表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/78

第28話/揺れる境界線(5)/RISA

今日も日が暮れた。

キューにレイルを教わっていた。

慣れないシューズを履いたからか足が怠い。

なんで恋人いるかなんてあたしにも聞いたの?

キューにも聞いていた。

なんで両方に聞くの?

なんであんなにそわそわしてたんだろ。

キューに聞くから?……それだけ?

あたしに聞く時もちょっと変だったよね。

なんか興奮してた。

あれ、興奮してたの?緊張してたの?

何に緊張してたの?

あたしがいたから緊張してたの?

キューがいたから興奮してたの?

全然わかんない。

なんで両方変だったんだろ。

何考えてるんだろ?

キューの目はちゃんと見てた気がする。

あたしの目はあんま見なかった。

なんで?

あたしなんかした?

あたしの言い方キツかった?

いつもあんな感じじゃない?

返事してくれなかった。

なんであんな言い方したんだろ。別に怒ってたわけじゃないのに。

怒ってたみたいに聞こえた?

ナギはどんな顔してた?キュー見てた。

キューがナギの体たくさん触ってた。

アルセナであたしそういう感じじゃない。

村ではどうだった?

思い出せない。

あたしがおかしいの?

ああいうのが普通なの?

なんかナギとあたしギクシャクしてなかった?

普通だった?

普通って何?

いつもどんな感じだった?

ナギ普通に滑れてたよ。

滑れないフリしてるの?

それ聞いても返事なかった。

なんか変なとこも見られてた。

なんで?あたしだから?

キューじゃないから?

なんで恋人いるかなんて聞いたの?

あたしはついでだから?

あたしだから?

キューとそんなに仲良いの?

仲悪いから聞いたの?

あたしにはアルセナで聞いてこなかった。

村でも聞かれた事なかった。

なんでミトハロ来てからそんな事聞くの?

勇者になったから?

ナギがミトハロ来て明るくなったから?

なんで変わったの?

別に嫌とかじゃないんだけど。

何かキッカケがあったの?

別にいいんだけどなんか違う。

どうすればいいのかわかんない。

砂浜でもそうだったけど、なんか普通にできない。

普通ってなんだっけ?

考えるのもうやめよう。

疲れた。

そう言えばキューやドワンは毎日会ってるって言ってた。

毎朝挨拶してくれるって言ってた。

何を話してるの?

ルント以外にもキューの知り合いと友達なの?

なんで恋人いるかなんて聞いたの?

そういう事に興味があるって言ってた。

ナギはいるの?

もしかして。

いや。

そういうこと?

誰。

いや、別に。

そんなの、わかんない。

ていうか。

なんであたしにも聞いたの。

あたしのせい?

あたしは勢いよく扉から飛び出した。





あたしは部屋に戻った。

ナギはいた。

久しぶりに話せた気がする。

ルントって人に頼まれたから聞いたのか。

そういうことだったんだ。そっか。

変な意味じゃなかった。

わかった。

わかったけど。

なんで引っかかるんだろ。

ちゃんと説明されたのに。

あんなに緊張してたのはキューの事だった。

あたしじゃなかった。

当たり前。

別にそんなの。

当たり前の事。

ナギ腕を怪我してた。

アネットとの練習のやつ?

あたしうまく話せてたかな。

回復してあげたし大丈夫。

でもあんまり話せなかった。

眠いならしょうがない。

別にそれは。

眠いならしょうがない。

まだ話す事あった気がした。

なんでそこで終わるんだろ。

何を聞くつもりだった?

わかんない。

眠いなら、寝ればいい。

そうだよね。

なのに。

なんで、ちょっと。

終わり方、変だった。

あたしだけ?

あたしだから眠い?

なんで眠い?

終わり方、変じゃなかった?

ちゃんと話せなかった。

話し足りなかった?

いやわかんないそんな事。

わかんない。

なんで引っかかるんだろ。

説明されたのに。

ルントから頼まれたんでしょ?

なんで頼まれたの?

ルントとどんな話してるの?

キューの事話してるの?


村でそんな事あった?

ナギが変わったから?

なんで変わったの?

ミトハロ来たから?

