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第1回 日常1

 アンドロイド・イクスプェンツァー


 1


 二一〇四年、第三次世界大戦が起き、世界中で沢山の死者が出た。主役は「人」ではなく「アンドロイド」。人型のアンドロイドは研究に研究を重ね、ついに人と同じ動作が出来るようになった。もはや人の手で人を汚す必要はない。

 戦争の発端は、地底に眠るレアメタルの所有権の争いからであった。カーボンナノファイバーは、鋼よりも硬くプラスチックと同程度の軽さを備えている優れもの。近年見つかった炭素系鉱物、カーボンナノニウムを加工することによって形成される。カーボンナノニウムは今のところ一部の海底からしか出てこない貴重な物質だ。そして今回、アリューシャン列島とミッドウェイ諸島のちょうど真ん中に位置する公海で、大量のカーボンナノニウムが埋まっていることが分かった。

 最初はカナダ・アメリカが牛耳って海底採掘をしていたが、ロシア、中華連邦、中東、神聖宗教その他の諸国も採掘を始め、衝突が起きたのが発端だ。


 その後、思わぬ形で戦争は休戦を余儀なくさせられる。

 二一〇五年、ゴア島での核開発実験が失敗。サイファーペンチニウムが流出し、世界的大混乱が起こる。事前に発明されていた空間消滅装置、可分粒子衝突器「スプライト」により、空間の素粒子そのものを消して汚染物質の流出を最小限にとどめることに成功するが、空間そのものが消滅してしまったため世界がゆがみ、世界的大災害「クライオブジアース」が起こる。

 二一〇五年、一時休戦。二一〇七年、世界平和条約が結ばれた……。


 * * *


 二一一三年、五月。

 空中でエアアウトした時から遡ること、二十一時間前の午前八時。入間謙蔵(いるまけんぞう)は学校へ向かうため、家を出た。

 謙蔵は家の前に座り、ホバーボードを取り付けている。つま先部分をベルトで固定し、左手に手袋と一体化されているグリップ型のコントローラー、ハンディを装着した。上体を起こし、左足のかかと部分を横にずらして起動パネルを踏み、ハンディの親指に当たるスティックを下げて浮遊する。ブースターから緩やかな動力をかけながら進んでいった。

 謙蔵の目の前に広がる第十四ブロック、旧川崎地区は未だ荒れ果てた土地のままだ。隆起したと思われる岩が無数にそびえ立ち、町であったであろう残骸がそのままの形で残されている。名前もない放置された形式的再開発区画。再開発のめどは立っていない。

 旧横浜地区に入ると、うって変わって栄えた町へと変貌する。重点的に再開発・再構築が進み、災害前よりも発展して近代化した町が広がっている。

 「横浜」の名前もそのまま残され、高層ビルが建ち並び、区画整理も行われている第四首都だ。

 東京、大阪、富士、横浜、名古屋、琵琶湖……。昔の首都だけでなく、復興開発のため新しい首都も出来た。しかし、あの災害から八年の歳月が経った今でも、首都近郊以外は荒れ果てた土地のまま。首都が大いに発展しているだけあってその差は目立つ一方であった。


 謙蔵は横浜の中心街から少し離れた所にある横浜未来高校の正門前でホバーボードを減速する。上空二メートル付近で足のベルトを外してボードを掴み、地上に降り立つ。今流行りの技、ジャンプオフを綺麗に決めて正門を通ろうとする。


「おい、入間。ホバーボードでの登校は禁止されている事知っているだろ。お前ってやつはほんとに……」


 正門に立っているのは謙蔵の担任、山田仁志やまだひとし先生。三十代半ばのメガネをかけた、年の割に初老の男。ジャージを腕まくりし、眉間に皺を寄せている。


「山田先生おはようございます。でも先生、俺の家、旧川崎の方なのでチャリとかではちょっと……」

「だったらせめて安全なオートタイプのホバーキャリーか、車であの変人博士にでも送ってもらいなさい。若者の間で流行っているからって、あんな危険な乗り物……」


 それを聞いた謙蔵の表情はむっと変わる。


「先生よく、やりたいことは精一杯やりなさい、夢は努力で叶えるものですって言ってますよね? 俺の夢はホバーボーダー。みんなにこの楽しさを伝えたいのです。だからこうやって少しでも技術を高められるように日々頑張ってるんですよ。先生は俺の夢の応援をしてくれないのですか?」

「それは……」


 謙蔵は山田のことが大好きだった。若僧の話をちゃんと聞いて理解してくれる。教師としては甘いのかもしれない。しかし、いくら教師といえど、自分自身子供時代があったのだ。山田も子供の頃は何かに夢中で夢を追っていたに違いない。だから、山田は謙蔵に目を合わせずこう言う。


「別にな、お前の夢を壊したいと思っているわけではない。もちろん先生も応援している。だがな、規則は規則だ。要するに……もっと上手い登校の仕方をしなさい。――ここからは、私の独り言だ。学校の近くにコンテナが並んでいる所があるだろ。その横には大型のコインロッカーがあってな、まーなに、大きな荷物も入るロッカーだ。――次に校内でボードを見つけたら取り上げるからな」

「はい先生。独り言、ありがとうございます‼︎ 早速、次から使いますね」

「あと、危険な賭けレースが流行っているだろ。レーサーだけにはなるなよ」

「了解です」


 謙蔵は山田に笑顔で手を挙げ、校内に入っていった。

ジェットスプリング・ホバーボード

特殊な磁場を発生させることで浮遊する。地球そのものが持つ中心部のコアに反応し、磁力の強弱によって浮力を変えられる。

グリップタイプのコントローラー、ハンディにより浮力や後ろについているブースターの強弱で進むことができる。曲がるときは体のバランスで行うため、難易度は高い。

若者を中心に流行り、今では過激な賭けレースまで始まっている。


✳︎今の段階で数センチまで浮遊できるホバーボードができているんですって!!

こんな日が来るのも遠くないかも。

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