んだとか。そしてその間、周囲には常に、香ばしい芋の香りが漂ったという。
ちなみに、なぜ単三電池であれほど動けたのかは、作った本人にも永遠の謎である。
(個人サイトからの加筆修正掲載です)