第八話:村人の昔話
マキシムが連れてきた少年に自警団を筆頭とする村人たちは落胆した。
聴けば、ランズール卿がいたく気に入っている少年でベネシェンドでも特別扱いを受けていたという。
これではフライアンテの時の二の舞だとみんなが思った。
しかし、その予想はいい意味で覆された。
ソリュードはとりあえず、自警団の技量を見極めると彼らにあった武器と役目を与え、剣術を教え、戦術をその頭の中に叩き込ませた。
みるみるうちに自警団の力は増し、自警団から兵団、騎士団へと格上げされていった。
更に、彼は自警団に所属していない村人たちにも村を守るための術を教え、更には物見台の設置や伝令のための道の確保など、あらゆる部分でその能力を発揮した。
村はたちまち治安を取り戻し、今では年若い副隊長の手腕に疑念を抱くものなど居ない。
「今、村を守る存在としての自分たちに俺たちは自信と誇りをもっている。そしてそれを与えてくれた副隊長には返せないほどの恩義を感じている」
真剣に語る二人の姿にフレイルは微笑ましいものを感じた。
あの王宮の中で心を閉ざし、常に笑顔を保ち続け、誰にも真実の姿を見せなかった時分に比べると、今のこの環境は彼にとって良いものに感じる。
「ビクター!副隊長の部隊がこっちに戻ってくるぜ!!」
物見台を守っていた兵士が報告してきた内容にビクターたちはそっと胸を撫で下ろした。しかし、逆にフレイルは眉間に皺を寄せた。
「早すぎる帰還だな・・・もしかしたら、村長たちを呼んでおいた方がいいかもしれないぞ」
ビクターはその言葉を聞き首を傾げたが、とりあえず、副隊長である少年が『どんなことでも彼の指示に従え』と命令を下していたのですぐに村長へと使者を出した。
ソルディスが村につくと苦笑いをしたフレイルと何事かと心配している長老たちが隊を迎えてくれた。
「どうかしたのかね、ソリュード」
急に呼び出されたことに不安を感じたのだろう。長老の中でもまだ年若い部類に入るゼントが年齢の割には背の低いソルディスに視線を合わせて問い掛けた。
ソルディスも厳しい顔つきのまま、長老たちの顔を見回した。
「とりあえず、奇襲部隊だけは退けました。しかし本隊がたどり着けば、人数の差が歴然となります。前に提案した通りに、非戦闘員は持てるだけの財産をもって例の場所に隠れてください」
少しの焦燥を含んだ言葉に、長老たちは顔色を悪くする。
「どれぐらいになるのかのぉ」
今度は一番の年長者であるブレンダルが尋ねてきた。年老いた顔には焦りの中にもきちりと状況を理解しようという意志が見て取れる。かつて何度も夜盗により蹂躙を受けてきた村だ。その時は何も出来ず物陰に隠れることしかできない状態だったが、今は違う。村を、村民を守るための術は目の前の少年により与えられている。それが、長老たちの気持ちを引締めていた。
「2〜3日ぐらいと見ています。5日たっても部隊の人間がいかなかったら、奥の通路から逃げてください」
「わかった」
長老たちは深く頷くと、それぞれの分担に合わせて散っていく。最後に残ったブレンダルはソルディスをじっと見つめ、諭すように言葉をかけた。
「ただ、無茶はしないでくれ。財産は私たちが責任をもって守る、自警団の人間たちも、命を無駄にせずに生きて再会えるように心がけてくれ」
真剣に『自分』という人物の安全を気に掛けてくれる大人にソルディスは少しだけ寂しそうな顔をしてから、言い聞かすようにブレンダルに告げる。
「大丈夫です、俺は結構長生きするってわかってますから」
「心強い台詞じゃのう」
ソルディスの言葉を自分たちを安心させるための言葉と受け取った彼はにっこりと笑うと先に村へと戻っている長老たちと同様に隠れるための準備をするために踵を返した。
(『本当の未来』を言っているんだけど、な)
ソルディスは心の中でそう呟くと、今度はフレイルの方へと視線を向けた。
すごく久しぶりのUPとなってしまいました。
物語の流れは決まってるんですけど、此処の辺りの経過を決めてなかったので、どうも書くのが遅れてしまいがちになってしまいます。
とりあえず、ソルディスがこの村に来た経緯と、なんでこんなに好かれているかの説明です。
現在の彼は笑わないのにどうしても『笑う』っていう言葉を使いそうになってしまいました。