第9回 欺く者
スクランブル交差点のど真ん中。車も通っていなければ人の姿も見当たらない。コンクリートはところどころ割れており、その隙間からは新たな生命ーー草木が顔を出している。とてもとても静かな空間であった。その場所に四人はいた。
男の声があたり一面をこだまする。
「観念しろ、変な真似はするなよ‼︎ まずは、その機械人形を渡してもらおうか‼︎」
謙蔵の後ろにいた一人は、彼の背中に銃口を当てる。謙蔵は、ゴクリと唾を飲み、ゆっくりと彼女を手渡した。
「随分と軽いな。……それに、呼吸してるのか。まるで本当に人間みたいなアンドロイドだな。世界の技術にバンザイだ」
「リーダー。こいつ、どうします?」
「どうしますもなにも、同業者ならば生かしておく必要はないだろう。とっとと殺して依頼人にこいつを渡しちまおう」
「ちちち、ちょっと待ってください‼︎」
謙蔵は慌てふためきながら声を荒げた。
「彼女は、いや、このアンドロイドはさっき俺と契約したんです。俺がいなかったら起動はできません」
「解読コード読ませてこじ開ければいいだけだろう」
「いや、最新型のアンドロイドはホストからの声紋認証コードを入れてログインしないと作動しません。一度失敗すると数時間アクセス不能、二度目を失敗すると……」
謙蔵は眉毛を吊り上げてオーバーなリアクションをとった。
後ろの男は拳銃で謙蔵の背中を小突く。
「じゃあ、今すぐに起動させてコードを入力するんだ」
「いや、スリープモードというものに入ってしまって、数時間後にならないと入力できません」
「ほんとうか?」
「え、ええ。本当に眠っているでしょ? あは、あはは……」
謙蔵の言ったことは全てウソだ。何とか殺されないために出まかせを言ったのだった。謙蔵自身も信じられないようなウソを言ったと思っている。しかし、効果はあったようだ。
「仕方ない。起動したらすぐにコードを入力するんだ。そしてホスト権利をフリーにしろ」
「わ、分かりました」
男の一人は腕についている端末で連絡を取りはじめる。その側で男二人は声を細めて話す。
「いいんですかリーダー。こいつ始末しなくて」
「ああ。取引の時にそれで足元見られるのは嫌だしな。とっととこいつを渡しちまおう。――思ったよりも簡単だったな。これで、八百万の仕事だなんて」
「確かに。廃墟の実験施設でアンドロイドを探して捕獲。同業者っぽい奴が一人いましたが大したことなかったですしね」
「リーダー、本艦と連絡が取れました。今近くに待機しているようで、ホバーキャリーで迎えに来るそうです」
「分かった」
謙蔵は地面にうつ伏せにさせられたままの状態で銃口を向けられていた。これからどうなってしまうのか気が気ではない様子だ。
しばらくすると、ホバーキャリーが上空から現れる。六人乗りの空中移動型キャリッジだ。
「おら、小僧。立て」
謙蔵は足で軽く蹴られると、言われた通りホバーキャリーの中に入っていく。ホバーキャリーは低いブースター音を鳴り響かせながらその場を後にした。