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異世怪情報に注意せよ

 ハムスターに似た小動物が、森からぞろぞろぞろぞろ……気色悪いほど沸いてきた。


「いやあああ! ルウちゃんごめんなさい! きゃあああ!」


 捕縛された網の中で許しを請う黒髪に、百匹はいるであろう大群が網穴をくぐって襲い掛かっていく。


「きゃははははっ…くす、くすぐったい! いや~ああ! そんなに舐めないで~!」


 こいつらの好物の匂いを全身に振りまかれ、逃げ場のない狭い空間で転げまわる黒髪。

 お仕置きの遂行を冷徹に見据える銀髪。

 他人の不幸を見て爆笑中の使い魔達。

 俺? 俺は……黒髪から得た情報を検証中。

 ‘王様になれなかったら女の子に’の意味するところは……王位に就くのは当然1人。よって残りの王様になれなかった王子は女体化……ってことか? うげっ……俺、そのジャンルは免疫低めだから、あんま想像広げたくないんだが、ないんだが………。


「ごめんなさいね、カイちゃん。クウちゃんのせいで、ちょっと混乱させちゃってる?」


 銀髪がやってきたので、幸いなことのに、俺は禁断の妄想が膨らむのを阻止できた。


「ミカヤ様のことは隠すつもりはなかったんだけど、カイちゃんがミカヤ様が女性になるなんて知ったら、何かと仕事に差し障りが出るかと思ったのよ」


「え……な、何で?」


「だってカイちゃん、ミカヤ様のこと好きなのでしょう?」


 な?! 突然、何を言い出すんだ銀髪は! 俺は断じて男にも元男にも興味なんてないぞ!

 しかし、どうした俺!? 発熱した血が駆け上がってきてるぞ! 図星なのモロバレで、穴があったら即突入みたいじゃないか! 


「ミカヤ様が男性だろうと女性だろうと、カイちゃんの完全なる片想いで終了なのは間違いないとしても……好きな子が男の子になる手助けなんて、人間の思考からすると気が進まないのではなくて?」


 激しい動揺にみまわれる俺に、銀髪の言葉がかろうじて届く。


「は? 何それ、言ってる意味がその……よく分からないんだけど。女になるとか男になるとか……結局のとこ、どっちなんだ?」


 男か女か、そこが最重要ポイントだ。完全な片想いってとこも、チクッとショックだが……。


「それは……今はどちらでもないの」


「へ? どちらでもない? 男でも女でもないって、どういう……え、両性具有とかいうやつ?」


「両性? いいえ、ミカヤ様はお生まれになって13年、未だどちらの性も宿してはいないわ。カイちゃんの世界では有り得ない? でも、それはこちらの世界でも同じこと。この国の王位継承の形は、数百年前から魔道によって歪められているの」


 えええええ!?

 そんな……! 3歳くらい迄ならまだしも、13歳にもなって性別未決定て……!


「……いくらなんでも、無理」


 精神的にも身体的にも弊害出そうだ。異世界怖っ。

 いや、でも数百年続いてるわけだし、わりかし平気なのか?


「ルウちゃん! もう、勘弁してよ~!」

 

 新情報続出で疑問満載なのだが、解答を得られる前に、黒髪の悲痛な叫びが割り込んできた。

 あ、ごめん。忘れてた。


         ◆       ◆       ◆


「も~! ひどいよルウちゃん! いつもより長すぎだよ! 体中べとべとぬるぬるだよ! お風呂入ってキレイにしてくる!」


 やっと拘束を解かれた黒髪は、まとわりつく小動物を振りほどくと、大急ぎで空へと消えていった。

 いつもよりって……結構な頻度でお仕置きされてるのか、黒髪? 


「かわいい~! これ飼っていい? ご主人様」


 使い魔のひとりが、取り残された小動物を俺に差し出してくる。それに続けとばかりに、他の使い魔たちまでが「飼いたい、飼いたい」と言い出した。

 こいつらお得意の集団攻撃だ。


「ダメダメ! お前らだけで、ログハウスはぎゅうぎゅうだろ!」


「ええ~! じゃあ、食べちゃっていい?」


「はあ?! どうやったら、ペット候補が食料に切り替わるんだよ! 早く森に返せ!」


「わ~い、怒った怒ったあ」


「ご主人様からかうと、おっかし~い」


 きゃははははっ! と楽しそうに散り散りになっていく使い魔達……こら、俺は遊び道具か!

