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第七回 HBNo. 1

 最後の晩餐。

 そう表現しても不思議ではない。三人は一言も話さず、バニラの作った朝食を食べている。

 謙蔵はアンドロイドである少女がなぜ食事という行為をしているのか最初は気になったが、不思議なことの連続でもはや気にするのを止めることにした。口の中のものが飲み込めず、口を動かし続けている。茂樹の方は、難しい表情を浮かべ、彼女の顔を見ながらトーストにバターをひたすら塗り続けている。

 その様子を見たバニラは呆れかえり、深くため息をついた。


「食事ってこんなに静かなものなのかしら。それとも、何か原因・・があるのかしらね」


 バニラは自分の皿を空にした後、コーヒーをすすり、髪をかきあげ右の耳にかける。そして毛先を見た後、においを嗅ぐ。


「悪いのだけれど、シャワーを貸してもらえるかしら。髪がベタつくし、防腐剤のような臭いがするわ」

「……シャワーなら、隣の家じゃ。玄関を入り、階段を上った所にある。行けばわかるじゃろう」

「おじいさん、どうもありがとう」


 バニラは無表情で茂樹に一瞥した後、バターで光るふっくらとしたくちびるを中指で拭い立ち上がった。


「あと、着替えと靴も貸していただけるかしら。このローブ、というか布。お世辞にも着心地が良いとは言えないわ。裸足も正直不快ね」

「後でタオルと着替えを持ってくよ……。サンダルでよければ玄関にあるから」

「あら、そう。ありがとう」


 バニラは自分の食器をパイプ官がむき出しになっている、明らかに即席で作ったであろうシンクに置き、その場を後にした。

 謙蔵は朝食を食べるのを止めて、テーブルの上にうなだれた。


「謙蔵、これからどうするんじゃ?」

「どうするも何も……」


 謙蔵の声がテーブルに響いて振動している。

 謙蔵は無気力で太ももをかいていると、ふとあることを思い出した。


「そ、そうだ」


 謙蔵は、急に立ち上がりポケットの中を裏返す。中身の入っていない財布、動力切れの謙蔵の相棒……そして、くしゃくしゃになった紙切れを取り出した。


「じじぃ、これ見てくれ。トラックにいた奴にこれを渡されたんだ。『荷物と一緒にここに書いてある人物に接触しろ』って言ってたんだった」


 謙蔵はテーブルに、そのカードを広げる。

 そのカードには津村つむらヒカリ、そう書いてあった。

 茂樹はアゴをいじりながら考えている。


「津村、つむら、ツムラ……どこかで……秀作しゅうさく、津村ヒカリを検索してくれるかの」

『かしこまりましタ』


 茂樹のマイアンドロイド、秀作は、何年も前の第二世代型アンドロイド。型番は第二世代初期もので、処理能力が非常に遅い。また、仕事用にカスタマイズされ、そのほとんどがデータ(磁場盤修理における知識と過去のデータ)に奪われているため、ノイズ音を出しながら必死で検索している。


『検索結果、0件。――津村光つむらひかるという名前ならば検索結果に引っかかりますガ』

「そうじゃそうじゃ、どこかで聞いたことがあると思ったら津村光じゃったか」

「じじぃ、津村光って誰なんだ?」

「津村光は昔のレーサーじゃよ。今は、HBNo. 1ホバーボードナンバーワンでチームのオーナーをやっていたと思うが。昔、謙蔵の親父さんとも争ったことがあるらしい。昔は優秀なボーダーだったようじゃが、今では貧困層を雇ってレースに出しては死者を出し、見せ物にしている底辺チームのオーナーじゃ」

「ひどい……」

「じゃが、HBNo. 1の賞金はとてつもなく、一発逆転を狙ってレースに出たがる輩が後を絶たないのも事実じゃ。相思相愛、悪循環を招くレースの世界なのじゃ」

『レース賞金は、一位が一億ワールド、二位が四千万ワールドといったように莫大な賞金がでまス。また、観客のオッズの一部がオーナー様に入るのでス』

「そう、じゃからオーナーとしては優勝しなくとも儲かる。いかに面白い奴を出して賭けさせるか、そこに執着しているのじゃ。昔のレースとは変わってしまったよ……」


 昔は決められたコースを完走するだけのレースであった。しかし、観衆が、レーサーがスリルを求め、内容が徐々に変わっていった。最初は、チャージ――体をぶつけること――が許されるのみであったが、コースに障害物が設けられ、反則というもの自体が無くなった。いつの間にかレースでの事故死は通例になり、観衆はそのスリルを求めて賭け事をする。レーサーは賞金を目指し、過酷なレースに挑むのだ。


「知っとるか、レースの実態を。秀作、過去のレース記録と最近のデータをディスプレイに出してくれい」

『かしこまりましタ』


 秀作は、透過ディスプレイにレースの情報を出す。


――――――――――――

 今年度ポインド獲得数 (チーム)

 一位 チームプライド ポイント数 120

 二位 ホワイトフェザー ポイント数 42

 三位 チームブリッツ ポイント数 8

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 ・

 ・

 三十位 ハヤトHBC ポイント数 5


 今年度ポインド獲得数(個人)

 一位 アブラハム・オイエ (プ) ポイント数 60

 二位 セシル・マックスウェル (プ) ポイント数 42

 三位 九鬼本仁 (プ) ポイント数 38

 三位 サブ・里奈 (ホ) ポイント数 38


 年間レース優勝回数(10/32)

 一位 チームプライド 10回

 二位 以下全チーム 0回

――――――――――――


「これを見て分かるかの? 一チームの独占じゃ。まるでこのチームが勝つように仕向けているようじゃ」

「これじゃあ、レースが成り立たないんじゃ……」

「そう、普通ならそうじゃ。しかし……秀作、レース券の種類を出してくれい。個人のやつでよいぞい」

『かしこまりましタ』


 秀作は画面を切り替え、オッズ表を映し出す。


――――――――――――

 レース券及びオッズ表(個人戦)

 レース券の種類

 三連複券(個人・チーム)

 一着、二着、三着となるレーサーの組み合わせをレーサー番号で当てるもの。または、三位までのチームの入賞順位を当てるもの(同一チームが入った場合は繰り越し)。

 ・

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 レース離脱予想券(俗にいう、リタイア的中券のことです)

 レース中、何かしらの理由(事故死を含む)でレースをリタイアしそうな選手を三名以上予想するもの。予想数が多ければ多いほど賞金が増えます(リタイア数が三名を満たない場合、50パーセント払い戻しになります)。

――――――――――――


「こ、これは……リタイア的中券って、噂に聞いてたけど酷すぎる」

「そう、かなり酷い。しかし、観衆のほとんどはリタイア的中券をかうのじゃ。レーサーを煽り、スリルと賭け事で自分の欲望を満たす。これが今のHBNo. 1じゃ。そういった世界でチームのオーナーをしているのが津村光なのじゃよ」

やっと本題に入ってきました。

レースはまだまだ先ですね。


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