第二十八話:伝書鳩の知らせ
スターリングの提案にシェリルは素直に頷くと、大きく息を吐いてその場にへたり込んだ。
自分の体力の無さが本当に嘆かわしい。
「私……本と……に、強く…なれる……かな?」
聖長であるルアンリル・フィーナが用意してくれた滋養強壮に効果のあるドリンクを飲みながら、シェリルは自分とさほど年齢の変わらない自分の剣の師匠に問いかける。
スターリングはそんな彼女の表情をちらりと見ると心の中で嘆息をついた。
彼女がこれほどまでに『強くなること』に執着する要因は自分にもある。
スターリングの初めての親友である彼女の兄・ソリュードの旅立ちの際に『守られている状態で口を挟むことなどできない』と詰めたい言葉で止めを刺したことが大きく関与しているのだろう。
「とりあえず、始めたときから比べれば雲泥の差だろうね。でも、君の場合は剣よりも弓のほうが向いている」
「でもっ!」
スターリングの言葉に少女はいち早く反応した。これはいつもの言葉を繰り返すんだろうな、とスターリングはげんなりと彼女を見つめた。
「弓じゃあ、前線に出られない。それじゃあ、また守られてるのと一緒じゃない」
何度そうでないと告げても、彼女はその言葉を繰り返す。なまじっか、弓・槍・剣とすべての武器に通じる兄弟・知人がひしめいている彼女にとっては、『弓でしか戦えない』は『後方で守られるしかできない』となるのだろう。
「それにっ!」
ぴゅいぃぃぃっ!
シェリルがさらに続けようとした瞬間、天空で鳥の鳴き声が響いた。見ると小さな鳩が大きな鳥に襲われそうになっていた。
スターリングは遠めでその鳩の足に何かが括り付けられていることを確認すると今日こそはシェリルに渡そうとして持ってきていた弓を取り、大きな鳥の翼ぎりぎりに矢を放った。
急に飛んできた矢に驚いた鳥は獲物を捕獲せずに、大空へと舞い戻っていく。それとは逆に小さな鳩は揚力を失ったように落下し始めた。
息が整っていたシェリルはその鳩の落下点になりそうな位置まで走ると、空から落ちてくる小さな鳥を白い手のひらで受け止めた。
「ナイスキャッチ!」
スターリングの声に自分が無事に受け止められたことを改めて理解したシェリルは手の中に納まった小さなぬくもりへと視線を移した。彼女の手の中の命は、少々翼に傷を負っているものの、その他の部分には大した傷も無くくりくりと瞳を動かしていた。
ただ足の部分に取り付けられていた手紙が少し解けかけて落ちそうになっている。シェリルがそれを直そうと指を触れると、手紙はポロリと鳩の足から外れた。
(どうしようぅぅ)
慌てた彼女が助けを求めるようにスターリングを見上げると、彼は小さく肩を竦めながら彼女の手に転がっている文を開いた。
「大丈夫?」
驚いたように目を見開き問いかけてくる少女に、彼は小さく笑って見せる。
「誰宛か確認するだけだよ。そうでないと届けることも出来ないからね」
こういう連絡手段をとっているということは急ぎの用件の場合が多い。それに重要なものはやはり人伝の手紙で送られてくるはずだから、手紙を開いたところでそれほどの責めを負う事は無いだろう。
開いた手紙には綺麗に整った文字で小さくつづられていた。
『貴殿よりお預かりしているソリュード・アドラムの推挙にてそちらへ軍師を紹介したい
詳しい内容は後日、定期便にてお送りする、連絡請う。 K.オージェニック』
二人の視線は手紙の内容よりもひとつの名前に集中していた。
『ソリュード・アドラム』、それはシェリルにとっては一番俊の近い兄の偽名で、スターリングにとっては短い間だったがともに旅をした友人の名前だ。
(しまったな……)
安易に行動した自分に彼は心のうちで小さく舌打ちした。
ものすごく久しぶりの更新です。
王女と少年の剣術修行。王女の周りは規格外人物ばかりなので並より少し上程度の自分の実力では見劣ってしまうようです。