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恐るべき初恋の呪縛哉

 使い魔鍛錬エリアからの脱出は、時間制だった。


「おかえりなさい、カイちゃん……あら?」


 ボス戦後、使い魔たちが公平に抱っこを要求してきたので、俺は仕方なくお姫様抱っこをしてやっていた。そこへ突然、芋畑へ帰還させられてしまったという……最悪なタイミングだ。


「あ~! ずるい!」


 待機組の使い魔たちが、やっぱり押しかけて来る!

 全員抱っこなんて、俺は御免だぞ!


「はいはい。ちょっと、カイちゃん借りるわね。あなたたちは、お家に戻りなさい」


 使い間たちに押し潰されまいと逃げ出しかけた俺を、銀髪が救い上げてくれた。文字通り、網で掬い上げられ、宙に浮いた銀髪に担がれている俺。


「ええ~! 一緒に行く」


 本当、誰の言うことも聞かないな、こいつら……。銀髪は、おまえらとはレベル違いの相手だって、俺でも分かるぞ。


「まあいいわ。勝手になさい」


 一気に高度を上げていく銀髪。風を切り、白い霧が視界を埋め尽くした。どうやら、雲まで到達したようだ。


「ご主人様~! 待って~!」


 下から微かに使い魔たちの呼び声が届く。

 このまま高速移動かと思いきや、雲の内をゆったり流れていく俺。こんなでは、使い魔たちが追い着くのも時間の問題じゃあ…………あれ? 全く近づく気配なし? 声すら、もう届かない。


「なんでだ?」


「この先は、ミカヤ様の居城に続いているの。招かれざる者は通り抜けることはできないわ」


「へえ~、あいつらは門前払いか……って、今何て? ミカヤ様の?」


「そうよ。正式にお城仕えになった御報告にあがるのよ。嬉しいでしょ、カイちゃん」


「俺こんな格好で?!」


「大丈夫。お気になさらないわ。畑から直行する旨はご承知だし」


 俺が気にするって! 泥まみれだし、ステテコだし、長靴だし……プラス要素皆無だ! 

 しかし、急な展開で慌てふためく俺に配慮する銀髪ではない。


「遅かったね、ルウデリア。待ちくたびれたよ」


 錦鯉がきらきらと湖面を彩る池のほとりにて、俺は初恋の君と再会する。

 網の中で揺れる俺は、この時どんな風に見えたのだろうか……うう、あんまりだ。



        ◆    



 心拍数やばい。全身がどくどく波打ってる!

 池に架かる朱色の橋の中央で、銀髪と話すその横顔に魅了され、身も心も一瞬たりとも逃れられない。

 何でこんなんなっちゃうわけ、俺? ああ、恋だね。答えは知ってるさ。でも実際、持て余してると言っていい状態。初めての事態に、俺も俺をどう扱っていいか迷走しているわけだ。

 何が俺にここまでさせるのか?

 一目惚れなんだから、顔がタイプなのは間違いない。ただ、綺麗ってだけなら、使い魔達だってOKな筈。だったら、決定的にあいつらと違うのは……気品? 王族故の気高さってやつかな? 

 なんと、王女が初恋条件だったとは……! 俺のストライクゾーンは針穴かよ!   


「カイト! そなたに王都を見せてやろう。共をいたせ」


 へ?! 急に名を呼ばれ、心臓が跳ね飛んでいきそうになる。しかも、え? お共をしろって? 


「ミカヤ様!」


 お、銀髪の制止きた。


「ルウデリアの申すとおり、3月待ったのだから、もう私の好きにしてよい約であろう?」


 好きに? それはもう煮るなり焼くなりご自由に。


「いいえ、なりません! この者は、元よりこちらの住人ではないのですから、まだ多くを学ぶ必要があるのです」


 俺は現状あまりに無知だから、その必要性は大だ。


「だとすれば、王都に行くは、五感で学べる良い機会だな。カイト、行くぞ」


「は、はい!」

 

 主に従うのが、臣下の務めというものだろう。

 

「ミカヤ様! お、お待ちくださ……」


 銀髪の声が、なぜか途切れる。あれ? 姿も霞んで……?!

 

「うわっ!」


 と、取り囲まれてる! 何で、どっから人が!? わ、沸いてきた!?

 

「落ち着け、カイト。私はここにおる」


 え? 動揺する俺の手を引き寄せる、この滑らかな感触は……!


「ミ、ミカヤ、様?!」


「王都マクラビは今、収穫祭の最中故、広場は人で溢れかえっているな」


 ち、近い! 寄り添ってるといえる距離! 


「あ、あの……」


「ん? ああ、すまぬ。いきなり飛んできて驚かせたか?」


「い、いえ。だ、大丈夫、平気です」


 そう、王都に瞬間移動したショックは軽い。なにせ、それ以上の緊張に取って代わられたから……まさかの、手繋ぎお祭りデートが始まるなんて! 嬉しいを通り越して、やばい、吐きそうだ!

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