あたしと話してないから?

あたしがなんかしたから?

手が自分の扉にかかるのが目に入る。

今日あたしも手つないだ。

キューだけじゃなく。

あたしも手つないだ。

ベッドに腰掛ける。

でも退屈そうじゃなかった?

キューとはあんな感じだった?

変なとこ見てた。

じっと見られてた。

別にいいけど…。

キューにも見てたって事?

あたしだから見てた?

キューだから見てた?

そんな奴だった?

村の時からそんな奴だった?

どんな奴だった?

村って何?

さっきは見られなかった。

あたしだから?

他の人なら見てた?

うまく話せなかったから?

でも回復してあげた。

眠いならしょうがない。

眠いなら。

…うるさい。

もういい。

なんでこんな。

聞けば終わる。

いや。

何を。

何を聞くの。

わかんない。

でも。

なんか。

ちょっと。

ちょっとだけ。

話せば。

いや。

ちょっと確認忘れちゃっただけ。

すこし。


「リサちゃん。どうしたの?大丈夫?」


勢いよく横を向くと、ドワンがいた。

暗くて顔はよく見えない。


「え…、あ…。」


「そこ、ナギ君の部屋だよね?どうかした?」


「あ、あの。えっ、と。ちょっと聞きたい事あったんですけど、夜遅いからまたにしようかなって。」


「うん、そっか。」


「はい、すいません、おやすみなさい。」


「うん、おやすみ。」


あたしは部屋に戻った。

あたしの部屋ってこんなに汚かった?

荷物も多くないはずなのに。

なんか落ち着かない。

あたしいつも夜に整理するはずなのに。

あたしが変わったの?

あたしがいけないの?

部屋が汚いから?

ナギの部屋はきれいだった?

わかんない。

なんでわかんないの?

どうして?

さっき行ったのに。

ナギの部屋はどうだった?


あたしはほんの少しだけ扉を開く。

正面突き当りの階段の踊り場で出入り口の方を見て誰かが座っている。

ドワンか?

あたしはゆっくりと扉を閉めた。





翌日、ミトハロに到着して十日目の朝。

あたしは砂浜にいた。

太陽は出てるけど、少しまだ早そう。

宿から北、ドーゲンミライ道場にかなり進んだいつもと違う砂浜だった。


適当にストレッチをしたり、ダッシュしたり。

体動かすと気持ちいい。

ダッシュしてたら歩いてる蟹を踏みそうになった。

焦って避けて盛大に転んだけど痛くない。

砂浜って気持ちいい。


ラグナロクを抜いて構えてみる。

戦った時にたまに湧くどす黒い感情は怖いし苦手だけど、なんか構えるとしっくり来るんだよね。

稀に柄を握っただけでゆるやかな気分になって目を瞑りたくなる時もある。

なんかずっと持っていたような。

そんな感じ。

みんなこんな感じなの?

今日も構えると呼吸が深くなった。

目を瞑ると真っ先に波の音が飛び込んでくる。

砂浜に面した木々が揺れる音。

寄せて返す波の音に合わせて何回かゆっくりとラグナロクを振った。

体がぶれると、何故かズレた事が分かってやり直した。



さっきよりも日が少し上った頃、ドーゲンミライ道場に向かう。

ミライ君がいたらやだな。

そう考えると足が重くなる。

いつもと違うルートで少し迷った。


道場に近づくと何やら騒がしい。

いくつもの足音。

女と男?老人の叫び声がする。

おそるおそる引き戸を開けると〝一日一善〟ではなく、

正面奥の壁に〝掴む魔法〟で張り付いてきた〝サファ〟が目に飛び込んできた。

あたしに気づくとすぐさま叫んだ。


「リサ!助けてくれ!魔物!」


あたしは素早くサファが飛んできた方向の部屋の隅に顔を向ける。

ドーゲンが壁を背にして二頭の魔物に囲まれていた。

サファが床に着地しドーゲンに〝いたいのあとまわし〟と叫んだのが聞こえた。

ラグナロクに手をかけて道場に一歩入り真左を見る。

膝下くらいのサイズの黒い四つ足動物が突進してくる。

はやいでかい。


(イタチ!?)


