第一章 炎の雪解け(4)
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『彼』は一言でいえば私の中にある研究者のイメージぴったりの男だった。白い白衣を風にたなびかせ、眼鏡の奥の瞳を細めて私を見る。腰まである長髪は肩のあたりで一度縛られていた。『彼』は自分のことを『研究者』などと名乗り、突如私の前に姿を現した。『彼』は人目に、私が異端だという事を見抜いたらしく、執拗に私にまとわりついてきた。
「数住文理、か。いい名前じゃあないですか。本質を見事に表している。いや、君は先天的な『超能力者』だというわけだね。先天的、というのは少し違うな、正確には『自覚的』なのだけれども、うんうん。良いよ。凄く良い。オイラ的にはグッドだ。ベリーグッドだ」
「一体、何なんですか? あなたは。『超能力者』? 馬鹿馬鹿しい。あまり意味が分からないことを言うようなら、警察でも呼びましょうか? 不愉快です。付きまとわないでください」
「誰も付きまとってなんてないよ。オイラ的に言わせてもらうなら、君は意味が分からなくなんかないでしょうに。それでも、オイラ的にあなたの顔色をうかがってみたら、それはそれは不愉快だというのは見て取れてしまうのですけど。それもオイラ的にですし、確証はありませんよ。まあ、オイラ的に言うならば……君はその能力を持て余している、というのでしょうか。そもそも、そんな能力単体では、使い道などないでしょうからねぇ。」
『彼』は薄笑いを浮かべながら私に迫ってきた。気持ち悪い。不快感が募る。だがそれと同時に、私は『彼』に魅かれていった。ここでの魅かれていったというのは、あくまで男性として、ではないけれど──。
「『分離』と名付けようか」
「『分離』?」
『彼』と出会って一週間ほどが経過した頃のことだ。小さなファミリーレストランで食事をとりながら、『彼』は私にそう言った。
「君の能力は分離する能力だ。Aに含まれているBをAから分けて離す能力」
「それは知ってるわよ。気づいたのは中学生くらいのころだけれども」
「でも、その使い道はなかった、だろ?」
「ええそうね。使い道はほとんどなかったわ。独り暮らしを始めた当初、料理をするときに塩を入れすぎた、だとかそういう失敗をしたときは役立ったけれど」
「なるほど、塩を料理から『分離』させたわけだ」
「それでも、『分離』させる為には素手で触る必要があるから、あまり多用したくはなかったけれど」
「火傷をしてしまうかもしれないからね。そんな君に、ではどう言う風にその能力を使えばいいのかという事を教えてあげよう」
オイラ的には、と薄笑いを浮かべて『彼』は私の手を握った。背筋が凍り、それを引き離そうにも体がうまく反応しない。
「それで他の超能力者から『超能力』を『分離』して奪っちゃえばいいんだ。それがこの『分離』の最も優れた使い道だ」
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「『分離』っていうのはつまり、どういうこと?」
「そのままの意味よ。私は超能力者から超能力を分け離す。そうね、『超能力者』から『超能力』を引いて『超能力』と『者』に分けたってことかしら? そしてついでに収まる器のなかった『超能力』を私という器に入れたってことね」
「それで、出雲康孝の超能力を奪って使えるってことね」
「そういうことよ」
雪音の問いに肩をすくめて数住文理は答えた。なるほど、理解はできた。いや、理解できたというよりはやはり受け入れたというところか。何より、『分離』したものを自分に取り込むことが出来るという事がよくわからない。それは『分離』とは真逆だと思うのだけれど、しかしそこは、まあそういうものなのだと割り切るべきか……。
そして何より、数住文理が「じゃあ奪った能力の使い勝手を試すために、人を殺そう」という発想に至るという事が、ぼくにはさっぱり、まったく理解できないのだけれども。そこもやはり、単に数住文理という人間の中にそういう嗜好があったのだと勝手に解釈して受け入れておくおくとしよう。
