第七話:村の過去
フレイルが地図で確認した場所まで移動すると、そこにはすでに兵が配置されていた。
「あ、やっと来ましたね」
彼の姿を見つけて、年若いビクターが親しげに声をかけてきた。
「何だ、俺がここに来るって読まれてたのか」
フレイルはおどけるように首を竦めると、兵の配備を確認する。だが、彼らはただ整然とそこにいるだけで布陣というほどの配置についていなかった。
「アドラム副隊長から伝言です。兵の布陣、指揮はあなたに任せる。お手並み拝見、だそうです」
「あらら」
フレイルは感嘆するようにそう呟くと、この中の指揮的な存在と思われるビクターの元へと歩を進める。
「それじゃ、おたくらの大将に高く評価してもらうためにも、俺の言うとおりに布陣を引いてくれる?」
軽口のようにウインクをしながら彼は問い掛けてくる彼に、ビクターを始めとする隊の人間はにやりと笑ってみせた。
フレイルの布陣は実に見事だった。
兵士の実力の高さを鑑みた上で、弓兵を伏兵として4箇所に待機させたうえで敵が打って出難く、更にこちらからは複数の兵で対応できるように歩兵を配置した。トラント側の奇襲部隊は、伏兵に気付く事無く、ビクターたちの隊に襲い掛かろうとし、次々に先鋒をくじかれる形となり、僅かの時間で撤退を余儀なくされた。
「追いかけるのか?」
然程、こちらの戦力に被害がなかったことでビクターはフレイルにそういってみたが、彼は小さく笑って首を横に振った。
「向こうもそれを狙っているさ・・・・・・下手に出て行けば、他の部隊と合流して再度切っ先を変えてくる可能性もある。そんなことをすれば、あんたたちの副隊長が引いた作戦に支障をきたすことになりかねない」
ソリュードの名前を出されて、隊の人間たちは渋々彼の意見に従う。
そんな彼らにフレイルは目を眇めてみせる。
「お前さんたちは、本当に副隊長が好きなんだな」
「当たり前だ!」
フレイルの言葉に打てば響くような速さで答えたのは弓兵隊を率いていたビージェットだった。
「俺たちはランズール卿は勿論、副隊長に返せないぐらいの恩義があるんだ」
ビージェットの言葉にその場に居る若い兵たちがうんうんと、首肯する。
「ここの村を守る兵は、副隊長補佐のマキシムを除いて、全員が元々この村の自警団の人間だ。まあ『自警団』といっても、農民・商人の寄せ集まり、死に体で盗賊にぶつかっていく間にランズール卿に助けを求めるのが俺たちの役目だった」
ビクターはフレイルに語りながら、ソリュードが来るまでの村の様子を思い出していた。
あの頃は、今よりもずっと治安も悪くて、盗賊たちが来るたびに多大な被害を村は蒙っていた。自警団に入る若者はその命と引き換えに村を守るのを役目とし、村には夫や家族を失った悲しみがいつも満ちていた。
そんな時、妹を連れて長い間修行の旅に出ていたマキシムが村に戻ってきた。
彼は村の現状を鑑みて、ランズール卿に村に常駐してくれる騎士団を派遣してくれるように頼んでみてはと村長に提言した。
しかし、村の人間は中々いい顔をしなかった。
かつて、それで来たランズール卿の甥、フライアンテ卿が盗賊よりも酷い統治をこの村に引こうとしたことがあったからだ。結局、あの時は内緒で現状視察に来たランズール卿により、フライアンテを解任させることで事なきを得た。
村の人間はそのことを思い返し、また同じ事が繰り返されるのではと危惧したのだ。
最初のうちはマキシムもそれで納得し、彼自身が自警団に入り守ろうとしていたが結局、一人対多数では村を守りきることなどできず、マキシムはランズール卿に直談判しにオージェニック卿が治めるベネシェンドへと向かった。
一抹の不安とともに、村人たちはマキシムの帰還を待った。
そして、彼が戻ってきたときに連れてきたのがまだ14歳の少年だったソリュード・アドラムだった。
フレイルの策での戦闘はあっというまに終了です。
別に、もう戦闘シーンが書きたくないとかではないですよ(自滅)
後半は村の辿っていた過去&ソリュードがこの村に来たいきさつです。
隊の人間が「フライアンテならトラント卿と手を組みそう」と思ったのは、村人が彼の性格を熟知していたせいです。