 ああ……こいつら、あれだ、イタズラ生意気盛りの小学生レベルだ。さしずめ俺は54人のクラス担任だな。うん、その構図がしっくりくる。ハーレムなんて甘ったるいもんじゃないな。


「初めはどうなるかと心配したけど、使い魔とは上手くやれてるみたいね、カイちゃん」


 え? 上手くって……銀髪、今の見てた?


「いや、全然。使いこなせてないよ」


「まあ、カイちゃん。使いこなすだなんて……。あの子達は生まれたばかりで、御用事できる使い魔ではないのよ」


黒髪と同様の返しだ。


「うん、分かってる。分かってるけど、もどかしくてさ」


 あれだけいるなら、一人くらい手伝おうという気にならないのかと……。


「召喚士によって呼び出される使い魔と違って、ツクモンが原料の使い魔は低レベルスタートだから、育成に手間とお金がかかるのよ。もともと富裕層向けの娯楽として売り出された商品だし……年間維持費が本体価格をはるかに上回る欠陥使い魔よ」


 え、今何と? 冗談だろ……こいつらに年間金貨3千枚超えとか?! 借金ふくらむ一方じゃないか!


「俺、さすがに養いきれないよ」


 そんなに費用対効果に隔たりがあるとは思わなかった。

 金持ち相手の商売は、どこもぼったくりだな。


「心配無用よ、カイちゃん。維持費のほとんどは、彼らを手元に繋ぎ止めるための費用ですもの。あんなに懐いてるカイちゃんの使い魔には必要ない経費だわ。その特異体質あってこその買取だったのですから」

 

 黒髪が『逃げ出さないだけマシ』って言ってたのは、そういうことか。


「じゃあ、普通は逃げ出さないように何かいるわけ?」


「もちろん。使い魔に気に入られるように、貢ぎ物がわんさか必要ね」


「貢ぎ物? 主人が? 逆じゃないか、そこ」


「仕方ないわよ。召喚士でない素人が、使い魔をただではべらせられるわけないでしょ。手懐けるには、その使い魔の好むものを与えるしかないのよ。それも大概、値が張るものばかり……上手く育て上げれば化ける子もいるようだけど……大金費やしてまですることかしら?」


 それは多分、エロ親父に需要があるんだよ。

 あいつら見た目だけは一級品だからなあ。それも劣化なし。


「使い魔所有が金持ちのステータスで、自慢し合うのが流行ってるとか?」


 少女な銀髪に『お妾育成して楽しんでるんだよ』とは返せない。


「ああ、なるほど。ツクモン製使い魔限定バトルトーナメントやらコンテストやら……賞金はぱっとしないし、何の益があるのか疑問だったのだけど、あれは自慢大会なのね」


 え? トーナメント? そんな要素もあるんだ。

 つまり、リアルにダメっ娘育成ゲーム?


「俺の使い魔でも、参加できたりするのかな? レベル上がったらの話だけど……」


「あら、興味あるの? そうねえ、参加できるレベル12以上になるには、半年はかかるかしら」


「半年か……。あれ? でも具体的にどうやったらレベル上がるんだっけ?」


 農作業と自炊の説明はばっちり受けたけど、使い魔たちについては、低レベルのいるだけ要員ってことだけで、詳しくはまた今度の放置状態だった。


「小振りでも、形は良いお芋が収穫できたわね、カイちゃん」


 何を思ったか、銀髪は芋の品評を始めた。

 話の転換が唐突すぎやしないか?!


「いいわ。正式にお城仕えとして雇ってあげる」


 両手に掴んだ芋の片方を、ビシッと俺に差し向けてくる銀髪。

 え? 正式採用されたの俺? 

 しかし、芋からどう発展したら、そうくるんだ?


「この芋は、掘り出す者によって形状が変化してね、邪悪に染まりやすい者か否かを判別できるの。ほかには、将来性、潜在能力なども占えるのだけど……カイちゃんは、よっぽど下手しないかぎり、美味しくいただけるわ」


 美味しく、俺をいただくわけではないよな? 芋の話だよな?

 それにしても、邪悪な思想持ちだったら、どんな芋が出現したんだろう? いや、それより、邪悪な芋掘りおこしてたら、どうなってたんだろうな。不採用は確定として、危険分子は抹殺とかだったりして…………良かった、普通の芋で。


「今後、カイちゃんの当面の仕事は、使い魔の育成ね。ただ、その使い魔についても、こちらの世界についても、一から学んでもらう必要があるわ」


 さて、やっと、俺の立ち位置を知るべき時が来たようだ。 

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