驚いて引き戸を閉め離れる。

ラグナロクを抜き、以前ドーゲンが突っ込んだ穴から入ろうと体を向ける。

右足のふくらはぎに痛みが走った。

顔を向けると引き戸を突き破り、太い針のようなものが伸びている。

掠っていた。

慌てて飛びのくがバランスを崩し尻もちをつく。

素早く道場の中に入っていく針が見えた。


(なにあれ!?)


すぐさま起き上がりあたしは走って穴に向かう。

走りながら〝つよくなれ〟を自分にかける。

おそるおそる穴から覗き込むと二頭と対峙している派手なおじいちゃんが目に入る。

壁からは脱出したようで位置は変わっていた。

魔物はあたしに背を向けている。

貫かれたのかも、派手なおじいちゃんは至る所が血だらけだ。


「リサ!そいつ爪が伸びる!」


どこかからサファの叫び声がした。

上から聞こえる。

壁に張り付いているんだろう。


背を向けているうちの一頭に勢いよく近づきラグナロクを振り下ろす。

四つ足の動物は一振りでまっぷたつになった。

青い飛沫が一瞬上がる。


(柔らかい!)


その瞬間ドーゲンが両手に持った短剣のようなもので四つ足の魔物に襲い掛かる。

これ何?イタチ?


「スクランぐ!ああっいったぁい!いたあい!」


スクランブル交差剣を発声しつつも言い終わる前に急に痛がりだすドーゲン。

別に特に誰も何もしていない。

ひるんでいるドーゲンの肩にもう一頭から伸びた爪が当たる。

老人の呻き声と同時にあたしは四つ足の魔物に後ろからラグナロクを振り下ろした。


視界の端に一瞬サファが映った。

後方の壁面で軽い衝撃音がする。

再び魔法で掴んだようだ。

何かドーゲンに叫んでいる。


飛んできた方向に顔を向けると空中に大きく書かれた渦巻きに四つ足の魔物が気を取られていた。

見た事ある魔法だった。

〝かくね〟だ。

ラグナロクを構えてゆっくり近づくと渦巻は消えた。

四つ足の魔物はあたしに気づくとダッシュで穴から逃げて行った。


「リサ追わなくていい!」


背中から声がする。

あたしは声を張って応じた。

振り向くとサファはドーゲンに回復魔法をかけていた。

ラグナロクに重さを感じる。

〝つよくなれ〟が切れた。

再び発声し、穴から出る。


逃げたのだろう。

魔物はどこにもいない。


道場内に戻るとドーゲンとサファは何かを話しているようだったが、

唐突に怒鳴り声に変わった。


「なんで穴が大きくなってるのよ!ワシが突っ込んだ時はあんなおっきくなかった!」


「うるせぇな!だから俺がやったんだよ!通りにくいだろうが!」


「壁は通れないから壁って言うんでしょうが!サファのせいで魔物が入ってきたのよ!ワシ死ぬところだった!」


「壁も腐りまくってんだからあんま変わんねぇよ!うぜぇな!さっさと金返せよ!」


(おじいちゃん元気だな。)


言い合う二人をよそにラグナロクを鞘に納めながら魔物の亡骸を凝視する。

その内、煙?砂?光ったようなくすんでいるような。

なんとも言えない粒になりどろっとした青い液体だけが残った。


(こうやって消えるんだ。狼型のもこんな感じだったのかな。)


少しざらついていた床をブーツで擦っているとサファが近寄り声をかけてきた。


「リサてめぇ!助けてもらってわりぃな!ジジイが死にそうだった!怪我ねぇか?おまえ魔法使えんだな!」


「うん、サファは大丈夫?」


思い出したようにあたしはしゃがんで右足を回復する。


「ああ、俺は大丈夫。」


「ミトハロって魔物出るの?」


「んなわけねぇよ。街では全然見かけねぇし。たまたまだと思うけど。」


「あれ、この辺では〝イタタタッチ〟って呼ばれてる魔物ね。ほほほ。あー痛かった。」


(イタチ…。)


