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第三十三話:王女の答え

大将軍の執務室を出た少年と王女は足早に自分達の住んでいる宿舎へと向かった。

やっと末兄の元へと行く許可を貰ったことは嬉しいが、将軍の条件の『意味・・』が判らず、シェリルはその道すがらずっと考え込んでいた。

(スターリングと私との違い……)

そんなもの多すぎてわからない。まず、性別、それから戦闘能力この二つは確かに違うが、そんなことを言っているのではない気がする。

(後は生活力、判断力、それから………末兄様ソルディスの信頼を得ている、こと)

兄弟の誰をもが欲しがる『信頼それ』を彼は持っている。それも殆ど出会って間もないといってもいい時期に、それを獲得していた。

もし将軍の言う違いがそこだというのなら、彼女はまだまだ彼の元へと向かう資格などないと言うことだろう。

(もしかして、遠回しに旅立つのを諦めさせようとしているのかな)

そうは思いたくないのだが、思考はどんどん後ろ向きになっていく。

「よう、スターリング。今日もお姫様のおりかい?」

二人が宿舎の入り口を通ったところで、明るい声が不意にかかった。

見ると、宿舎の中でも独身寮みたいな施設の賄いをしている中年の女性が明るく手を振っていた。

「お守りって……剣の稽古だよ」

スターリングは苦笑しながら、それに答えている。ごく当たり前の光景だ。

そんな中、シェリルはふと、先ほどかけられた言葉に首をかしげた。

「お姫様?」

どうして自分が『姫』であることがばれたのだろうか。彼女はそれがどうしてもわからなかった。

不思議そうに問いかけてくるシェリルに、彼女は目を丸くしながら驚きの声を上げた。

「あんたのことさ、わかってなかったのかい?ここのあたりじゃあ、グレイに匿われている貴族のお姫様だって有名だよ」

とんでもない誤解と、自分が『貴族』として周りに見られていたということに、シェリルは慌てて言葉を返した。

「グレイ兄さまと私は兄弟です」

そう主張する少女に、女性は頭をぽりぽりと掻きながら、疑わしそうな視線でシェリルの頭からつま先までを一通り見てため息をつく。

「って、言ってもねぇ。グレイはあの通り、普通の町の人間だけど、あんたは全っ然、上流の人間って感じだからねぇ」

的確な答えを突きつけられて、シェリルは目を見張った。

そういえば王都陥落の際に逃亡を手助けしてくれた旅の一座でも、次兄グレイは普通に外で村人に接することが許されていた。

長兄サイラスが捕縛された時も、自分は踊り子のお姉さんたちの荷物の中に隠されたが、彼は用心棒達の中にいても気づかれなかった。

王城にいた時、女官達が彼の事を『粗野』とか『気品が足りない』とか言っていたことも覚えている。自分も末兄ソルディスも彼の誇り高い部分を知っていたので、『見る目がないね』と笑っていたのは、遠い記憶に残っていた。

(もしかして、将軍が言おうとしているのって……私が試されているのって!)

唐突に判明した『答え』にシェリルはその女性の手を掴んだ。

「それって、スターリングもですか?」

だが、女性は急に捕まえられたことに及び腰になりながらも、ちらりと少年の方へと視線を投げかけた。

「スターリングも確かに下町って言うか、普通の田舎の少年って感じだね」

女性の評にスターリングは小さく肩を竦めて見せた。こういう宿舎で下宿のまかないをしているだけある。なかなか見る目がある。

(どうやら、答えが出たようだ)

少女の辿りついた答えに、少年は見られないように小さく笑った。

シェリルは女性の出した答えに満面の笑みを浮かべるとその手をぶんぶんと振り回した。

「ありがとうございますっ!」

「はあ?」

突拍子もない感謝の言葉に目を白黒させいてる女性へと、シェリルは最上の敬意を込めてお辞儀をすると、自分のことを待ってくれていたスターリングとともに足早に宿舎の部屋へと帰っていった。

やっとシェリルにも将軍の言葉の意味が捉えられました。

もともと頭が悪いわけではないはずなのに、周りが一を訊いて十を知る人や、一を聞く前に自分の能力で百を理解してしまうような人間なのが、彼女の凡人ぷりを際立たせています。

次からはまた暫く主人公ソルディスたちの方へと話が戻ります。

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