第四十二話:穏やかなお茶会
「いいよ、用事があるのは3人ともだから」
ソルディスはそういうと部屋の中に備え付けられている簡素な応接セットの方へと移動する。
3人は顔を不思議そうに顔を見合わせると、彼に倣いそれぞれ気ままにソファに腰掛けた。
「お茶でも入れましょうか?」
一番、流しに近いところにいたマキシムが訊ねると、副隊長の少年は小さく頷いて見せた。ここ最近になって彼が見せるようになった仕草に、彼は少し目を細めてから鳴れた手つきでお茶の準備をする。
「マキシムはお茶をいれながら聞いていて」
ソルディスはそういうと先ほど鳩が運んできた知らせを、広げた形でテーブルの上に置いた。
「オージェニック将軍からの伝言。ガイフィード大将軍はフレイルのことを軍師として迎え入れてもいいと返事をくれたそうだよ」
その言葉にフレイルは残念そうに溜息をついてみせた。
平民からリディア国において最高位の将軍の作戦参謀の一員として迎えられることを考えれば、異例の大出世ではある。ただこの村に来てからの楽しい時間を考えると、ここを離れることが勿体無い気がしてくる。
だが折角、ソルディスがオージェニック卿を経て推薦してくれたのだ。無下にすることなどできない。
「ってぇ、ことは俺は紹介状を持って北に向かえばいいのか?」
鳩が運んできた小さな紙片をちらりと見ながら、フレイルはぎこちない苦笑を浮かべている少年に問いかけた。
「いや、とりあえず迎えが来てくれるらしい」
ここに書いてある、とばかりに示された場所には迎えとして3人ほど旅立ったと記されていた。
「ウィンザはどうする?」
フレイルは横に座っているウィンザにも確認する。
彼は目の前のソルディスと横に座るフレイルの顔を順に見てから、「うーん」と考え込む仕草をした。
「私はフレイルの相棒だから、君についていくよ」
「なんで、その答えを少し考え込むかな、お前は」
にっこりと笑って答えただろう覆面のウィンザに、彼は辟易とした表情で悪づいてみせる。
そんな二人の気の置けないやりとりを暖かい目で見ているソルディスの姿に、マキシムは少しだけ嬉しさを覚えた。
ここ数年で感情を徐々に表してくれるようになった少年は、彼らが来てから更に表情にバリエーションを持つようになった。それは彼を慕う村のすべての人間にとり、僥倖ともいえる状態でもある。
「お茶、どうぞ」
マキシムはお茶をソルディスたちの前に置くと、自らも副隊長である少年の隣に座り彼らの前に置かれている紙片を見た。
「ガイフィード将軍の部下の少年と食客である龍族の副長、それから少女。またちぐはぐですね」
読み上げられた言葉に、少しだけウインザが反応する。
他の3人がそれに気づくと、彼露わになっている目元をすがめてみせた。
「龍族の副長というとケイシュン・ロンファ殿かな。少しだけ面識がある」
その言葉にフレイルは目をぱちくりと瞬いた。どうやら彼すらも知らない知人らしい。
「珍しい処に知り合いがいるな」
「面識があるといっても顔を知ってる程度だよ。知り合いの知り合いぐらいで、正式に言葉を交わしたかどうかすら記憶にない」
おどける様に肩を軽く上げる仕草をしてから、彼は入れて貰ったお茶に口をつけた。
「少年、少女ってあるがこの辺りの治安を考えると、心配ではあるな」
つい先日、ウインザの連れていた子供たちに目をつけて人買を生業にしている山賊たちと一戦交えたばかりだ。よほど顔が悪くなければ、今度はその使者達が狙われる可能性もある。
「少年のほうは大将軍の信を受けるぐらいだから腕がたつ人間だろうね。問題は少女の方か」
そう呟きながらティーカップを机に戻したフレイルは、マキシムから紙片を受け取るとその隅々までチェックした。
主人公と過保護な3人の青年の奇妙なお茶会風景になってしまいました。その上、ソルディス、後半、しゃべっていません。おかしい、主人公の存在強化を推し進めていたはずなのに。