腰を抑えてあたしとサファから離れて歩き出すドーゲン。

サファが魔法で掴んで叫ぶ。


「てめぇジジイ逃げんじゃねぇよ!金返せ!リサにも借金あんだろ!」


「布取りに行くだけ魔物の血を拭くの!ワシ逃げ回ってるわけじゃないし!今日居たじゃん!お金も払うっつーの!」


(このおじいちゃん若いよなあなんか。)


奥の部屋にドーゲンは入り、布とお金を持ってきた。

三万エンテを渡された。


「ドーゲンさんこれ多くない?ミライ君からあたし千エンテ受け取ってるし。」


頭を下げて叫ぶドーゲン。


「ごめん!リサちゃん!これで許して!っていうか見逃して!一日二千エンテはさすがにウチ潰れちゃう!」


(自分で言い出したんじゃん…。)


サファに横から肩を突き飛ばされ、よろめくドーゲン。


「おいジジイ、謝るならよ、言えよ。詐欺でしたごめんなさい。って。認めろよ。」


「さっ、ささっgさ…あの…さっさっ。」


頭を下げた派手なおじいちゃんはぐぬぬと言った感じで言い淀んでいた。


「ドーゲンさんもういいよ。ちゃんともらったし。ナギも受け取ってないなら多分これじゃ足りないけど…、あたしから言っとくから。」


「なんだよジジイ、結局足りねぇのかよ。おめぇさ、もうこれを機に詐欺やめろよ。あと俺にも金返せよ。

なんでリサだけ。言いてぇ事たくさんあるけど全部〝金返せ〟なんだよおめぇはよ。」


ドーゲンを蹴り飛ばしそうなサファ。

苛立っているみたい。


「サファの分は…、持ち合わせがない…。」


おじいちゃんは弱弱しく言った。


「あーうぜぇな!じゃあもういいよ。でも助けてもらったんだからよ。足りないはマズイだろ!リサになんか御礼でもしろよ!」


「ぐすん。ちょっと待ってて。」


そう言うとドーゲンさんは奥の部屋に引っ込んだ。

衣服と布袋をふたつ、雑巾を手に持っている。


「リサちゃん、返り血がちょっとすごいから、これいる?女性ものの服。ほほほ。」


(いや、ほほほじゃなくでしょドーゲンさん、なんで女性ものの服この道場にあるの?)


「さすがにいらないわ。」


あたしはあっと口を塞ぐ。

心と中と発言が逆になっちゃった。

ついにサファにお尻を蹴られていた。


「て、てめぇドーゲン!それまさかおめぇの変装用じゃねえだろうな!ふざけんなよ!」


「冗談!最近の若者は冗談通じないの?これが本当のお詫び。ほほほ。」


そういうと布袋を手渡してきた。


「これ〝オチ(くさ)の粉末〟ね。水に混ぜて洗うとどんなシミも一発でとれるから。ほほほ。助けてくれてありがとねリサちゃん。」


(ありがとう!ドーゲンさん!)


「なんか、ドーゲンさんに〝ちゃん〟って言われると鳥肌が立つ。」


また逆になっちゃった。

なんかうまくいかないな。

ドーゲンは笑っていた。

冗談が通じるのだろう。

本当の事の方が少ないのかもしれない。

あたしはそう思った。


「足りねぇなあ。ジジイ。もっとなんかあんだろ。」


サファがにやりと笑う。


「サファ、あたし本当にこれでいいよ!ドーゲンさんもありがとう。」


しゅんとしているドーゲンさんに声をかける。


「ドーゲン、おまえのとこの変なスキル、全部リサに教えてやれよ。それでトントンくらいじゃねぇの?」


「ダメ!サファ!あんた!それは絶対にダメ!スクランブル交差剣だけはだめ!それ以外もダメ!ほぼ秘伝なんだから!ほほほ!」


(スクランブル交差剣だけはいらないんだよなぁ。)


