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第十二話:内部崩壊への布石

二個目の荷駄より大きな炎が上がった。

一つ目の時と同様に立ち上る炎に軍の内部がざわめき立つ。

(こうなると、人の顔なんて確認している余裕がなくなるんだよな)

フレイルは動揺している傭兵の中に紛れ込みながら、立ち上る炎を見ていた。

「おいおい、こんなことになって俺たちへの報酬はちゃんと貰えるんだろうなぁ」

炎を見つめて呟くフレイルの言葉に回りにいた傭兵が急に慌て始めた。

「そうだぜ、まだ戦ってないからいいようなものの燃えてないから今回の報酬が減ったじゃやってられねぇぜ」

フレイルの言葉に呼応するように周りの人間が次々に不安を口にする。

元々傭兵など報酬だけが目当ての人間なのだ。こんな目の前で戦う前に燃えていく荷駄を見せ付けられれば戦う意欲が半減する。

それでも襲う場所が裕福な場所ならばそこから奪ってやろうと考えるが、目の前にある標的はどう考えてもそれほどの金を溜め込んでいるようには見えない。

「なあ、ここまでの駄賃分貰ってさっさと散ったほうが得策じゃないか」

傭兵の一人が言った意見に周りの傭兵達も順々に傾いてゆく。

その姿にフレイルは誰にも見られないようにニヤリと笑った。

烏合の衆はその心のり所となっているものがなくなれば解体するのも早い。

「とにかく見張りの少ねぇ荷駄ぶつを探して報酬を貰うとするか」

その声を合図に傭兵達は襲うべき荷駄を物色するために散っていく。

フレイルもそれに同行するように見せかけその場を離れた。




3つ目の炎を上げる仕掛けをし、少し離れた場所についた時点でマキシムはふぅと息を吐いた。

これで自分の役目は終了だ。後はこの場から速やかに離れるだけだ。

貴族所有の騎士団だけあり統率が取れているように見えていたトラント卿の陣営は、その実、傭兵達と既存の兵士たちとの間に軋轢があるようで兵士がマキシムの顔を見ても『また新参者の傭兵か』とばかりに鼻白むだけだった。

(こうなるとあの軍師の策略もあたっているということか)

確かにこの兵の中では村の純朴な青年たちでは違和感があるし、年若い副隊長は割る目立ちしてしまう。

「おい!」

少し考え事をしていたマキシムに声をかける人物がいた。

振り返るとどうやら既存の兵と思われる人間がこちらを睨んでいた。

「まさかこの騒ぎ、お前らが仕組んだんじゃないだろうな」

一瞬、どきりとしたが彼のいう『お前ら』というのがこの軍に在中する傭兵を指しているのだとすぐに理解したマキシムはぶんぶんと大きく首を振った。

「まさかっ!俺たちの報酬の入った荷駄を燃やす馬鹿がいたら俺たちがたこ殴りにしてやるぜ」

出来るだけ粗野な口調で否定する言葉を吐いたマキシムに兵士たちも「それはそうか」と納得したようだった。


どぉぉぉぉんっ!


タイミングよく、先程仕掛けた3つ目の珠が大きな炎を上げた。

「なっなんだ!また爆発っ!」

慌てふためく演技をしているマキシムに兵士たちは「まだ戦場になれていないのか」と勝手に判断したようで小馬鹿にするような視線を投げた後、炎を上げている荷駄に向かって走っていった。

その場に残されたマキシムは炎と爆発に脅える新参者の傭兵を演じながら、夜陰へとその身を翻したのだった。




最初に陣を見下ろしていた場所まで戻り、フレイルは少しだけ胸を撫で下ろした。

眼下では予定通り三つの炎が上がっており、少なからず陣内で小競り合いまで起きている。奇襲としては成功に入るはずだ。

後はマキシムが戻るのを息を潜めて待つだけだ。

そのマキシムもそれほど待たずして姿を現した。とりあえず回りに気配を配りながら近づいてくる姿にフレイルも肩の力が抜けた。

「大成功、だな」

「そうですね」

ぱんっとハイタッチをした二人の顔ににんまりとした笑みが起きる。

互いの無事が確認できたら後は自分たちの陣営まで戻るだけだ。もちろん、この霍乱をこちらの陣営の奇襲だと理解して帰り道に兵を配している可能性は否めない。

気を抜くにはまだ早い。

「さてと、どの道が一番……」

「お疲れ様、無事で何よりだ」

撤退の経路を模索し様としたフレイルの言葉を遮って少年の声が響いた。

マキシムには聴きなれたその声の主は怪我一つしていない二人の様子に安堵の表情を浮かべて近づいてきた。

フレイルが狙っていたのは荷駄を燃やすことではなくそれによって起きる内部のいざこざでした。

そしてやっと最期に主人公が復活です。

それにしてもこんな小競り合いが十話以上も続くとは思いませんでした。さっさとこの戦いの話を終わらせて話を展開させたいです。


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