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アンドロイド・イクスプェンツァー〜人になれない機械人形〜  作者: 満月ノヨル
第3話 存在の権利
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第三回 奇襲

 黒装束を着た集団が計六人。一階の玄関入り口で、装着型暗視スコープを通して家の隅から隅まで見渡している。

 前方の二人がジャンプをすると、まるでふわっと浮いたかのように二階の手すりの上で静かに着地をした。アーマードスーツの浮遊装置を改良したものを足元につけているのだ。

 二人組はスコープのスイッチをいじり、熱感知に切り替える。スコープからは、右の部屋の中でベッドの上で横たわっている「物体」が確認できた。真ん中と左の部屋には誰もいないようだ。二人組はまたスコープを暗視モードに切り替えて、右の部屋の前まで素早く移動する。

 一人が扉の左側で壁に背をつけながらナイフを構え、もう一人が右側から腕だけを伸ばしてドアノブに手をかける。


〝ギィィィッ〟


 金具の低いうねり音が辺りに響き渡る。それほど大きくない音。それでも静けさによってその音は家中に反響していた。

 扉の予期せぬ音で部屋にいるであろう「物体」が気がついたかと思われたが、スコープに映っているベッドの上の「物体」は何事もなかったかのように動かない。ましてや、その塊からは寝息のような無防備な音が放たれている。

 ナイフを持った方が、それを前に構えながらじわじわと近寄っていく。もう一人の方も腰についているナイフを抜いて後ろで様子を伺う。

 その時、一階の方から悲鳴が響き渡った。


「うがああああぁぁぁっ」


 二人組は状況を確認しようと部屋を出て、廊下の手すりから吹きぬけの下を見渡す。そこには待機していた四人が見るも無惨に倒れていた。

 二人組は辺りを確認しながらも、素早く一階に降りて彼らの状態を確認する。


「くそっ、全員意識を失っている‼︎」

「一体何が起こったんだ⁉︎」


 片方に無線が入る。


P1(ピーワン)、どうした?』

「何者かに一瞬で四人やられました。おそらく、『目標』と推測されます」

『一瞬で、四人も……』

「ええ、作戦通り待機していた第二班が全滅です……」


 無線に女性の声が割り込んできた。その声からは冷酷さがひしひしと伝わってくる。


『しっかりやりなさい。それでも国連所属の隠密部隊なの? 本気で殺す気でやりなさい』

「はっ」


 二人組は背中と背中を合わせて何者かの攻撃に備えている。奇襲した彼らだったが、奇襲に備える格好になってしまった。

 一人がスコープを熱探知に変えると、真ん中の部屋の裏の壁から何かが這い上がり、部屋の中に入ってくるのが確認できた。

 相方に肘で合図をしてうごめく目標を確認させる。

 二人ともナイフをしまい、サイレント付きのハンドガンを真ん中の扉めがけて構えた。何かが徐々に扉に近づいてきている。真ん中の部屋の扉の裏には、犯行を行ったであろう何かがしゃがみこんでいるのが分かる。


「『目標』じゃない可能性も少なからずある。素性を見るまで攻撃はするな」

「ああ」


 二人組は再度、暗視モードに切り替えて、扉が開くのをハンドガンを構えて待っている。

 ドアノブがひねられ、数センチ開く。

 右の部屋とは違い、甲高い音をたてながらゆっくりと開いていった。正体を確認しようと二人はその時を待っている。

 すると、扉が数センチ開いた隙間から右腕が現れ、高速で何かを投げた。別に二人を狙った攻撃ではない。だからこそ、二人はその不思議な行動に見とれてしまっていた。

 投げ入れたものは石であった。その石が玄関横に設置してある電気のスイッチにぶつかって一斉に明かりが灯る。


「うぎゃゃゃあ、あっ」

「目が、目がぁぁぁっ」


 暗視スコープをつけたままの状態でいきなり明るい視界になったのだ。目は暗闇に慣れたため順応が追いつかず、頭を刺すような刺激が襲う。


『P1、応答せよP1。P2、聞こえるか? 今の悲鳴は一体なんなんだ? 明かりがついたようだが。おいP1⁉︎』


 黒いスウェットを着た少女は、のたうち回っている彼らを尻目に何事も起こっていないかのように階段をゆっくりと降りていく。

 片方に思いっきり蹴りを入れて失神させた後、無線を引き剥がして耳につける。


「――あなたたちは一体誰なのかしら。盗賊にしては組織化されているけれど、プロにしては本気度が感じられないわ。慎重に行ったのだけれど、ちょっと肩すかしね」

『はっはっはっはっ……。隠密の新米達を連れてきたのがいけなかったかな? 楽しめるかと思ったのだが』

「なるほど、何となくあなた達が何者か分かってきたわ。パーティーはもうお仕舞いかしら?」

『ほほう、全てお見通しという訳かな』


 倒れていたもう片方は視界が戻ってきたのか立ち上がり、浮遊装置を巧みに操り、上空から蹴りをかました。が、彼女はもろともせずに右手の甲で蹴りをそらし、そのまま胸ぐらを掴んで床に叩きつけた。


『今の音は誰かがまたやられた音かね? 本当に末恐ろしいな』

「どんな理由かは知らないけれど、私のテリトリーで遊んでしまったのがいけなかったわね」

『手加減なしだね。守るべき人でもいるのかね?』

「守るべき『理由』はあるわ……ただそれだけよ」


 彼女は起き上がろうとする男を踏みつけて失神させた後、髪をひらりとなびかせながら家の外へと足を運んだ。

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