投げやりに笑うドーゲン。

違和感しかないおじいちゃん。



「じゃああれ教えてやれよジジイ!〝影巡り〟だっけ?リサ強ぇけど動きに無駄あんだろ?ジジイが教えてやれよ!」


「〝影合わせ〟ね。ほほほ。」


「めんどくせぇな!スロウスパーでいいじゃねぇかよ!」


ドーゲンのお尻をサファが蹴飛ばそうとすると避けるおじいちゃん。

〝影合わせ〟とやらをサファとドーゲンで実践してくれる事になった。

とってもゆっくり動きながらパンチや蹴りをしてて噴きそうになっちゃったけど、二人の顔は真剣。

決して相手に当てずに、何かを確認するように丁寧に動く二人。

簡単そうだったけどしばらく経つと二人はかなり疲れた様子だった。


たしかに、蹴る時に片足で立ってる時間とか長い。

体制を維持するの疲れるのかも。

息切れをして足を投げ出すように座っている二人に聞いてみる。


「これってなんのためにするの?」


息が荒いサファが答えた。


「パターンを体に定着させるための練習にもなるしよ、相手の体の動きを見てまずどこから動いてんのか?とか、

こう来たらこう動いてみようみてぇな?流れ?あとは自分の体のクセっていうの?重心の寄り方、かかり方とかそういうの知るためにやってんだよな。俺、体が勝手に動く事がすげえ多かったからジジイに相手してもらってたんだよ。まだ勝手に動く時あるしよ。コントロールしてぇじゃん?そういうの。」


「リサちゃん、こいつ説明下手だから相手にしないほうがいいよ。ほほほ。」


サファは舌打ちをしてドーゲンを睨みつけた。


「体が勝手に動くってどういう事?」


何かあたしの体の手掛かりがわかるかも。


「サファ、かなり長い記憶喪失なの。ほほほ。ワシと出会うまでの記憶ないんだって。」


「おい!てめぇドーゲン!おめぇそれ言うなよ!」


サファに追いかけられるドーゲンは〝ばくそく〟と叫んでいたが捕まっていた。

やっぱ〝ばくそく〟って意味なかったんだ。


「…まぁそういう事なんだよ。俺、気付いたら〝エマナリ島〟にいたんだけどよ。目覚めるまでの名前以外の記憶が全然ねぇんだわ。で、そんな中、不運にもドーゲンと出会っちまったんだけど。」


どっかで聞いたな。

アルセナでアネットが書いて教えてくれた島だっけ?

たしかここから西にある。


「ワシがあげたメシ、泣きながら食べてたくせによく言う。ほほほ。懐かしいねサファ。」


うるせぇよと弱く返すサファ。

照れくさそうに続ける。


「体が勝手に動いてこえぇって話したらドーゲンが相手してくれたんだよ。

このジジイの事を強ぇって言ってる奴は大抵詐欺だけど、

詐欺に走る前はちゃんと道場やってたんだよな。こいつ。

スロウスパーやるとよ、体が覚えてる選択肢みたいのが浮かぶから俺には合ってんだよ。会話みてぇな感じで。ま、今はだいぶ落ち着いたけど。治ったって言った方がいいのかもな。

勝手に浮かぶと頭ん中せわしねぇ時あんだよな。」


あたしと一緒だ。

サファにはどういう風に浮かんでいるのかはわからないけど。

あたしはなんとなくの時もあるし〝わかる〟って感じの時もあるから。

ドーゲンが口を開いた。


「ほほほ、体だけじゃなくて友達作って会話した方がいいよサファ。リサちゃん、こいつ友達いないから。

リサちゃん友達多そうだから初めての友達になってやってよ。ほほほ。」


「えっ友達全然いないよ!あたし旅してるだけだし。」


「ああそうだったね、前会った時にそんな事言ってた気がする。ほほほ。」


ドーゲンは魔物の血を雑巾で拭き出した。


「ワシの前で泣きながらメシ食ってたサファが今やドミヌスのリーダー〝さっちゃん〟だもんね。

でも〝イタタタッチ〟も倒せない弱虫。時間が進むのは早いね。ほほほ。」


「えっ!?そうなの!?」


あたしはつい声を張ってしまった。

キューに気をつけろと言われたチームの名前だった。


「てめぇジジイ!おめぇそれ言うなよ!」


サファはあたしの顔を不安げに見る。


「ほらぁ!引いてんじゃねえかよ!このクソジジイ!」


「別に引いてはないけど!驚いただけ!」


焦って否定する。


「そんな口の使い方だから正しい事をしても武闘派って言われるのよサファ。ほほ。〝上への政治〟はうまいのかもしれないけど印象が悪すぎる。だからダガヤにもヤマカミにも足元掬われる。ほほほほほ。」


