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第二十一話:三人の剣士

そこには壮絶な笑みを浮かべたマキシムと、『ありゃりゃ』と呆れた顔をしたフレイルの姿があった。

「どうして、副隊長が最前線で戦っている?」

「あうう、おうう」

勝手に最前線に飛び出していったとはいえ、それを止めきれなかった自分に責任がないとはいえない。いつもなら、止められなかったことを庇ってくれる副隊長は今、戦闘真っ只中だ。

「たぶん、副隊長サンが勝手に出てったんだろ。ここで誰かに詰め寄ってても仕方ない。とりあえず、前線に出て彼を保護するか……それが出来なくても加勢するぐらいしなきゃまずいだろ」

岩の投擲という奇襲で少しは陣形が崩れているものの多勢に無勢なのは否めない。

いくら少年の剣の腕前が素晴らしいものでも体力の限界だってあるのだ。

「それでは、また後でいろいろと話そう。ビージェット」

マキシムは固まりきったビージェットにそう告げるとフレイルを伴って前線にて戦っているソルディスの元へと急いだ。




ソルディスは襲い来る兵に容赦なく切り刻んだ。剣を持つ左手はすでに敵の血を浴びて真っ赤に染まっている。いや、その全身も返り血でしとど濡れていた。

(さすがに、息があがってくるな)

剣の腕は確かではあるが、まだソルディスも16歳の少年である。この村に移り住むようになってからは王宮にいたよりもはるかに食を取るようにしているが、まだ大人の体力に追いつけてはいない。

兄上クラウスはもう俺の年齢の時にはもっと体格がよかったはずなのに)

確かに遺伝的には似たような体力・体格を持っているはずなのだが、明らかに自分のほうが体力が少ない気がする。

(やっぱり成長期に食べられなかったのはまずいのかな)

性格にはあの王宮にいる間は殆どのものが食べられなかった。父による毒殺命令で全ての食事に毒が盛られていたからだ。最初のうちは毒の入っていない料理だけを選んで食べていたが、次第に満遍なく全ての料理に入れられるようになった。

そうなるとすべての料理が食べることは出来なくなり、調理場に行っては適当な食材を盗んでみたり、王宮の中で育てられている食べられる果実で自分は成長してきた。

(おかげで今でも同年代の人間よりも細いんだよな。腕が)

一緒に旅してきたスターリングやこの村にいる同年代の人間とも比べてみたが、どうやら自分は発達不良な部分があるらしい。

そんなことをつらつらと考えながら、ソルディスは舞うように剣を閃かせる。その旅に敵の歩兵の身体は面白いように崩折れていく。

それを見ていた先行の騎兵が怯えるように奇声を上げつつ、ソルディスへと槍を放った。

「副隊長っ!」

ビージェットは悲痛な声で少年に向って叫んだ。


ガギィッ!


しかし放たれた槍は少年に大ぶりの剣で薙ぎ払われた。

「大丈夫ですか、副隊長」

槍を薙ぎ払ったのはやっとの思いで駆けつけたマキシムだった。フレイルも槍の切っ先からソルディスを守るような位置へと入っている。

「マキシム、グッドタイミングだ。もうすぐ騎馬隊が導入される」

ソルディスは上がる息を何とか押さえながら、自分の補佐官に頷いて見せた。

マキシムの手にはいつも彼が稽古用に持っている細身の剣とは違う馬をも凪ぎ殺せるほどの大ぶりの剣が握られている。先程、槍を払ったのもこの剣だ。

未だ体力の限られるソルディスには持てない破壊力のみの剣は騎馬を相手にする時、その威力を発揮する。

ソルディスの言葉にマキシムは深く頷いてみせた。次いで少年は臨時の参謀に目を向けると、少しだけ笑って見せた。

「ファード卿は下がっていてください。客人である貴方あなたを最前線に立たせるのは忍びない」

ぎこちないその笑みにフレイルは肩を竦めて見せ、軽く拳骨で彼の頭を小突く。

「あのな、こういう最前線には剣の腕が立つ人間が必要だ。とか、言って後ろにいる部下黙らせて来たんだろ?その理論から行くと俺もこの位置に立つ権利があるはずだぜ」

フレイルの申し出はもっともだとマキシムは思ったが、目の前の自分の上官はそれでも食い下がるように彼に反論しようとした。

「ま、そう言ってるうちに真打の騎馬隊のご登場だ。四の五の言わずに頼ってみろよ」

フレイルはそういうとスラリとした長剣を構えた。

たしかにもう馬の蹄の音が近い所で響いている。ソルディスは大きく溜息をつくと、自分の剣をしっかりと左手に構えた。


こうも話が進まない回だとサブタイトルに困ります。

次話のサブタイトルが決定しているだけに特に。

とりあえず、ソルディス・マキシム・フレイルのこの部隊の中でも剣の腕が立つ三人の戦いっぷりということで『三人の剣士』としました。

仮タイトルでは『〜の剣豪』としていたのですが、ソルディスは『豪』ではないので変更です。

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