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アンドロイド・イクスプェンツァー〜人になれない機械人形〜  作者: 満月ノヨル
第3話 存在の権利
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第12回 相思相愛の原理

 食事の後、バニラと別れた謙蔵は、ショッピングガーデンから数分の所にあるホバーボードのセレクトショップに来ていた 。

 01社。謙蔵の愛用しているブランド、RENZ社の合併後のブランドだ。

 彼はショーケースに並んだボードを見ながらうっとりと顔を緩ませている。謙蔵は週に数回、各ボードブランドのセレクトショップに足を運ぶ。特に01社はお気に入りの一つだった。


――はぁ、やっぱボードを見ると落ち着くな。


 隅から隅まで並べられたショーケースの中にあるものを一つ一つ熱心な眼差しを送っていた。


――今日は本当にてんてこ舞いな一日だった。アイツ、俺が言い返さないことをいいことにいじって楽しみやがって。このやろっ。今のうちに悪口言っとこう。あとじゃ言えないからな……。


 謙蔵は気になっていたボードを試し浮遊させてもらうことにした。身体をその場で右回り一回、左回り二回くるくると回る。


――悪くはないけど単板特有のしなりには負けるな。カーボン好きにはいいのかもしれないけど、やっぱりシェイクギアには勝てないな。


「謙蔵くん、どうだい? エアロハンターの乗り心地は?」


 常連の謙蔵は、そこで働いている店員とも知り合いだ。ホバーボーダーであった父をもっていることと、業界では隠れた整備士と言われている茂樹を祖父にもっていることもあり、とても良くしてもらっていた。


「うーん、悪くないんですけどね。単板好きにはどうも……」

「はっはっは。まぁ、シェイクギアは一級品だからな。あんなのに乗っちまえば他の奴にはそうそう乗れなくなっちゃうよ。――そういえば、今日はシェイクギアが見当たらないけど、ライディングしてきたんじゃないのかい?」

「ええ。実はいろいろと訳があって……」


 謙蔵は苦笑いを浮かべながら、ボードから足を外している。すると店員は思い出したかのように手を軽く叩く。


「そういえば、HBNo.1の横浜ステージがもうすぐ開幕するだろ? たしか、一戦目だから団体戦だったかな。今日、各チームが横浜で公開記者会見やってたな。数チームはショッピングガーデンの向かいに立っている横浜展示場でやってるはずだ。見に行ってみたらどうだい?」


 謙蔵はその言葉に反応して手が止まる。頭の中にはあのオーナーの名前が浮かんでいた。


「あの……津村光という方、ご存知ですか?」

「もちろん知っているとも。ガザブランカっていうチームのオーナーさんだよ。あそこも面白いチームだよね。選手を一般公募してど素人をだすから。本気でお金に困っている人達が集まるから、そういった意味では熱意が伝わって面白いよね。がっぽり儲けてるんじゃないかな」

「え、素人出して儲けている?」

「ああ。選手がすぐにリタイアするからね。リタイア的中券の選手に掛けられたオッズの一部がオーナーの懐に入るんだ。だから、入賞を狙えないチームはそれ目当てに素人を雇っているところも多いんだ」

「ひ……ひどい」

「ひどい? どうしてさ? 選手は強制で出ているわけじゃあないんだ。選手だって完走するだけでもかなりの大金が手に入る。オーナーと選手は相思相愛の関係なのさ。俺的には素人が事故を起こしてレースを盛り上げるのは一種のエンターテインメント性があって楽しいと思うけれどね」


 謙蔵は心の中に何かモヤモヤなものが出来てくるのを感じた。


――一種のエンターテインメント性?


 この言葉がどうも引っかかっていた。

 確かに見る側にとってはとても面白いのかもしれない。自分が死ぬかもしれないレースに走る訳でもなく、ましてやリタイアしそうな選手にオッズをかけて楽しむのだから。ただ、謙蔵は、死を肯定したような今のレースかとても気に入らなかった。

 父親のことが絡んでいるのは間違いない。しかし、父親が生きていたとしても、好きにはならなかったであろう。いや、そのように謙蔵は願っていた。


「あの、記者会見にオーナーさんも来ますかね?」

「もちろん。今から行けばまだ記者会見には間に合うんじゃな――」


 店員が喋り終わる前に謙蔵は店を早歩きで出て行った。表情はとても堅い。彼がこのような表情を見せるのは稀なことである。


――津村光……。もし、津村光と津村ヒカリが同一人物だとしても、バニラのことを頼っていい人物なのだろうか。彼の口からいろいろ聞かなくちゃいけない。バニラのことを知っているのかを。何故このようなオーナーをやっているのかを。そして親父のことを……。


 謙蔵は入り口を出ると展示場まで走った。

 この時ばかりはボードがあっても走っていたに違いない。それほど気持ちが興奮していた。

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