ハンター来襲
俺には魑魅魍魎が見える……とか言えたらカッコいいのにな……。
いや、こいつら、実際は魑魅魍魎かもしれんが、イメージと乖離しすぎだろう。親戚っぽいのは、ゆるキャラだな。
突然だが、俺は30cmゆるキャラもどきを50体程お供に引き連れ、チャリで登校中だ。なんとも滑稽な光景を万人に披露できないのが残念だ。
「さて、お前ら、高校生になった俺の通学路はハードだぞ。いつもの田舎道と違って、車通りの多い道に出るから、交通事故には気をつけろ。跳ね飛ばされても、迎えに行ってやれんからな。では、各自、健闘を祈る」
ゆるキャラもどき達は、俺たち三次元物体にぶつかる。けれど、知る限りで俺以外でやつらの感触に気付いた者はいない、不思議な生物だ。かくいうそんな生物と共存している俺も、不可思議な存在かもしれんが……。
「お前らな~、ちっとは障害物避けろ! 外傷なしの無敵だからって、突っ込んでいきすぎだぞ!」
車やバス、電車移動で、散々吹っ飛んでいっても、こいつら、未だ学習能力が発動しない。まあ、新幹線衝突したやつも数日の内には帰って来たし、帰巣本能卓越してるから、こいつら的に問題無しな訳か。
軽快にペダルをこぎ続け、俺が次なる移動手段である電車のやってくる駅に到着したとき、お供は10体までに減っていた。
「分かってるな。黄色の線から前に出るんじゃないぞ」
一応注意はしてみるも、こいつらに伝わってないことは経験上明白で……予想通り、ホーム下に降りていく。
はああ……頼むから、自主的に大人しく留守番しててくれよ。
◆ ◆ ◆
1時限目が終わる頃には、散り散りになってしまったお供54体、無事帰還を果たした。
休憩時間に、渡り廊下で、ゆるキャラもどき54体を数え終わった俺は、ほっと一息吐く。生まれた時からの付き合いだから、こいつらにはそこそこ愛着がある。
「お前ら、せめて、犬猫並みに知能があればなあ。もっと可愛げあるのに……俺にまとわりついて、ちょろちょろしてるだけって……お前ら気楽な人生送ってるなあ。楽しいのか?」
返答など期待していない俺の問いかけに、タイミングよく始業のチャイムが応えた。やばい、初日から授業に遅れて目立ってしまう。
「見て見てあれ! すっごい数のツクモン!」
急ぎ教室へ向かおうとした俺の背後へ、女の甲高い声が浴びせられた。振り返った俺の目が、奇妙な2人組を捉える。
「……?!」
何が奇妙かって? いろいろ突っ込み所は満載だが、何といっても、渡り廊下の手摺りの向こう側にいることが1番おかしい。ここ、3階。彼らは浮いてるんですかね?!
「こんなに群生しているツクモンなんて、初めて! かなり珍しいケースじゃない?」
白いワンピース姿で、黒髪ショートカットの少女が興奮気味に言い放つと、黒いワンピース姿の足元まで届く銀髪を揺らす少女が口を開いた。
「クウちゃん黙って。ツクモンがいくら束になったところで、戦闘力は0。楽勝なターゲットよ。ほら、しっかり回収して! 行くわよ」
「…は~い」
二人は、背中に背負っていた巨大な虫取り網を取り出して構えた。すると危険を察知したのか、54体が一斉に俺に群がってきた。
「な、何だ? まさか、お前らピンチ?! って、焦りすぎ! うわっ」
我先にしがみつかれて、もみくしゃにされる俺。完全スルー状態だった俺に、ハンターの熱い眼差しが注がれていたとは気付く暇もなく、転倒。
「ルウちゃん、ツクモン群生の原因って、もしかしてあの人間?」
「……そう、なのかしら? だとしたら、面白い獲物だわ。ミカヤ様への手土産にも丁度いい」
「オッケー。じゃ、生け捕りだね」
物騒な会話が聞こえる。
そして、俺達の頭上に現れた巨大な網は、情け容赦なく振り下ろされた。