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義理の兄が寝ている時にだけ愛を囁いてきます

作者: 春待瑞花
掲載日:2026/07/12

「可愛い。大好き。世界一可愛い。愛してる」


 ……いや、まあ、嬉しいんだけれど…… 寝ている時にしか言ってくれないなぁ……と思いながら深い眠りについた。


「おはよう、リディ。今日は顔色がいいね。具合がよくなって良かった」

 ハイドが笑顔を向けてくる。

「おはよう、ハイド。ええ、よく寝たからもう大丈夫よ。昨日はベッドまで運んでくれてありがとう」

 昨晩立ちくらみを起こした私を、共にお茶していたハイドが運んでくれたのだ。

「気にしないで。筋力がついてきたから、今ならお父様も楽々運べるよ」

「それは頼もしいな。酔って眠たくなったら頼むよ」

「まあ、あなた。流石にそれは恥ずかしい醜態ですわよ。眠たくなったらそのままソファで寝てくださいませ」

「はは、冗談だよ。眠たくなってもちゃんと自分でベッドに行くよ」

「そうしてくださいませ」

 家族みんなで笑いながら朝食をいただく。


 ウォルコット伯爵家の家族は仲がとても良い。

 けれど、私とハイドに血の繋がりはない。5歳で母が病死し、同じく夫を病気で亡くしたお義母様が私が8歳の時に同じ8歳だったハイドを連れてこの家に入った。

 ハイドが来て7年が経ち、5歳と3歳の弟がメイドに世話されながら元気に朝食を食べており、6人家族となった伯爵家はとても賑やかだ。


 ハイドと共に馬車に乗り込み学院へ向かう。

 馬車を降りて歩いていると、ジェイクとアンナが声をかけてきた。

「リディアナ、おはよう。今日の髪型も素敵だね。とても似合ってるよ」

「おはよう、ジェイク。いつも褒めてくれてありがとう」

「ハイド、リディ、おはよう。ハイドも今日もとっても素敵よ」

「おはよう、アンナ、ジェイク」

「おはよう、アンナ」

 アンナもジェイクも伯爵家なので、家格関係なく気軽に話せる仲だ。

「卒業パーティーまであと3ヶ月だな。俺達全員まだ婚約者いないだろ。パートナーとして、」

「あ、俺とリディはパートナーとして出るよ。もう衣装の打ち合わせもしてるんだ」

「「「え?」」」

「えぇ〜…… そうなの〜?…… ハイドから誘われたらいいな〜って期待してたのに…… 私じゃダメなの?」

「ごめん。もう仮縫いしてるようだから」

「あぁ〜、一足遅かったか…… 今日、リディアナを誘おうと思ってたんだよ。

 そのドレスをアンナに回して、リディアナは俺と組めばいいんじゃないか?」

「えっと…… ごめんなさい。ドレスとても気に入ってるから……」

「そうか…… なら仕方ないなぁ……今回は諦めるよ」

「いや、ジェイクは誰か誘えよ。モテるんだから、令嬢達は声かけてもらうのを待ってると思うぞ」

「そういうお前こそ、引くて数多だろう。アンナ以外にもガッカリする令嬢ごまんといるぞ」

「そうよ!その中でも私が有力だと思ったのになぁ〜。ほんと、残念」

「アンナには、これから声かけてくる奴たくさんいるんじゃないか?その中から選べばいいじゃないか」

「そう言われたら、もうキッパリ諦めるしかないじゃない…… 仕方ないわね。そうするわ」

「潔いな、アンナ。仕方ない…… 俺も両親と相談するか……あ〜…… もっと早くリディアナを誘うべきだったなぁ〜」

「いや、リディへの申し込みはお前以外もいるだろうから、早く申し込みしてもお前を選ぶとは限らない。というか、ずっと前から俺と組むって決まってるから。その憂いはむしろ意味ないな」

「なんだそれ。いや、まあ、確かに今までのハイドの鉄壁ガードぶりをみていたら、それは自然な事か……だけど、いつまでガードするつもりだよ。それじゃ、お互いに婚約者なんて出来ないんじゃないか?」

「いいんだよ、それで」

 キッパリと言うハイドに、ジェイクとアンナは少し呆れた表情を見せる。

 私は、曖昧に軽く微笑んでおいた。


 ……いやいやいや、どういうこと??