舌打ちするサファ。


「サファのチームって武闘派なの?」


思った事を聞いてみた。

困った顔のサファ。


「リサ、おめぇこの街のエーテルノード、見た事あんの?」


「まだないよ。話は聞いた事あるけど。」


サファが床に座る。


「あのノード巡ってよ、色々複雑なんだよ。クラックラン王国は使うなっつってるし、

セグイド王国とかウィキアーク王国は使わないんだったら占領して配達王国にするぞみたいな事を言ってくるしでよ、ミトハロが板挟みなんだよな。」


「ほほほサファの説明ほんとわかりにくいからどんどん質問した方がいいよ。ほほほ。」


「ジジイ、真面目に話してんだろうがよ。俺が普段悩んでんの知ってる癖にふざけた事言ってんじゃねぇよ。」


ドーゲンが横やりを入れた。

今のはおじいちゃんが悪い。

サファからの圧にドーゲンは黙って床を擦っていた。


「今はセグイドからの圧力がすげぇんだ。好戦的なんだよ。あの国。」


「その口調のサファがそれ言うの面白いね。ほほほ。」


「ドーゲンさん、ちょっと黙ってて。」


ドーゲンさんごめん話の邪魔。

あたしも床に座る。


「ウチのチームが一番でけぇから、セグイドとやりとりして、矢面に立ってるっつーか。そこと連携してんだよな。」


「この街の長っていうかリーダー?その人は何してんの?」


リヴェルなら村長。

アルセナなら王様。

ミトハロの人は何してんの?


「あーだめだめ。だめっつーのは、ノードを利用した取引なんて表立ってやっちゃうとクラックラン王国に目、付けられちゃうかもしんねぇだろ?だから黙認よ。裏では多分噛んでるぜ?ウチは詳しくは知らねぇけど。

でも街の上の人間は関係ないフリしてるよ。だからウチがセグイドとやりとりしてる。たまーにウィキアークともな。」


胡坐で座るサファは自分のブレスレットを見つめて片手でくるくる回す。

話を続けた。


「やりとりっつーか、ぶっちゃけ金払ってんだよ。で、セグイドとウィキアーク…、まあセグイドかなあ今は。守ってもらってんの。クラックランから。あいつらノード関係の話になると血相変えて攻めてくんだよ。なんかゴシップみたいにウチとセグイドの繋がりを言う奴いるけど、ウチが稼いだ金で街守ってんだから別にとやかく言われる筋合いねぇんだよな。」


そう言うサファの表情は少し寂し気に見えた。

ドーゲンの床を擦る音がした。


「街を守るっつーと大げさなんだけど、セグイドをないがしろにしてもそっちから攻めて来るからよ。

他のチームがセグイドをコントロール出来るとも思わねぇし、俺達のチームがやってんだよな。」


他のチームってなんだっけ、ダガシャ?ヤマカミ?


「だから、ノードを守るためならちょっと手荒な事も正直してる。

ノードの周りをチームで固めて不用意に近づかせないようにしたりとかな。

末端の奴らにはやり過ぎるなって注意してっけど、正直行き過ぎる事もある。

そこはけっこう反省してんだ。ずっと悩んでる。

強くないと守れねぇし、強いだけじゃ変な噂が立つしよ。まぁそんな感じで武闘派って言われてんのかもな。

俺が至らねぇとこだな。」


ドーゲンが鼻で笑った。


「でもノードって壊せないんじゃないの?」


「万が一かなぁ。寝て朝起きて壊されちゃってましたは通じねぇのよ。

ここら辺一帯にあれが機能してるから大変な事になる。」


「まぁたしかにね。」


「そんな事まで話しちゃっていいのサファ。ほほ。」


ドーゲンが復活した。

声の方を向いてサファが言う。


「俺は別にリサをどうこうするつもりもねぇし、俺は悪い事してるつもりもねぇしな。別に悪いように言うなら言えばいいよ。それでも俺はミトハロを守りてぇんだよな。」


あたしを見てサファは続ける。


「リサ、おめぇ、旅してんならさっさと次の街に行ったほうがいいぜ。俺が言うのもアレだけどよ。正直関わんないほうがいい。この街の配達事情によ。こないだなんてレイルで露店に突っ込んだのダガヤのガキなのにウチのせいって事にされて各露店に情報回されてんだぜ?ミトハロの中だけでも複雑なんだよ。めんどくせぇ事しかねぇよ。」


