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第二十六話:軍師の行き先

「確かに貴殿の言うとおりかもしれぬ」

その言葉にフレイルは小さく口元を緩ませた。

「しかし、ここでは場所が悪かろう。この村にも、ベネシェンドにもすでに信頼に足る軍師がいる。二つの指揮系統が軍の混乱を招くのは定石じょうせきだ。

貴殿は他の軍師の下での『作戦を作るだけの指揮』になど興味はないと見えるが?」

続けられたオージェニックの言葉にフレイルは返す言葉が見つからなかった。

指摘された通りだった。最終決定を下す軍師の数が複数になれば軍の統率は乱れる。

フレイルの当初の目的は『王子ソリュード』の軍師となることだったが、彼が自分と同等、いや、それ以上の才能に恵まれている以上、ここで軍師になることは難しいだろう。

ならばとソリュードの上司に召抱えられることも考えていたのだが、智将として名高いオージェニック卿自身がすでに軍師であるためそれも無理だ。

彼にとってこれは想定外の事態ではあった。

「それならば、ブロージェカにいるガイフィード将軍の元に紹介してみてはどうですか?あそこにはまだ正式な軍師がいないと聴いています」

横から助け舟を出してきたのは、ランズール卿のスキンシップから逃れることに成功したソルディスだった。彼は吃驚している二人の視線に臆する事無く近づいてきた。

「まだ会ったばかりですが、彼の人柄に問題はないように見受けられます。ここで雇えないからといって彼のような才能を野に出し、敵側に持っていかれるのは怖い。それならば……」

ソリュードの言葉に、壮年の将軍は「ふむ」と考え込んだ。

目の前の少年にしては珍しい申し出だ。いつも少し控え目に隠れている雰囲気があったのだが、その彼が自らここまで意見を言うのは本当に稀有けうなことだった。

「確かにソリュードのいう事も一理ある。取り合えずガイフィールド殿に連絡をとり、承諾を得てみてから考えるとしよう」

オージェニックは即決すると、すぐに自分の部下に申し付け荷駄の中から通信用の鳩を持ってこさせた。更に概要を纏めた小さな手紙を手早く書きとめると、鳩の足に括りつけ空へと放す。

放たれた鳩は何故か、数度、ソルディスの頭上を旋回してから、大空へと飛び立っていった。

「返事は然程遅くないうちに帰ってくるだろう。その間、貴殿はどうしたい?」

伝書鳩の不思議な行動に目を見張っていたフレイルの方へ振り返ったオージェニックは何事もなかったように問い掛けてきた。その顔はフレイルとは違い一辺の驚きも見せていなかった。

(……って、ことはこれもおうじの周りでは『普通』の光景ってことか)

今更ながらソルディスの異質さを確認しながら、フレイルは将軍の問い掛けに迷いなく答えた。

「俺はここで待機したいですね。結果が出るまでは何処にいたってやることもないでしょうし、それならこういう温泉街でゆっくりしてたいってのが本音です」

フレイルは一旦、そこで切ると苦笑しながら、「それに」と短く続けた。

「それに?」

オージェニックが言葉の先を求めると、フレイルは自分の横にいるソルディスの頭をがしがしがしっと撫でた。

「ここにはこいつみたいに面白い少年もいますからね、何処にいるより厭きないでしょ」

フレイルの言葉にオージェニックは朗らかに笑いながら、

「それは確かに」

と応えた。

どうやらこの『軍師』を名乗る青年は『自分たちが気に入っている少年』に悪感情を抱いていないようだ。

それに安堵しながら笑っているとソルディスが少し不満げに二人を見ていた。

「俺、そんなに不思議ちゃんですか?」

珍しく年相応の対応をした少年に、周りにいた全員が小さく噴出したのだった。

やっとこの更新です。すごく産むのに苦労しました。

投稿前にも、頭から直しを加えるほど、ブレーキのかかる部分でした。

これで次話から物語の舞台がソルディスのいる田舎村からクラウスたちのいるブロージェカへと移動します。

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