 なんっにも聞いてませんけど??ハイドに話を合わせておいたけど、衣装の打ち合わせなんていつやったの?って感じだし、そもそもパートナーがハイドになるなんて全く聞いてませんけど??

 ……と内心で愚痴るけど、実際は嬉しい気持ちが強くて、顔が緩むのを必至で耐えた。


 8歳で出会った時から、ハイドの事が大好きだった。見目麗しい上、優しくて頼りになる2ヶ月しか違わないお義兄様。同じ年齢だから名前で呼んでと言われ、家族というより友人としてずっと接してきた。嫌いになる要素がなく、私が転寝すると、必ず寝ている私に向かって「可愛い、大好き」と囁いてくれるハイドに対し、特別な感情を抱くのは自然な事だった。まだ完全に意識を手放す前だからか、いつもハイドの囁きは聞こえていた。

 起きてる時に言ってもらった事はないし、家族としての好きだろうから、特別な感情は私だけで、ハイドは私を義妹としてみているんだろうな、と思うと時々悲しくなったし、ハイドへの想いは家族の調和を乱すものだから、と想いを隠す事を決めたのだけれど……

 

 3年前に学院に通い出してから、ハイドの私に対する態度をみて、もしかしたらハイドも私と同じ気持ちかもしれない、と期待を抱くようになった。相変わらず、寝ている時にしか気持ちを伝えてくれなかったけど、私に話しかけようとする令息がいれば、すぐにハイドが近寄ってきて話を遮ったり、ジェイクと私が二人きりにならないようにハイドがいつも注意しているのを感じた。ハイドはとても見目麗しいので、多くの令嬢が声をかけてきたけれど、誰に対しても素っ気なく短い受け答えしかしないのも、私の自信に繋がった。

 けれど、家族だから…… 例え両思いでも、決して実を結ぶ事はないだろうし、両思いと知る方が辛いかもしれない、と燻った気持ちを抱きながら日々過ごしていた。


 そんな中、今朝のハイドの発言だ。嬉しかった。だから心に決めた。例え実らなくても、この想いはハイドに伝えようと。朝のハイドの発言を嬉しく思いながらも、それには触れずに1日過ごし、帰りの馬車の中で意を決してハイドに告げる。

