贖罪
それから二時間が経った。月影は車内で麻生と葛城に会った。麻生は聞いた。
「本当にいいのですか。就職先まで面倒を見てもらって」
「はい。そのかわり今後大工の不正を暴こうとしなければな。もしあれの存在が世間にばれたらお前にも責任を果たしてもらう。覚悟しろ」
「贖罪ですか」
「はい。ではこの書類にサインとはんこをしてください」
「はい」
葛城はサインをしながら呟いた。
「すごい顔ぶれですね。この事件を握りつぶすために大物を関与させるとは。さすがですよ」
「まあ。警察庁に恩を売るためだからね。苦労したよ。ここまでのサインを集めるのは」
麻生は印鑑を押して言った。
「最大の難問が残っています。高崎と菅野は同じ教会で育ち、いつも七人で遊んでいたそうです。まあ半年前桜井が自殺して、田村が今回の事件で殺されたので生きているのは五人。高崎と菅野聖也を除くとあと三人残っています。幼馴染とも交渉しなければいつかばれます。あの三人も大工を恨んでいます。でも残りの二人は一般人のはずですから説得力に欠けます。どうしますか」
月影は頷いた。
「では幼馴染さん二人の所在を調べて交渉すればいい。いつか探偵でも雇って人探しを依頼すればいい」
この事件から七年。まさかこの事件が新たなる悲劇を生み、前代未聞の劇場型犯罪にまで発展するとはこの時は誰も知らなかった。