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第九回 天空の天使

「ふぉわっっ」


 謙蔵は慌てて後ろを向き、なぜか両手を上に挙げた。バニラは慌てることなく謙蔵の側まで歩いていき、彼の腕からタオルと着替えを受け取りバスルームに戻る。


「あなた、意外とウブなのね。女性の身体くらい見たことないの? 普通の女の子だったらその緊張が伝わり気まずくなるわね。『ごめん……』なんて言って、横を向きながらタオルを渡してあげる優しさを身につけた方がいいわ。まぁ、あなたみたいなタイプは女性慣れしても気が使えなそうだけれど」


 謙蔵は未だに後ろを向きながら両手を挙げている。

バニラは白いタオルで華奢な身体を拭き、一回りは大きいサイズのスウェットを着て廊下に出る。


「ねぇ、あそこの絵、あれは……?」


 謙蔵はちらっと顔だけを後ろに向けて、ギリギリ少女が見える視界で確認する。着替えていると分かり、大きくため息をついて振り返った。


「あ、ああ、あれか。あれは母さんが生きていた時に描いたものだよ。『天空の天使』っていう題名だったかな」

「天空の天使……」


 階段を降りた先にある、ちょうど玄関の真上に飾ってある大きな絵画。羽根のない天使が手を軽く組んで祈っているようだ。上の空は明るく下は暗い空に浮かんでいる。


「私の情報にないはずね。……お母さん亡くなられてたのね。なんだかごめんなさい」

「いや、いいんだ」


 謙蔵は手すりを摩りながら絵画の方を見る。しかし、その目はどこか遠くを見つめているようであった。


「――母さんは世界最先端開発研究所ってところの研究者だったんだ。エアロフィルターっていう人工オゾン層の研究をしてて、温暖化や温室効果ガス対応のために様々な研究をしてた。試験実験を行った時、その時に使用した核燃料が何らかの原因で爆発して、あの事件が起きてしまったんだ」

「クライオブジアース……」

「そう、クライオブジアースの引き金となる核の流失。公には核実験の失敗となっているけどね」


 謙蔵は腕についている止まってしまった相棒を部屋に軽く投げ入れ、手すりに寄りかかる。


「親父も母さんよりも前に亡くなった。だから、じじぃがおれの親みたいなもんなんだ。……シリアスな話になっちゃったな。まぁ、要するにあの絵は母さんもので唯一残っている物なんだ。――ドライヤーは鏡の横にかかってるから。それじゃ」


 謙蔵はバニラに軽く微笑んだ後、彼女の横を通り過ぎて階段を降りていく。

 バニラは謙蔵が玄関先から出て行くまで、その背中をずっと見つめていた。

飛空挺

空を浮遊し、人や物を運ぶことができる飛空キャリッジの総称。艦内に操縦室以外に部屋が一つ以上、上甲板があることという定めがあるため、上記の内容を満たしていない小型のものはホバーキャリーという別のジャンルになる。

エアシップ、エアカーゴ、タンクトップス、ドレッドノートの順で大きさが変わり名称が変わる。

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