「ハイド、卒業パーティーの事だけれど」

「うん。大丈夫。とりあえず、その件は屋敷に帰ってから話すよ。お父様とお母様交えて」

「え?あ、はい」

 またもや、疑問だらけとなったけれど、ひとまずハイドに従って口を閉ざした。



 着替えを済ますと、ダイニングではなく応接室に通された。既に3人はソファに座っていたが、いつもの和やかな雰囲気はなく何故かみんな少し畏まっていた。

 私が着席をすると、ハイドがすぐさま跪いて私の手を取った。

「リディアナ、私の婚約者になって欲しい。ずっと好きだった。愛している」

「え?は?は、はいっ!」

「ふっ、驚かせてごめんね。でも、了承という事でいいかな?」

「え?え?こ、婚約者ですか?? わ、わたしがハイドの?う、嬉しいですが、いいんですか?!」

 お父様の方をみる。

「ふっ、ああ、いいんだ。驚かせてすまない。だが、二人の気持ちは知ってるから、受けて大丈夫だよ、リディ」

「ごめんなさいね、リディ。驚いたわよね。ちゃんと経緯を話すから気持ちを落ち着かせて」

「は、はい。お母様…… ありがとうございます。お話しをお聞きかせください…… あ、その前に、」

 私の手を取って跪いたままのハイドをしっかり見る。

「私もハイドが大好き。愛しています。ハイドの婚約者になりたいです」

「よかった…… ありがとう」

 ハイドが満面の笑顔で微笑み、ほっと息を大きく吐いてから私の横に座った。


「1年前にハイドから、リディと婚約したいから、他家の養子になりたい、と相談されたんだ。ウォルコット伯爵家を継いでもらうつもりだったから驚いたけれど。リディへの気持ちは揺るぎないようだったし、リディもハイドが好きなのは気づいてたからね。二人が結ばれない方が可哀想だと思ったし、ちょうど友人のガンドルフィ伯爵が養子を迎えたいと話していたから、これも運命かな、と思って。マリアンヌと相談してガンドルフィ家に養子に出す事を決めたんだ」

「リディに気持ちを伝えて、家を出る事を伝えたら?って言ったのよ。けれど、学院の間にリディに他に好きな奴が出来るかもしれないからって。養子縁組が確立するまでは伝えないし告白もしないって言うから。隠しててごめんなさいね」

 お母様が申し訳なさそうに言う。


「リディが好意を抱いてくれてるのは感じたけど、家族としてのものかもしれないって思ったんだ。けれど、リディが他のやつとパートナーを組むのは耐えられなくて。だから、ずっと牽制してた。

 先週除籍して昨日正式にガンドルフィ家の養子縁組がされたから、今日リディに告白する予定だった。なのに、朝ジェイクがパートナーの申し込みしようとするから焦ってさ…… つい、衣装の打ち合わせしたとか嘘ついちゃったんだ。ごめん。衣装はこれから打ち合わせしよう」

「ふふっ、そうだったのね。でも、例えジェイクや他の令息から誘われても断ったわよ。お父様と相談するつもりだったから。

 衣装の打ち合わせがまだで良かったわ。一緒に素敵な装いを選びましょう」

「ふっ、そんな事があったのか。じゃ、早速明日テイラーに来てもらおう。

 ガンドルフィ伯爵家に入るのは卒業してからだ。とはいえ、お前達もよく知っている家だから気兼ねなく遊びに来ていいと言っている。時間があれば二人でお邪魔するといい。一人娘が隣国に嫁いでから夫婦二人きりで寂しいといつもぼやいているから」

「ギルバートおじ様のところなら、私も嫁ぐのが楽しみですわ!」

「あらあら、まあまあ、気が早いこと。私としてはもう少しこの家の娘でいて欲しいのだれけど……もうお嫁に行ってしまうのね」

「ほんとだなぁ〜、寂しいな〜」

「あっ!ごめんなさいっ!まだ婚約式もしてないのに、私ったら……」

 恥ずかしくて真っ赤になって俯くと、

「可愛い!世界一可愛い!愛してるよっリディ!

 さっさと婚約式を挙げて、すぐに結婚式も挙げよう!」

「いやいや、まずは卒業パーティーだ。その後に婚約式だぞ。早くても結婚式は1年半後だな」

「そうね。卒業パーティーの衣装と婚約式の衣装も一緒に打ち合わせするといいわ」

「はい!とっても楽しみですっ!」

「あ〜あ、すぐにでも結婚したいのになぁ〜、まあでも焦る必要ないしね。リディは俺のものだって堂々と言えるから、牽制する必要もなくなったし、結婚式までの道のりを楽しむとするよ」


 ドアが開いて弟達が飛び込んできた。

 ウォルコット伯爵家にいつもの賑やかな笑い声が響く。


 実を結ぶ事がない想いに蓋をすべきかどうか迷っていた時もあったというのに、お義兄様には蓋の存在すらなかったようで、両思いは確実に実を結ぶ事が出来そうです。

 これからは、起きてる時にも愛を囁かれるのは間違いなさそうね。



お読みいただきありがとうございます!


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何卒よろしくお願いいたします!(*´ω`*)

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