「さて、じゃあ話は終わりかしら? 一応もう時間も遅いし、子どもは帰る時間だと思うのだけれども」
薄く笑って言う数住文理。それに向かうような形で、雪音は腰を低く落とし、いつでも駆け出せるように構えていた。
「どうせ、帰してはくれないんだろ?」
「ぶっちゃけるとどうでもいいっていうのが本音なんだけれど、一応警察とかに頼られても面倒くさいから」
ぼくの問いかけにも普通に反してくる。どうやらまだ、子どもに負けるなどとは考えてもいないらしい。まあぼく自身は既にさっきので足を負傷しているし、無理もないことだけど。
「最後に聞かせてくれ。お前は透明の炎を使えるのか?」
「年上にお前なんていうのは感心しないけれど、答えるとしたらいいえ。多分、この間の火事のことを言っているのだろうけれど、あれは単に実験よ」
実験? と雪音が眉をひそめる。
「簡単に言えば、燃やすという過程を省略して燃えたという結果を導き出したという感じかしら。ようはそうね、『炭化』ってところかな」
『炭化』──それはなんともゾッとしない話だ。つまり下手をしたら、ぼくはさっきの交戦で足を切断しなければいけないようなけがを負わされていた可能性もあるわけか。
「ありがとう。じゃあもうこれで質問は終わりだ。雪音。さっさとやっちゃってくれ」
言われた瞬間、雪音は数住文理へと向かって駆け出した。それを向かい打つかのように、数住文理は右手を前に出す。
ゴッ!! という音と共に、炎が雪音に向かって噴出した。それを避けて、雪音は口を開く。ぼくはその動作を見てすかさず指を耳に突っ込んだ。
瞬間、言葉では形容しがたい、高音が響いた。見れば、数住文理は耳から血を流し、呻き声を発している。どうやら、計画通りに事が運んでいるらしい。
本来なら、ここでぼくが走り出して数住文理の目を潰す手筈だったのだが、残念ながらこの足で走り出すのは不可能だ。いや、できなくはないのだろうけれど、そこまで自分の体を酷使しようとも思わないし、したところでどうしても隙が出来てしまう。
だから──。
「雪音!! 風を起こせ!!」
雪見酒雪音の超能力は、『風』と『振動』を操る能力だ。『振動』で鼓膜を破り、聴覚を奪い、強風で相手の視界を狭める。
「くぅっ──!!」
完全な向かい風に、数住文理は反射的に目を細めた。まったく、人間の身を守るための反射という行為で、よもや逆に危険な状況に陥るとは、まったく無様なものだ。
「悠久、どうしたらいい!?」
風の音がうるさい。その音にかき消されないように大声で問いかけてくる雪音に、ぼくも負けじと大声で指示をだす。
「目玉を潰せ!! 視界を遮断すれば、数住文理は視覚と聴覚を失うことになる!!」
「了解!!」
右足でジャンプし、雪音は自分の指を数住文理の目に向けて突き出した。いや、その素早さは射出と形容してもいいかもしれない。
しかし、数住文理はそれを回避した。
回避──いや、違う。
偶々、横にそれたのだ。数住文理が、その体を横にそらした、だから雪音の指は、目には当たらない。
「──ッ!!」
骨折したわけではないだろうけれど、しかし勢いよく指を数住文理の顔に突いた雪音は、居た意味があるのか、その場にうずくまる。
「馬鹿野郎!!」
その瞬間を数住文理が逃すはずがなかった。
目を細めていても、しかし別に全体が見えないわけでもないし相手に触れられたら場所だって分かる。がっ、と音を立てて、数住文理の蹴りが雪音の体に当たった。後ろに弾かれる雪音。直後、数住文理の視界を狭めていた強風がやんだ。
──策が、破られた。
いや、また雪音が強風を発せばいいだけの話ではあるのだけれども、しかしそれを恐らく数住文理は許してはくれないだろう。証拠に、数住文理の腕から、雪音に向かって炎の塊のようなものが射出された。それを雪音は咄嗟によけるが、そこに数住文理はすかさず炎を射出する。
