第三十八話:弟王子の行方
考えてみれば、簡単な結論だった。
次の王たるソルディスが下手に貴族たちの力を借りることなどできない。そんなことをすれば彼らはすぐにでも王位の奪還をソルディスに要求するだろうし、更にはまだ年齢的に正式に王位を継げないソルディスの後見人になろうとするはずだ。
国王補佐は王族しかできないから、そこには父王が入ることは必至、そして後見人となった貴族と彼の間に内紛が起こり、一族もろとも排除されて終わりだ。
頭のいい弟王子が貴族としてのしがらみが少ない軍部を頼るのは明白だろう。
ましてや王都にあまり訪れたことのないオージェニック将軍は、ソルディスの顔すらまともに知らないはずだ。あのきらきらと目立つ髪さえなければ、簡単に身元がばれることはない。
「とにかく、今回の件の報告がてら、大将軍に事の次第を聞いてくる。ルアンも一緒に行くだろ?」
考える意識をそこで切り、クラウスは目の前にいる幼馴染に問いかけた。
「そうですね、私の方からも閣下に報告もありますし」
「「「ええええっ!今日の飲み会はぁ?」」」
一斉にあがった不満の声にクラウスは首をすくめると大きくため息をついてみせる。
「報告は軍人としての義務だろ。さっさと終わらせて帰ってくるから、いつもの店で先にやっててくれ」
「「「やったぁ!」」」
口々に軽い感謝の気持ちを述べている部下を残し、クラウスとルアンリルは連れ立って大将軍の元へと向かった。
ガイフィードの執務室では、将軍とその補佐官が複雑な表情で彼らを出迎えた。
「グレイ・エイシェスおよびルアンリル・エディン、先日よりゴーディエル村にて滞在していた偽王子の討伐より戻りました」
軍の決まりに則った挨拶をする第二王子に将軍は「うむ」と答えると、ストラウム以外の人間を執務室から追い出した。
更に念を入れてルアンリルが盗み聞き防止の魔法をかけたのを確認すると、ガイフィードはふぅと息を吐いた。
「偽王子の討伐の任務、お疲れ様でした。シェリルファーナ姫のことを聞かれましたか?」
「ええ、とうとう旅立ったかと思いました。ソルディスのところですか?」
苦笑しながら問いかけてきたクラウスに、ガイフィードは首肯する。
「オージェニック卿からの知らせを運んでいた鳩が鳶に襲われましてね。それを姫が保護してその際にその手紙を見てしまったようです」
妹の所業にクラウスは「あちゃあ」と頭を掻いた。
「躾がなってなくてすみません」
他人に届いた手紙を読むなど、王族じゃないとしてもあまり行儀のよくない行為だ。ましてやそれが軍の連絡事項を伝える手紙であれば、下手をしたらスパイ容疑をかけられても仕方ないだろう。
妹の所業に眉をしかめているクラウスに、大将軍は静かに首を振って見せた。
「クラウス王子に謝って頂く事ではありませんよ。キャレットの話では手紙は勝手に取れたらしいですから」
「そう言ってくださると助かります」
謝礼の意味で頭を下げた王子に年長者二人は暖かい視線で笑みを作った。
この王子は破天荒だ、無頼者だとあまりいい噂を立てられてはいなかったが、付き合ってみると彼の本当の礼儀正しさや頭のよさはすぐに感じ取れた。
ただ普通の王族のように鷹揚な態度で行動することができず、剣の道を目指すということできらびやかな服を好まなかったことが、王宮にて王を取り巻いていた貴族達に受けなかっただけのようだ。
そんな好ましい視線を向けられながら、クラウスは自分の頭の知識をフル回転した。
「つまりソルディスはベネシェンドに居るんですか?」
名前の挙がっているオージェニック将軍はこの国の南国境の要である。
たしかベネシェンドを守る位置に要塞を築き、周囲の治安を守っていたはずだった。
今回はサブタイトルのネタがなかった。本当は三十七〜三十九話で二つぐらいの話になるのを目指していたのにせいでサブタイトルのストックも二つだけだったんです。
ちなみにグレイとシェリルはこの町では似非兄妹みたいに見られています。
追加後書:どうもベネシェンドとブロージェカが頭の中でごっちゃになります。ガイフィード将軍が逗留していてクラウスがいるのがブロージェカ。オージェニック将軍の庇護下にあるのがベネシェンド。あああ、やっぱりこんがらかる。