第7回 追われる者
「いいか、そのまま後ろを向いて頭の後ろに手を置け。ゆっくりとだ」
謙蔵は恐怖と苛立ちの両方を抱きながら、深呼吸をしながらゆっくりと体の向きを変える。彼の目の前には線路でできたアーチが太陽の光を浴びながら、皮肉にも神々しくそびえ立っていた。
ーーくそ、こんなことなら難易度五の技に挑戦しとくんだった。
そんなどうでも良いことを考えている自分に笑えてしまう彼。後ろからは、謙蔵に向かって徐々に近づいて来るのが足音から推測できる。
その時、横にあるトラックのエンジンがいきなりかかり、バックで猛スビードで発進し始めた。謙蔵の後方にいたアーマードスーツを着た男はトラックによって吹き飛ばされる。
「行け‼︎ なんとか頼む‼︎」
葉山は謙蔵とすれ違う時に声をかけて、そのまま集団のいる方にバックで突撃していった。
相手も黙っていない。ビームライフルで乱射し、トラックを蜂の巣にしていく。
一台の単なるトラック対武装型浮遊アンドロイド二体とアーマードスーツを着た二人の戦いだ。勝敗は言うまでもない。エンジンが止まり、彼らの手前で元気無く止まってしまう。
すると葉山はサイドガラスから顔を出し、ニヤリと笑った。
「最後まで足掻かせてもらうぜ」
ハンドルの下についているレバーを引いて暗証番号を入力すると、トラックは勢いよく大爆発した。彼らを巻き込み、あたり一面を焼き尽くしながら轟音と共に爆ぜていく。
謙蔵は頭を抑えながらしゃがみこむ。トラックであったであろう残骸が飛び散って、油の焼け焦げた匂いが漂っている。
謙蔵は爆発が収まった後、恐る恐るその辺りを見てみると、そこには焼け焦げた現場しかなかった。――と、思われた。
「ううっ、くそ」
アーマードスーツを着た一人は頭をさすりながら立ち上がる。横にいたもう一人も立ち上がり、トラックによって吹き飛ばされたもう一人も肩を気にしながらも起き上がった。ダメージはほとんど負っていないようである。
ーーあんなの、あんなのチートすぎる。殺される‼︎
謙蔵は慌ててボードを取りに行き、彼女を抱え、足の起動パネルを踏んですぐさま加速して、その場から一目散に離れていく。
それを見た彼らは、慌てずに追跡を試みる。
「ルピー、浮遊システム起動だ」
『浮遊システム起動しましタ』
「目標は変わらず目の前のターゲットだ。トレースしてくれ」
『了解しましタ』
彼らはアーマードスーツに取り付けられた浮遊装置を駆使して謙蔵の後を追っていく。軽いブースター音を奏でながら追跡する姿は、まるで空中でスケートをしているようだ。
しばらくすると、彼らと謙蔵の距離はブースターの性能の違いにより、次第に開いていった。
アーマードスーツを着た真ん中の男にアンドロイドが語りかける。
『失礼しまス。アーマードスーツの浮遊装置のブースターではホバーボードのスピードには追いつけませン。このままだとどんどん離れていってしまいまス』
「くそっ、どうするか。目標を傷つけるなと依頼人が言っていたが……まぁ、お約束だ。何かあれば事故だったと処理すればいいだろう」
真ん中の男は銃口を謙蔵に向けた。