転がるようにして炎を避ける雪音を、数住文理は唸り声を発しながら追撃する。端から見たらなんとも異様な光景で、唸り声から感じられる数住文理の怒気に、背中が思わずゾッとする。
「う、あああああぁぁぁぁ!!!!」
ゴッ!! と空気が爆発した。
数住文理のを包むように、巨大な炎が空へ向かって舞い上がる。まるで、雪音と初めて出会った時の竜巻のようだった。
炎の竜巻は、すさまじい熱気を発しながら吹き荒れる。そこから、さながら火山の噴火のように、大小玉ざまな火炎の弾が見境に発せられる。
「悠久!!」
「ぼくはぼくで逃げる!! あれを避けることに集中しろ!!」
怪我をしたぼくを助けようとしたのか、こちらに向かって走りかけた雪音を制止し、数住文理からできる限り距離を取る。雪音もぼくの方をちらちらと気にしながらも、しかし自分の身を守ることに重点を置いたようだ。
そうだ、それでいい。
ぼくは考える。あの中にいる数住文理をどのように倒すのかを。策を練る。雪音の超能力で操れるのはは『風』『振動』それでどうやって突破する? 考えろ。考えるんだ。
「くっ……」
思わず声が漏れる。思考は結果に辿り着かない。辿り着くには辿り着くのだけれども、その結果は最善ではなく最悪の結果だ。
無理だ。突破口が見えない。
いや──帰るか?
いっそのこと、雪音を連れて帰ってしまおうか? 向こうは雪音の家を知らないんだし、視界は炎でふさがっているだろうから、ぼくたちのことは見えていないだろうし、聴覚は潰したから声も聞こえないだろう。
ならばいっそのこと帰ってやろうか? 雪音だって、納得してくれるんじゃないだろうか。納得してくれなければ説き伏せばいいだろうし、これだけ大きな炎だ。遠くからだって視認できるだろうし、時機に消防やら何やらが駆けつけてくれるのではないだろうか?
ならば──。
「雪音!! この場はいったん退こう!! こんなんじゃぼくたちは何もできないだろ!!」
思考を中断し、雪音に言う。しかし雪音はぼくを見たまま微動だにして動かない。一応、安全圏にいるのか、数住文理の炎の弾は当たっていないけれど、しかしそれにしては様子が変だ。まるで、何かにおびえているかのような……。
「あぁ、ダメダメ。オイラが切除しちゃったから、今此処は外界とは切り離されちゃってるの」
突然、背後から声がかけられる。
振り向いた先に立っていたのは、白衣を身にまとった長髪の男だった。
「……切除?」
こういう時に、一番ダメなのは場の空気に呑まれることだ。ここでぼくは驚いちゃいけない。焦っちゃいけない。冷静をかいちゃいけない。ただ、冷静に、クールに、対処する。
「もしかして、あんたも超能力者?」
「うん。正解だ。オイラ的には君は中々鋭い奴だと思っていたけれども、その予感は間違ってはいないらしい。いやぁ、こんないい男を見つけるとは。娘は中々大したやつだという事か。親としては実に誇らしいね。うん。そう、誇らしいよ。自慢の娘だ。ブラボー!! 娘ブラボー!! 娘万歳!!」
「…………」
いきなり両手を上げて、本当に万歳のポーズをとりながら男は回った。踊る様に、軽やかに。いったい、何がしたいのかが分からない。
「娘、ってのは誰のことです?」
「ん? ああ、娘ならそこに突っ立っているだろう?」
言って、男が指をさしたのは呆然と突っ立っている雪音だった。成る程、雪音の父親ならば男が超能力者であることも理由がつく。それに雪音が呆然と突っ立っている理由も……。何せ雪音は出会った当初、死体のことを聞いた時に『私は、私の親とは違う』なんて言っていたし、超能力を使って犯罪を犯す人間だけに固執して『下らない正義感』を燃やしていたことも、元々は自分の両親の存在あってのことだ。つまり雪音にとっては、この男は一番の敵とでも言ったところか。
「会いたかったよ。雪音。愛娘。我が娘。大好きだ。本当に大好きだ。お前がオイラを殺したいことを知っているうえで大好きだ。愛してる愛してる大好き大好きむしろラブ!! 嗚呼、いとおしい娘よ。会いたかった会いたかった本当に心の底から会いたかった!!」
────ッ!?
