36/56
廃ビルにいた理由
一時間後小木は意識を取り戻した。東都病院で斉藤は聴取をした。
「なぜ廃ビルにいた」
「俺にバイトを紹介した男がメールで廃ビルに来いと呼び出した。そうしたら女の遺体があって脈を取ろうと近寄ったら、いきなり後ろから殴られて気絶した」
「つまりメールで呼び出されたからというただそれだけの理由であの廃ビルにいた」
「はい」
「その時男は拘束されていなかったか」
「いいえ。いませんでした」
「ではあの廃ビルに来た時間は何時ですか」
「十三時半だった」
斉藤は病室を出た。
部屋をでたら春野がいた。斉藤は春野に報告をした。
「小木の証言を信じれば矛盾が生じる。彼は十三時半に廃ビルに入った。彼は十三時半女の遺体を目撃している。その頃女は走行中だった。さらに三十分には高崎はいなかったとも証言した。つまり空白の十分の間に四つの謎が生まれた。消えた身代金。消えた遺体。消えた犯人。突然現れた男」
「こうは考えられませんか。高崎に鬘をかぶせて、小木に女だと錯覚させる」
「現場からは鬘は見つからなかったが犯人が持ち去ったとすると筋は通る」