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第十八話:略奪の痕跡

(なぜ、この小僧がそれを知っているっ!)

その3つの都市はトラント卿の中でも卿に近い人間だけで襲った土地の名前だった。略奪に近い強襲だったため、ジャグレイのような昔ながらの騎士はつれて行かず、更には大々的に自らの騎士団を使用することができないために、大量の傭兵を雇い入れた。

そして攻略すると同時に雇っていた傭兵たちの食事と飲み水に毒を盛り、すべてを殺害した。これでその土地を襲った事実も、傭兵たちに対価を支払わずに更に彼らが持っていた金品まで奪った事すら闇に消えたはずだった。

ダッチェンボルトはソルディスの後ろにいた傭兵の顔を盗み見た。その顔には驚愕と自分たちに対する大きな憤りを宿している。

「何を言っているのか……」

「動揺が顔に出てるよ。その上、今回も傭兵達に毒を盛る計画してただろ?」

今度は畳み掛けるようにフレイルが言葉を重ねた。

「そんなはず、あるわけないだろうっ!わが軍を誣告するのもいい加減にしてもらいたいものだな」

唸る様なダッチェンボルトの言葉にマキシムと傭兵は詰問をするソルディス・フレイルの両名と虜囚となっている貴族を見比べた。

たしかに目の前の男は先ほど少しうろたえたが、それ以外に明確な証拠はない。たとえここで供述をしたところで『脅されて仕方なく嘘をついた』と言われたらそれまでだ。

「あくまでも、襲っていないと?」

彼の目前に鼻梁を寄せ、ゆっくりとした口調で問いかけたソルディスに彼はぎろりと睨みを利かせる。

「当たり前だっ!王都は別として他の土地には言ったこともないぞ」

「ふぅん……」

唾をも飛ばす勢いでの否定にソルディスは少し口角を上げ、彼から離れて後ろの3人に振り返った。それから小さく首を傾けて、ねだるように彼らにお願いする。

「3人とも、今の言葉の承認になってね?」

「「「はい?」」」

はたまた珍しい少年の仕草に数年来の付き合いであるマキシムを初め、残り二人も呆けた返事をした。

そんな彼らを差し置いて、ソルディスはダッチェンボルトの服を破ると彼が隠し持っていた皮製の袋をその懐から取り出した。

「こらっ!何をするっ!」

あわてたダッチェンボルトを差し置いてソルディスはその袋の口をあけ、その中身を地面に広げる。そこから出てきたのは人目で価値がありそうと分かる宝石つきの装飾品や金貨だった。

少年はその中から女性が身につけるような装飾のひとつを拾い上げ、ダッチェンボルトの眼前に突き出した。

「これは、なに?」

それは確かに一番最初に襲ったバーグレットで妙齢の女性の死骸から奪ったものだった。王家から下賜されたという刻印が入ったそれは、新興貴族であるダッチェンボルトが喉から手を出してでも欲しい『伝統』という物に見えてトラント卿には内緒にして自分のものとしていた。

そういえば、サーヴェルグレイスの時に雇っていた傭兵にこの装飾品を偶然見られてしまったがすぐにいつもの通り毒薬で殺害したため大事に至らなかった。

それをこの目の前の少年が知っているとは思えない。ならば、これは我が家が王家より賜ったことにすればいい。そうあのジャグレイの剣と同様に……ダッチェンボルトはそこまで考えて目の前の少年に虚偽の申告をしようとした。

「これは当家が昔から所有する……」

「へえ……そう」

しかしダッチェンボルトの言葉は最後まで言わせてもらえなかった。少年はそのままそれを持って立ち上がると、眼を見開いてこちらを見ている傭兵へとその装飾品を差し出した。

「はい、これ貴方の物でしょう」

傭兵はそれを両手で受け取ると確かめるようにその表面を撫でた。

「あなたの弟が傭兵に身をやつしてまで手に入れたあなたの奥さんの遺品。返しますね」

少年の発した言葉を聴き、その場にいた3人は驚愕の表情を浮かべた。傭兵は指先でその装飾を撫でながら、息を呑んだ。

確かにこれは自分の妻が実家から嫁いでくるときに持ってきたものだ。由緒ある家の令嬢だったが新興貴族だった自分と恋に落ち、両親を説得して嫁してくれた。

そのときに彼女の両親が持たせてくれたのがこの装飾品だった。

あの『狂王』の異名を持つバルガス王の下でも自分たちはそれなりに幸せに生きていた。

数年前、内乱が起きた時は自分たちまでその戦禍が飛び火するかと思われたが、内乱の火種は王都のみで炎上したので田舎に住む自分たちはそれほど被害を被らなかった。すでに両親はいなかったものの、彼女と弟との3人で慎ましく暮らしていた。

忘れもしないあの日、妻は実家のあるバーグレッドに向かいそこで命を落とした。見つけた彼女の身体には乱暴された後があり、その上、彼女がいつも見につけていた装飾品も奪われていた。

それが、今、目の前にある。

ダッチェンボルトの懐から取り出されたそれが、少年の言葉の正しさを示している。

重い沈黙が小屋の中を暫し覆った。

なんか、だんだん話が今の戦いからずれてきました。でもソルディス案外本領発揮しているかも。

この辺りの話は打っている最中に急に思いついたので字の配分が……めちゃくちゃ多い。多すぎだけど変に分けると更に訳がわからないことになるので、長いままupです。


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