言葉が終わると同時に、ぼくの後ろにいたはずの男が、呆然と突っ立っている雪音の前に、移動した。目に見えない速度で。肌に感じられない速さで。それは、速度という概念を通り越している。空間移動。漫画やアニメでよくある最もありきたりで分かり易い超能力の一つ。今のはまさしくぼくの知っているそれだった。
「お、父さん?」
「そうだよ!! お父さんだ!!」
「ふ、ふふ──。久しぶりだね、お父さん」
「ああ、久しぶりだな。我が娘」
雪音は、男を睨んでいた。
男は、雪音を愛おしむように見ていた。
ぼくは、その二人のもとへと歩を急ぐ。二人きりにしては、雪音が何をするかわからないからだ。
そんな二人のもとに、数住文理の放つ炎の弾が飛んでいく。しかしそれは、二人にあたる直前で消し飛んだ。
「お父さん──私が言いたいことは分かるよね?」
雪音の問いかけに、男はこくりとうなずいた。
「でもその前にやるべきことがあるね」
「数住文理?」
「そうだ、彼女の『分離』の扱い方を教えたのはオイラなんだけれども。しかし、あれはだめだな。もう死んでるよ、彼女」
「死んでるって、どういことだよ?}
ようやくたどり着いて問いかけると、男は面倒くさそうに肩をすくめた。
「君は中々に見どころがあるけどやっぱり子どもなんだな。オイラに言わせれば、あの状態で生きている方が難しいと思うけど?」
確かに、炎に包まれた人間が生きていることなど不可能だろう。いや、勿論それなりの用意をしていて、且つ短時間の間なら可能だろうけれども、これだけの長時間、あの状態で生き続けるのは不可能だろう。
「いいかい。超能力者は何も特別じゃあないんだよ」
言って、男は数住文理の近くへと移動した。先ほどと同じように。
「空間移動、じゃないんだよ」
男が移動してから、雪音は口を開いた。男と離れたことで、少しばかし平常を取り戻したらしい。
「雪見酒雪除。お父さんの超能力は『切除』切断して除去する。切って除く、消してしまうんだよ」
「それでどうやって移動なんてするんだ?」
「移動を『切除』してるの。簡単に言えば、『移動』という『過程』を切り除いてるってところかな」
「ふぅ……ん。それはまた、ぼくにおあつらえ向きな能力だな」
「はははっ。それはそうかもね」
──固いけど、ようやく笑ったか。
いや、今回のこれは意図してでのことではないけれども、それでも、笑った。
父親の存在に、緊張していたのか、いつもより表情の硬かった雪音がぼくとの会話で表情を和らげたという事実が、ぼくにある種の優越感を与える。
「どうしたの、悠久?」
覗き込むようにぼくの顔を見てくる雪音の頭に、手を置いて、ぼくは数住文理と雪見酒雪除の方へと目を向けた。
「なんでもないよ、それより。あいつ、なにかするつもりらしいな」
ゴッ!! と空気が爆ぜた。数住文理を包んでいた炎が、一瞬にして消滅する。それが、恐らくは『切除』なのだろう。切り除く。こんな相手を、果たして雪音は殺すことが出来るのだろうか?
