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神々の墓標 ~カフール国奇譚~  作者: えんや&マリムラ
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プロローグ

この作品はオリジナルファンタジーリレー小説サイト『TerraRomance』にて過去、私、えんやとマリムラ様が行ったリレー小説の記録です。ただ、TerraRomanceで設定している舞台等があるため、その部分は初めての方が見てもわかるように私が編集しました。

オリジナルファンタジーリレー小説サイト『TerraRomance』では現在、一緒にお話を作ってくれる仲間を絶賛募集中です!


 夜の闇の中、一人の少女が走っていた。黒いローブを身に纏った体が夜の闇から切り出されたように揺れる。

 艶やかなウェーブがかった黒髪に月の光が反射して弾む。少女の夜空のような黒い瞳が辺りをうかがう。


 何も見えない。木々のシルエットが黒く浮かび上がるだけだ。


 しかし耳に届く木の葉の触れ合う音が、少女を追う者たちの存在を示していた。

 

 突然、空気を切り裂く音と共に、少女の目の前に槍が突き立った。少女は回避しきれず転倒する。少女は顔を上げた。星明りの下、ローブの下から少女の褐色の肌が覗く。それは少女がこの地の人間ではないことを如実に語っていた。地面についた右腕には包帯が巻かれていた。

 少女の眼前に棍が突きつけられる。同時に少女の両肩にも棍が乗せられ、押さえ込まれる。

 地面に這い蹲るような体勢を取らされながら少女は棍を突きつける男達を見上げた。剃り上げられた頭に鍛え上げられた肉体。その顔は内部を微かでも覗かせないような無表情だ。棍を突きつけた男が口を開いた。


「祖霊廟に侵入した目的は何だ?」


 男の口調はどこまでも冷たかった。




   *   *   *



 少女は寂しそうに笑った。その顔色の白さがいつにも増して儚さを感じさせる。

 肩までかかるストレートの黒髪の下に覗くその表情は、これまで長い間共に過ごしたはずなのに、初めて見るものだった。

 不吉な予感が氷のように這い上がり胸を締め付ける。


「私、家から出てきたの……今までと違って、ちゃんとね」


 少女は、小さくも明確に、言葉を発した。

 それを聞いた瞬間、血の気が引いてくのがわかる。

 息苦しくて呼吸もうまく出来ない。

 少女に何か声をかけようとしたが、出来なかった。


「だから、盟約はもう意味を成さない。貴方は自由なの」


 それはありえない言葉だった。

 あってはならない言葉だった。

 明確な解雇通知。

 これまで当たり前のように仕えてきた幼なじみからの、決別を告げられたのだ。


「フィー、どういうことなんだ?」


 やっと搾り出した言葉は、我ながら滑稽なほど震えていた。




 カイは目を覚ました。

 全身に嫌な汗をかいている。

 夢のせいだ。

 あれから大分経つというのに。

 故郷に戻ってきたせいだろうか。

 カイは窓を開け、外の景色を見た。

 宿の二階から覗く景色は、赤茶けた瓦、市場の喧騒、美しい稜線を描く山々。生まれ育ったカフールの懐かしい風景だ。

 ただ、今は、一緒にこの風景を眺めていた少女はいない。カイ一人だけだ。

 カイは胸の奥にわだかまった何かを吐き出すように、深くため息をつくと、あらためて外を眺めた。

 一際高い山の裾野に鮮やかなまでに赤い屋根の寺院が見える。

 カイが目指している、スーリン僧院だ。




   *   *   *




カフール皇国。


大陸東部に位置し、国土の殆どを山岳地帯が占める小国。

海に面した隣国のシカラグァに隠れるようにひっそりと存続している。

国土は南北に細長く、四季も豊か。他の国との交流が厳しい土地柄のせいか、独自の文化を保ってきた。

普通に人が入り込めない霊山も多数存在し、その一部では仙人が修行しているという噂もあるが、その実体は謎のままである。


体術が盛んで数多くの流派が存在するが、その中でもカフール独特のものといえば練気術だろう。体内の生命力とその流れを利用する気功は、他の魔法と異なり詠唱が必要なく、また汎用性が高いことでも知られている。

体術を幼い頃から学び、傭兵として他国で活躍するする者もいるという。

練気術以外にも仙薬と呼ばれる薬草学や針道と呼ばれる医学に長け、大陸西部を支配する機械論的な治療思想とは一線を画し、他に類を見ない。




この国には次のような建国伝説がある。



約1200年前、山神の巫女をつとめる乙女に異界の神<ラスカフュール>が恋をした。

<ラスカフュール>は人の似姿をとり、毎日巫女の元へ通い続ける。

しかし、巫女は山神に一生を捧げる誓いを立てていたので、<ラスカフュール>の想いには答えられない。


そこで<ラスカフュール>は山神に、引き換えに巫女の自由を得るために契約を持ちかけた。


山神は人の形を持たなかったので、

<ラスカフュール>は器となる体を新たに創って与えようと持ちかけた。

しかし、山神は何も答えなかった。


次に、自分が土地に束縛されることで得られる自由をやろうと山神に囁くが、

またしても、山神は何も答えなかった。


巫女は<ラスカフュール>に惹かれていたが、山神への誓いを自ら破ることはできなかった。

そこで巫女は<ラスカフュール>に耳打ちした。

<ラスカフュール>が全ての魔力を与え、人の身となるのはどうか、と。


山神は打ち震えた。唸るような地響きで歓喜の返事をした。

「巫女は、生涯をかけて愛する者を見つけた時のみ、伴侶を得ることができるだろう。

しかし、その伴侶と心が離れることがあれば、罰が下るだろう」

そして<ラスカフュール>は山神に全ての魔力を渡し、人となって巫女の伴侶となった。



この異界の神であった<ラスカフュール>と巫女の子が

後のカフール皇国を建国した初代皇王であるという。


カフールに霊山とされる不思議な山が多いのも

<ラスカフュール>から受け取った、山神の魔力のせいなのかもしれない。


しかし、そんな神秘の国カフールも、近年政情不安になっている。

一年ほど前にカフールの武皇が落馬事故により死亡。

第一継承権を保有していた皇太子は父親の暗殺容疑をかけられ出家し、

第二継承権を保有していた第一皇女が継承意思を表明しているものの、隣国シカラグァの王家に輿入れしており、本来婚礼で皇家を離れた者の継承権は剥奪される慣例から国内でも論議を呼んでいる。

第三継承権を保有する第二皇女はというと、心労の為静養中と公表されているが、国葬にも出席していなかった上にその後全く姿を見せない事から、公表内容の真偽を疑う声があがっている。

今も尚、皇位は空席となっている。



そして、そんなカフール皇国に一人の少女が訪れ、一人の青年が帰郷したところからこの物語は始まる。


ということで始めます。

週1~2くらいの掲載を目指します。

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