【らくがき】
教室の窓に、息を吐く。
冬の窓は簡単に結露して、その部分だけ白く曇った。
徐に、私は指を伸ばして何か書こうとする。
冷たいガラスに指をおいて、そのまますべらせる。
「悪ぃ、待たせた!!」
私しかいない教室に、私の待っていた人の声が響く。
小刻みに現れては消える白い吐息は、ここまで彼が走ってきてくれたことを証明してくれている。
それが何だか嬉しくて、自然に顔が綻ぶ。
「いいよ。ちょうど今、書き終ったところだから」
「何を?」
「秘密」
私は勢い良く席を立ち上がって机の上に置いてあった重い学生鞄を手に取った。
そのまま、彼の元へとかけていく。
「行こうっ」
彼の腕を取っていけるのは、私だけの特権。
彼は腑に落ちないといった表情で私を見つめるが、気付かない振りをする。
………きっと、これくらいの意地悪は許されるだろう。少なくとも十五分近くは待たされていたんだから。
誰もいない教室に、彼女の書いた文字だけが残されている。
“私は今、幸せです。”
それは、時間がたてばすぐに見えなくなってしまう、けれど確かにある、私の気持ち。
毎日が奇跡みたいに幸せな、青春の一ページ。
────『日常』という名の、小さな奇跡。
FIN
実はこれ、真夏に書きました(笑)
涼しくなりたかったんですよ、はい。
こんな甘々カップルが夢ですね(*´∇`)