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第十一話:炎の陽動

ランクビット村から少し離れた場所に陣を構えたトラントは苛立ちを隠さず、自分の部下たちを睨みつけていた。

「あの村を束ねているのは16歳ぐらいの子供だから容易く攻略できると豪語したのはお前らではなかったのか?」

野盗のごとき奇襲と、ある程度の先遣部隊を率いたのに単なる村人に負けて帰ってくるなど彼の考えではありえないことだった。

更に言えば、指揮しているのがあの智将とも名高いオージェニックの腹心ランズール卿ではなく、それに目を掛けられているとはいえまだまだ子供の少年だというのだ。はっきり言って敵を舐めてしまったばかりに遅れをとったとしか彼には思えない。

「しかし、あの密告の内容とはことなり村人は統率を持っているのも確かですぞ」

進言をしたのはトラント卿の部下の中でもまだ戦略を練れる部類に入る老将だった。

「やはりフライアンテ卿がもたらした情報は偽者で、すでにランズール卿は村に入っているのではないですか」

老将の言葉を受け、部下の一人が不満を漏らした。

自分たちが負けたのが少年だと認めたくないのだ。それならば先にランズール卿が到着していて自分たちを負かしたと思うほうが気も楽になる。

「こちらの間諜の話では2日前までランズール卿はまだベネシェンドにおるのは確認しておる。自分の失態を軽くしようと思うな」

トラントは不満そうな部下に鼻白みながら忠告すると机の上に広げられた地図を眺めた。

確かに先見隊での奇襲は失敗に終わったものの、本隊はまだ無傷だ。

今の状況なら敵がどれほどの策を練ろうともこちらに敗北する要因は無い。あとは時間だ。時間が遅れれば遅れるほど、今度は後方よりベネシェンドからの援軍がやってくることになる。

それまでに村を押さえて、自分たちの要塞とすれば向こうも手出しできないはずだ。

「それにしても、16歳の少年とは、な……」

かつて自分が敷いた王城の包囲網を簡単に抜けて逃走した王子と同じ年齢ではないか。

あの時、自分は完璧な包囲網を引いたのに、唯一ディナラーデ卿が管轄した正門よりソルディス王子たちは逃げ出したと聴く。

すべてを自分に任しておいてあったならば、そんなことにはならなかったはずだ。

(時守を利用して関を作ってあったというが、そんな生ぬるいことなどせず十代ぐらいの子供を皆殺しにしてしまえばよかったのだ)

そうすれば今のようにどこに潜伏しているかわからない王子に手をさくこともなかっただろう。

しかしそれは今考えても詮無きことだ。

今は目の前の村を落とすためにどうすべきかを考えるべきだろう。

とりあえず、昼間の奇襲は失敗だったが、相手を疲弊させるには十分の働きをしていると思われる。ならば夜も人を割き、村を襲わせたほうが得策だろう。

「とりあえず……」


ドォォン……!


トラント卿が深夜の奇襲について指示を出そうとした瞬間、天幕の外で爆発する音が響いた。

唐突な音に天幕の中がざわめく。末席にいたものが様子を見に行くために立ち上がろうとしたまさにその時、血相を変えた兵が天幕の中へと駆け込んできた。

「敵、奇襲ですっ!荷駄が燃えております」

「なんだとっ!」

その報告にトラントを始めとする将達はいきりたった。




荷駄の影で陣の様子を窺っていたマキシムはそのときを息を殺して待っていた。

トラント軍の荷駄は大小あわせて8箇所に分布しており、それぞれ荷駄の無事を守るために警備が立っていた。

不意に自分がいる場所と少しだけ離れた場所で大きな音がした。

そして立ち上がる炎と煙、それに驚いた荷駄の警備兵は2人を残し炎が上がるほうへと様子を見に向かう。

マキシムはそんな兵の様子に口角をあげた。

見張りの人数が減ればそれだけ死角は多くなる。更に残された見張りももうもうと立ち上る炎に視線を取られており、自分たちが守るべき荷駄への警戒が緩まっている。

彼は更に荷駄の乗る馬車へと近づき、鋭い一閃で受け取っていた珠に傷をつけた。そしてそれを静かに馬車へと転がす。

(よし……)

転がした玉は見張りに気付かれずに馬車の下へと転がった。とりあえず同じように後2個ほどきりつけ同様に転がすと、彼は爆発を確認せずにその場から離れた。





殆どトラント卿の独り言みたいな回でした。

やっと夜陰にまぎれての奇襲が開始です。まだまだ主人公が出てこないまま話が進みます。


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