雪見酒雪除は右手を振るい、白衣をたなびかせた。目の前に倒れる黒々と焼けただれた数住文理を見下ろす。数住文理は、確かに死んでいた。能力の暴走、とでもいうのか。過ぎたる力は身を滅ぼす。雪音の言う、超能力は特別でもなんでもないという旨の言葉は、こういうことを指すのだろうか? 少なくとも、それに付属する危険性を、雪音は理解しているのか。まあ、それは雪音本人にしかわからないことであるし、ぼくにとってはどうでもいいことだ。
「そいつは、どうするんだ?」
雪見酒雪除に問いかけると、彼はぼくに向かって薄く微笑んだ。
「君はどうしてほしいんだい? オイラ的には一応、地面に埋めてやりたいんだけど」
「別に。どうだっていいさ」
肩をすくめて返す。
雪音に目で確認を取るが、雪音自身、別にどうでもいいのだろう。雪音にとって大事なのは、超能力を使って犯罪を行う人間を裁くという事で、別にそいつを殺すか、そいつの死体をどうするかどうかはさしたる問題ではないという事だろう。
「うん。ならばオイラはこれを持ち帰るとしよう」
ひょいと数住文理の死体を肩に担いで雪見酒雪除は言った。そこに、突っかかるように雪音が口を開く。
「待って、お父さん。そのまま帰れると思ってるの?」
風が、起きた。
雪音を中心に、風が吹き荒れる。
「私は、貴方たちを殺したいの!! 『あんなこと』をした貴方たちを……。『超能力者』だからって、『あんなこと』を企む貴方たちを!!」
風は、徐々に勢いを増していく。
立っているのもやっとで、ぼくはその場にしゃがみ込んだ。目を開けているのも、きつい。まったく、こいつは切れたら周りが見えなくなるタイプの人間か?
「うん。そうだな、我が娘。愛娘。オイラ的にはお前に殺されるのもやぶさかではないんだけど──」
困ったように頭をかいて、雪見酒雪除は言った。
「──オイラと、そらから我が愛妻は止まれない」
言い捨てて、雪見酒雪除は踵を返した。
向けられた背中に向かって、雪音が走り出した。
ぼくは、それを止められない。
「雪音!!」
声を発しても、しかし吹き荒れる風にかき消されて、届かない。
届かない。
ぼくの声は、届かない。
「空間は元に戻しておいた。そうだな、オイラを追うというのなら、雨量風雨という男を探すといい。幸い、あいつの家はここの近くだ。住所は後で郵送するし、探すのは苦労しないだろう」
ぼくの声は届かないというのに、雪見酒雪除の声は、憎たらしいほどに響いた。
「じゃあね、愛娘。我が娘。愛しているよ。雪見酒雪音」
言い捨てて、数住文理の死体をかついだ雪見酒雪除はその姿をくらました。
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後日談。
結局、あの後雪音は三日ほど生気を損なっていた。何もやる気が起きなかったらしく、寝ては風呂入って食べての繰り返しだった。
その間に、ぼくはぼくで雪見酒雪除の行方を探そうかとも思ったのだけれども、何処をどう探せばいいのかも分からないし、第一未だ足のけがは治らないしで、結局は去り際の雪見酒雪除の言葉を信じ、郵送で雨量風雨という男の住所が送られてくるのを待つことしかできなかった。
そして、一週間後。
確かに、雪音の家のポストに一通の手紙が投入されていた。手紙と言っても、雨量風雨の名前と住所が記載されただけの簡単なものだったけれど。
雨量風雨。
この男がどんな人間なのかは知らないが、雪見酒雪除との関わりがあるのは明白だろうし(関わりが無かったら雪見酒雪除も指名してこないだろう)。
まったく、面倒くさいことこの上ない。
ぼくにとってはこんな『過程』どうだっていいというのに。
ただ、それでも。
ソファで眠る雪音の顔を見て、ぼくはゆっくりと息を吐いた。
まあ、いいさ。雪音の為だ。やってやろう。
好きな女のために頑張るというのも、中々どうして面白い。
(続)