表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/44

第二回 深まる謎

 謙蔵の住む第十四ブロックに着いた頃には二時間が経過していた。不幸中の幸いと言うべきであろうか、その後は何のトラブルもなくここまで来ることができていた。

 流石は最新型のホバーボードである。長い距離を移動していたのにも関わらず、バッテリーはほとんど減っていない様子。ボードとは打って変わって、謙蔵は充電切れになっていた。意識が朦朧もうろうとし、視界がぼやけている。喉が渇き、空腹感を感じているが、それを超越した疲れが彼を襲っていた。

 第十四ブロック、旧川崎の外れにある謙蔵の家はコンクリートの打ちっぱなしの建物だ。所々、災害のせいでひびが入り、天井部分は鉄筋がむき出しになっている箇所がある。その横には工場であったであろう錆び付いた建物が隣接されており、隙間のできた屋根から煙がもくもくと上がっていた。

 扉が壊れているためにむき出しになっている工場の入り口で、謙蔵はボードをゆっくりと止めて彼女を下ろす。謙蔵が中へ入ると、彼女もその後ろをついていった。

 中央にあるパイプ椅子に腰掛け、手作り感満載の木造テーブルの横にボードを立てかける。工場の中は珈琲の淹れたての香りが充満して、奥のガスコンロで焼かれている目玉焼きの焦げる香りと合わさり食欲をそそる。

 少女は、テーブルの上に突っ伏している謙蔵を通り過ぎ、簡易厨房とでも言うべきであろうか、目玉焼きの様子を伺いに行く。

 その時、入り口から洗濯物の入った大きなカゴを抱えてくる老人がいた。山積みの洗濯物のせいで前が見えないのだろうか、手探りならぬ足探りで一歩ずつ前に進んでくる。足にテーブルがぶつかったことがわかると、カゴをその上に置こうとするが、そこには謙蔵が突っ伏していたため、カゴが斜めになり洗濯物の山が崩れ落ちた。


「な、なんじゃ‼︎ 謙蔵、おったのか。昨日はどうしたんじゃ? 彼女でもできて、夜這いでもしていたのかの? たっはっはっはっ……」


 俺の昨日の苦労を知らずにこのエロ老人は好きなことを言ってくれる。親代わりならば普通心配するところだろと、謙蔵は悪態をつきながら顔を上げた。


「呑気なじじぃはいいよな。昨日は大変だったんだから」

「ほーそうか、夜這いの上にその疲れで学校まで休むなんて、不良少年、非行・・少年じゃな」


 謙蔵は非行と飛行を掛けて、満足げな顔をしている老人を無視してパイプ椅子の背もたれに体重をかけながら伸びをする。

 遠岡茂樹とおおかしげきは謙蔵の母方の祖父である。短髪白髪の老人で、昔流行っていたであろう黒のレキシントンタイプ――スクエア型の黒縁眼鏡――を掛けている。上半身は白のTシャツ。ズボンは細身のジャージで靴はサンダルという誰が見てもラフな格好。左腕には腕時計の三倍はある年季の入った第二世代型アンドロイドをつけていた。

 茂樹はホバーボードやホバーキャリーなどの小型浮遊キャリーで使われる磁場盤の整備を主の職とし、研究なども独自にしている。ちまたでは、キチガイ老人または変態博士などと言われているが、彼の腕は確かで、機械に対する情熱と技術力の高さから彼を頼る者は少なくない。特に、磁場盤は元々整備が難しく、整備するならば値段的に買い替えるのが一般的だか、古くなっても愛着があり使いたいという客が殺到している。


「そういえば、目玉焼きを焼きっぱなしで洗濯物を取りに行ってしまった。丸焦げになってしまったかの」


 すると、奥の厨房から彼女はお皿と目玉焼きの張り付いているフライパンを持って登場する。茂樹の顔は真剣そのものだ。


「な、なんと……。謙蔵、同棲するのならば部屋を片付けなければならんじゃろ」

「エロじじぃ‼︎ 少しは妄想を制御しろよ‼︎ そんなんじゃない、彼女はアンドロイドだよ」

「お前にそんな貯金あったのか? まさか、犯罪に手を染めたんじゃなかろうな⁉︎」

「そんなんじゃないよ。実は……」


 謙蔵は昨日の出来事を話した。

 話を聞いて最初はヘラヘラと笑っていた茂樹だったが、少女の側に行き見ていくうちに表情が変わっていく。顔、目、腕……そして首についたリング。茂樹は話を聞き終わった後も難しい表情を崩さない。謙蔵は茂樹が口を開くのを急かさずに待っていた。


「謙蔵……これと、この子と契約を交わしたのか?」

「ああ、まぁとっさだったから仕方なくだけどね。多分、未発表の最新型のアンドロイドだと思うんだけど。首に『V』ってあるから第五世代なんじゃないかな」

「ふむ……。謙蔵、この子は多分第五世代ではない。首のリングはポリエステル素材。普通は簡単に取れないように金属のリングを付けるのが一般的じゃ。ICの入ったな。――それに、このリングの裏に書いてある製造コード、普通は表に記載してあるはずじゃろう。これは、昔のやり方じゃ。謙蔵、これを見ろ」

「こ、これは……‼︎」


 そこには製造コードが記載されていた。


――2104cyp0005EX。


 製造コードから分かることは二つ。完成されたのは2104年だということと、その年は第三次世界大戦が起きた年だということだった。

プェンツァー

総括型母体制御OSの事。日本では第三首都、富士にあるスーパーコンピューター「桜蘭」が母体サーバーとして個々のアンドロイドから勝手に送られてきた情報を、思考・分析したのちアンドロイドに情報を送る。個々のアンドロイドは今までのデータを元に、それぞれ独自性・特化性をしているが、母体である桜蘭を通しているため通信機能が途絶えると動かなくなったりしてしまうという難点や、桜蘭を通してウイルス、ハッキングなどの問題点もある。

アンドロイドの神経。

一般市民使用率、92%。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