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アンドロイド・イクスプェンツァー〜人になれない機械人形〜  作者: 満月ノヨル
第3話 存在の権利
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第七回 変化

 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「ふうわあぁぁぁーっ」


 太陽が高々と登り、鳥たちが朝を告げている。

 謙蔵はベッドの上で今にも閉じてしまいそうなまぶたを両手の甲でこすっている。

 彼は昨日の出来事を何も知らない。バニラの身に起こった出来事を何一つ。

 大きく伸びをしながら階段を千鳥足で降りていく。隣の工場からは淹れたてのコーヒーの香りが風に乗って香ってくる。その匂いに誘われて謙蔵はよろめく足取りのまま足を運んだ。


「あら、早いのね。今日は、休日なのでしょう?」


 彼女はいつも通りの落ち着いた雰囲気で彼を迎え入れた。平静を保っているのだろうか、はたまた何も気にしていないのだろうか。謙蔵のためにパンと卵を焼き始めた。

 茂樹は謙蔵が来たことがわかると奥の作業場で行っていた作業を止めて、タオルで手を拭きながらやってくる。


「謙蔵、起きたか。今日買い物に行くんじゃろう? ここに金を置いとくぞ」


 後ろのポケットから二つに折られた札束が置かれる。それを見た謙蔵は、驚きのあまり目を見開き、もう一度目をこすり札束の枚数を確認していく。


「七、八、九……じ、十万ワールド⁉︎ じじぃ、こんなに出すなんてどういうことだ? こんなに使いきれるかどうか……」

「馬鹿たれぃ。全て使い切れなんて一言も言っとらんじゃろ。それにな、女の子は男の子と違っていろいろ大変なんじゃよ。十万ワールドなんてすぐに超えてしまうかもな」

「おじいさん、どうもありがとう。女性への配慮、とても素敵だわ」

「ふぉっふぉっふぉ。また足らなくなったら言うがよい」

「…………」


 謙蔵はふと思う。

 男の子よりも女の子に甘くなるという話はこういうことなのだろうと。

 反論しても勝てる気が全くしない謙蔵は、札束をポケットの中に収めて、息を吐きながら椅子に座る。

 すると、何か焦げたかのような臭いがし始めたのに気がついた。


「なんか焦げ臭くない?」

「あっ」


 バニラはトースターを急いで開ける。その中にあったものは正方形の黒い塊と化してしまっていた。フライパンの上に先ほど落とした卵も、接地面が焦げてしまったために、彼女はヘラで削るようにして剥がしている。


「おい、大丈夫か? 大金もらって嬉すぎたのか? なんてことはないよな、あはは……」


 ちゃかを入れる謙蔵を一睨みで黙らせた後、彼女はもう一度新しいパンを焼き始める。彼女の変化に謙蔵はまるで気がついていない。でもその彼の鈍感さによって、彼女は彼を困らせないでいられている。


「最悪」


 謙蔵はその言葉を聞いてさらに意気消沈してしまう。しかし、その言葉は自分の「心」によって変化してしまった、うかつなミスに対するものだ。

 フライパンを片手に取り、ゴミ箱に向かって目玉焼きを勢いよく投げ捨てた。


 朝食を食べ終えた謙蔵は、茂樹からホバーキャリーの鍵を受け取る。

 入間家のホバーキャリーは「ミニスフィンクス」と呼ばれる、四人乗りの中ではもっとも軽量級のもの。型番自体はとても古く、外装は所々へこみ錆び付いている。元々は紺色だったが、劣化により薄い水色になっていた。


「くれぐれも無駄遣いをするんじゃないぞい」


 茂樹に釘を刺された謙蔵は、右手を軽く挙げてから、バニラと共にホバーキャリーの中へと入っていく。

 彼らの船よりも更に蒼い空へと、ゆっくりと進んでいった。

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