第四回 アンドロイド
ご主人様。それは、アンドロイドにとって絶対服従であり、ホスト権が消滅あるいは剥奪されるまでは一生奉仕する対象である。SNAS(ソーシャルネットワークアンドロイドシステム)で多大なる情報を駆使し、今までに培った個々固有のデータと知識を元に、ホストに対し最善を尽くす。それはアンドロイドにとって当たり前のことであり唯一の行動なのだ。
彼らには基本的に拒否権などは存在しない。嫌なことであろうが何であろうが、彼らにとって奉仕すること以外の選択肢はない。
理由は簡単だ。
人間がそうなるように造ったからである。
人が何かをする上での補助役として、命令されれば命令された通りに動く。王様はあくまでも人間。どんなに知識が増えようと、どんなに頑丈で人間を超えた動きができようと、彼らに自由という権利は無いのだ。
しかし、謙蔵の前にぶっきらぼうな顔で座っている彼女。彼女はその常識を覆した。謙蔵と茂樹が驚くのも無理もない。
「言いたくないって……」
謙蔵の発言に対し、彼女は腕組みをして睨みつける。
「私が目覚めてから目にしたことと今の話を聞いてなんとなくわかったわ。要するに、あなたはなるべくしてご主人様になったわけではないってことね。私が起動してからなんとなくおかしいなとは思っていたのだけれど、これでマニュアルを読んでいないことも理解できるわ。――なんでこんな子供が私のホストなんかに……」
「こ、子供って‼︎ お前だって俺と変わらない子供じゃないか‼︎」
「あー、もう、最、悪」
「俺だってな、なりたくてお前の主人になったわけじゃないんだ‼︎ お前のせいで……」
謙蔵はそこから先はなんとか呑み込んだ。イライラしていたのも理解しがたい状況なのもわかる。しかし、どんな理由にせよ彼女に当たってしまっては仕方ない。謙蔵はなんとか冷静になろうと頭をくしゃくしゃにしながらパイプ椅子に座る。
「俺は……どうすればいいんだ……?」
謙蔵の様子を見て彼女は呆れた様子だったが、同情したのかため息をつく。
「仕方ないわね。セキュリティーの範囲内で話してあげるわ。まず、そうね、私がなんなのかそこから説明しなければダメみたいね」
皿の上に君臨している焦げた目玉焼きは、すでに冷めきってしまっている。
少女は立ち上がり厨房に足を運ぶ。
ガスコンロに火をかけ油を敷く。
「私はアンドロイド。でも、薄々気が付いている通りただのアンドロイドではないわ。私は、個別型単独思考OSを搭載したアンドロイド。人により近い存在、ヒューマノイドよ」
出しっ放しに放置されていた卵を三つ手に取り、一つずつフライパンの上に落としていく。
油の弾ける音が、工場内を充満していた。