第三十五話:山中のウィンザ
「「フレイル!!」」
声を揃えて名前を呼ばれて、フレイルは子供達の顔を確認した。
「キットに、フィンディ?お前ら、ウィンザは?」
落ちてきたのは自分と相棒が旅の途中で拾った子供達だった。
彼はこの村に来る直前に、彼らを相棒のウィンザに託しておいたはずだ。
「ベネシェンドに向かう途中で、人買いにフィンディが攫われそうになって山に逃げたんだ」
「ウィンザっ!今、お山の中で戦ってるっ!」
少女の主張が早いか、すぐさまソルディスは腕の中の少女を自分を支えている補佐官にあずけて、落ちてきた急斜面を駆け上がる。
「たくっ!無茶ばかりをっ!」
マキシムは託されたフィンディを、キットを抱えたまま呆然としているフレイルに押し付けて自分が護るべき副隊長の後を追った。
山賊と争いながら、覆面の青年は焦っていた。
多勢に無勢、護りながらの戦闘は無理と踏んで、子供達二人を先に逃がした。
彼らの後を追おうとする人買いの手先となっている山賊の行く手を塞ぎ、足場の悪い山の中で何とか凌ぎ続けているのだが、その彼の努力とは正反対に、逃げたはずの子供の悲鳴がさほど遠くないところから聞こえた。
(大丈夫なのか、二人は)
心配にはなるのだが、確かめに行くことはできない。
山賊たちも暫くぶりに獲る所だった高く売れそうな『少女』を逃がされてその怒りをぶつけるように、彼に切りかかってくる。
覆面の下から洩れる息はとうに上がっていた。
「邪魔してくれた礼に、その覆面の下の醜い顔でも拝んでやるよ」
もうそろそろ青年が限界に来ていることを見破った山賊の頭領と思しき人物が、嘲笑しながら彼に王手をかけようとしていた。
「右によけてっ!」
森の中をなれた足取りでかけてくる音とともに、少年らしい声が響いた。
全員が驚きとともにそちらに視線をやると同時に、小柄な体躯を翻して黒髪の少年が覆面の青年の左に迫っていた敵を切り捨てた。
「ウィンザさんですねっ!崖から滑り落ちた子供達は助けた。俺はランズール卿よりこの辺りの防衛を任されているソリュート・アドラム。加勢します」
周りを山賊に囲まれているというのにやけに冷静に自己紹介をする少年に、山賊は嘲笑を浮かべる。
「あーはっはっはっ!子供が加勢とはなぁっ!」
頭領の言葉に他の人間も哂う。
容姿だけなら逃げた少女以上だ。もしかしたら、あの子供二人を足したよりもいい値段がつくかもしれない。これは『飛んで火にいる夏の虫』だ。思わぬ上玉な獲物の出現に頭領は嫌らしく唇をなめた。
だが、ソルディスは彼らのその態度に、すぅっと目を細め、とりあえず手近な人間の体を薙ぎ払う。切られた男は対抗するまもなく、何が起きたか判らないままの表情で地面に転がり落ちた。
その信じられない場面に、笑っていた男達は表情を凍らせる。
「十分な加勢になるだろ?」
剣身についた血糊をぬぐうこともなく、少年は自分の手近なところにいる敵から順番に刃の餌食にしていく。
この時になって、彼らはこの近辺で噂になっている村のことを思い出した。
その村は貴族の愛妾といってもいいぐらいの容姿を持ち化け物のような戦闘力を持つ少年によって護られているという。
「お前、まさかっ!」
「思い出すのが遅いっ!」
ソルディスは言い科にその相手の息の根を止める。その様子を暫し、呆然としながら見ていたウィンザもすぐさま少年とともに攻めへと転じる。
ちぃっと大きく舌打ちした山賊の頭領はそれでも自分の勝利を疑わず、自らも剣を構えて総攻撃の指示をだす。この際、勿体無いが目の前の少年に傷をつける、もしくは殺したとしても致し方ないと彼は考えていた。
キット、フィンディに続いてウィンザの登場です。
なんか久々に仮タイトルをそのままサブタイトルに使うことができました。
でもソルディスの自己紹介を無視して、殆ど喋っていない。問題ありの登場の仕方です。(いや、それとも戦闘中に悠々と自己紹介かましているソルディスがおかしいかも?)