第15回 天空の少女
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謙蔵は小さく溜息をつきながらゆっくりと目を開ける。
今日一日の出来事を謙蔵は頭の中で回想していたのだ。
――今日は最悪の一日だった。
学校へ行き、放課後にホバーボードの練習をして、博士の家で夕食を食べるという、平凡ではあるが暖かい日常が今日でお終いになるのだ。
謙蔵はエアアウトした状態で、彼女を抱きかかえたまま地上に向けて頭から落下している。今からボードを立て直したとしても、このスビードで彼女を抱えたままでは磁場による浮力が間に合わず、地面に衝突してしまうだろう。そのことを悟っていた謙蔵は何もせず、地球の引力に逆らわないまま、その原理に身を任せていた。
謙蔵は両腕に抱えているアンドロイドの顔を見ていた。このアンドロイドは一体どこから来たのだろう。誰に造られたのだろう。そんな疑問がふと頭の中に浮かぶ。自分の断末魔なのに意外と冷静で、そのことが不思議で笑えてしまっていた。
謙蔵はアンドロイドの首についている白いリングに目をやると、そこには社名、シリアルコードが明記されていないことに気がつく。そこには唯一、「V」のマークだけが青い文字で浮かんでいた。
――君は一体何者なんだ。
謎めいたアンドロイド。普通とは何か違う。そのアンドロイドにいつの間にか興味を持っていた謙蔵がそこにはいた。
謙蔵は青白く綺麗な頬に手の甲で触れる。
すると彼女は、いきなり生気が宿ったかのように謙蔵を丸い瞳で見つめ返した。
『内部システム構成、完了しました。まもなく、本起動に入ります』
謙蔵に抱きかかえられているそれは、月の光を浴びてとても輝いて見える。その光のせいなのか、顔や身体の骨格などが光を帯びながら変わっていっているように見えた。それは、見間違いではなかった。アンドロイドの容姿は徐々にベツモノへと変貌していく。
焦げ茶色のショートヘアから腰まである漆黒の髪に。
スカイブルーの目はより深みを増した蒼色に。
ウエスト周りは先ほどよりも細くなり、胸も女性と分かるくらいのふくよかさが膨らむ。
美少女――その一言が似合うだろう。
「ねぇ――」
少女は謙蔵に語りかける。
「ねぇ、生きたい? ご主人様」