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神々の墓標 ~カフール国奇譚~  作者: えんや&マリムラ
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惨劇と結界

 大僧正が担ぎ込まれるのを、カイはただ見送るしか出来なかった。客人のカイには入れない部分も多かった為だ。

 じっと大僧正の姿を見ていたへクセが、急にカイの袖口を引いた。


「アティアを見に行こう」


 僧院全体が騒然となっている中、ヘクセの目は揺るがない。


「わざわざ不安がらせるものじゃない」

「違う、アティアが危険だからさ」


 カイを置いて動こうとするヘクセ。見張り役として付いて行くカイは、人がまばらになるのを待ってから、ヘクセに声をかけた。


「説明しろ」

「あれは大僧正ではないな」


 移動しながらの即答に、何故かカイの鉄拳は飛ばなかった。


「何故分かる?」


 不安と不審の入り混じった声。しかしヘクセは早足で歩くのをやめない。


「カイにも違和感があっただろう? それを認めたくないだけでさ」


 人気が無くなってくると、早足は徐々に駆け足へと変わる。


「アティアが危険だと思う根拠は」

「忘れたの? あの子はここのトップシークレットだよ?」



   *   *   *



 駆けつけた部屋からは、物音一つしなかった。アティアの静かな寝息も、寝返りをうつ衣擦れの音もない。何者かに荒らされた様子もなく、アティアのいた痕跡さえ見えない。


「……ふむ」


 そういったきり考え込むへクセ。暗くてヘクセの表情が読み取れなかったが、カイは得体の知れない妙な沈黙に不安を覚えた。



 ……無音?そういえばさっきまで聞こえていたはずの騒々しさがまったくない。



「うわぁぁぁぁあ!!」


 悲鳴の入り混じった叫びが突如響いた。カイはヘクセを置いたまま、大僧正の寝室へと走る。途中で他人とすれ違わない。やはり何かが、起こっているのだ。血の独特の臭いがむせ返るほどに強い。よほどの大量虐殺でもなければこんなに酷い臭いにはならないんじゃなかろうか。


「大僧正!」


 襖を大きく両手で開く。部屋一面に飛び散った血痕、そして、ちらりと振り向いたのは気を失い血の気の引いたアティアを掴んだ猿の化け物。傍には破り捨てられた大僧正のものであったろう皮が無残な姿で散らばっている。


「待てっ!!」


 カイが叫ぶと同時に奥の障子を体当たりで破り、猿の化け物はそのままの勢いで山を駆け上がる。

 カイも猿を追い、木々を掻き分け山の斜面を駆け上がる。

 しかし、数分も駆けると魔猿を見失い、枝の切れ目の開けた場所にたどり着いたと思えば、さきほど飛び出した僧院に帰ってきてしまっていた。


 (…これが結界か!? どうする?)


 カイはしばし考えたあと、ヘクセの元へ駆け戻った。



   *   *   *



「ヘクセ、お前どうやって山に入った!?」

「結界のほころびを見つけて?」


 当然のように答えるヘクセ。


「白く毛の長い猿の化け物がアティアを掴んだまま山に上った。追うぞ」

「ははは、実は嘘のようでもあり本当のようでもあり」

「ふざけている場合じゃない!」

「結界はね、消せるよ。でも一時的。

 山神の力を使って自己修復するように組んであるから」


 殴られないように頭を庇いながら走り出すヘクセ。


「本当だろうな!」

「ついてくれば分かるさ。見せてあげる」


 ヘクセはカイを振り返って言った。


「歴史に興味はあるかい? 面白い仮説も聞かせてあげるよ」

これはマリムラさんのターン

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