サファは一瞬目を見開いて声を張った。


「突っぱねてるわけじゃねぇからな。ジジイの恩人だからな。まぁなんかこの街で困った事あったら言ってくれ。出来る限り助けになるからよ。体の動かし方くらいしか教えらんねぇと思うけどな。リサの動きってけっこう無駄が多いからスロウスパーやるだけでも参考にはなると思うぜ。おっそい寸止めだから頭と筋肉両方使うしな。」


「うん、ありがとう。」


「サファと友達になると友達いなくなるよ。ドミヌスだから。」


「ドーゲンさん、言い過ぎじゃない?サファってそんなにマズい事してんの?人殺したりとか?」


サファが声を張る。


「するかよ!配達する人間もされる人間もいなくなっちまうだろうが!

こいつリサに負けて悔しいんだけど助けられて複雑なんだよ。

俺への八つ当たりだと思う多分。別に俺の事はいいからよ。」


子供みたい。

あたしは少し笑った。


「とりあえずドーゲン、おい、ジジイ、こっち見ろ。おめぇはもう詐欺やめろ。ちゃんとやれば生徒増えるんだからよ。やれよ。な。」


ドーゲンはサファを向かず無言で床を拭いていた。

それから三人で床を拭き、サファからはイヤリングをもらった。

ルーピアという魔力回復アイテムらしい。

さすがに今何も返せないのは悪いからという事だった。



キューが言うほど悪いチームではなさそうだった。

噂って尾ひれつくし。

そう考えながら宿に戻った。

日は高くなっていた。





宿に戻ると階段を上がった所にドワンが背もたれのない丸椅子に座っていた。

夜中騒音を出す人がいるらしい。

騒音?

部屋に戻り荒れていたものの整理をする。

ミトハロって魔物出るんだな。

イタタタッチ。

大きかったけどイタチだろうな。

爪が伸びるスピードが速かった。

サファの〝いたいのあとまわし〟って魔法なんだろう。

ドーゲンさん血みどろだったから怪我の後回しじゃないんだろうな。

急に痛がってたし痛みだけ後回しなのかも。

魔法の事って聞きにくい。

体が勝手に動くって不安だよね。

なんかわかる。

今日はあたしそういうのなくてよかったな。

っていうかドーゲンさんが囮みたいになってたし大してなんもしてないけど。

擦り傷程度でよかった。

ベッドに腰掛ける。

あれ刺さってたらけっこう危ないんじゃないの?

ドーゲンさん肩貫かれてなかった?

わかんないけど。

お金もらった事、ナギに伝えないと。

ナギ、今日何してるんだろう。

ベッドから立ち上がる。

昼間はいないだろうな。

ベッドに腰掛けた。

ずっと外に出てるのかな。

何してるんだろう。

今日の敵、ナギとだったらどうやって戦ってたかな。

アネットと今日も練習してるのかな。

扉をほんの少し開ける。

突き当りにドワンが座ってる。

扉を閉める。

キューはドミヌスに気をつけろって言うけど、何に気を付ければいいんだろう。

サファは別に良い人だったと思うけど。

まあ、あの言い方だと街を守るためになんかしてるとは思うけど。

でも街を守るのも大事だよね。

ミトハロだけじゃなくていろんな国が関係しててややこしいんだろうな。

前に村でマリが、大人になるとしがらみが増えて大変って言ってた気がする。

そんな感じなのかもね。

あたしは何を守ってるんだろう?

世界?

ナギと守るの?

勇者だから?

ナギ、今日何してるんだろう。

部屋行ってみようかな。

でも昼間だからいないと思う。

ずっといないじゃんナギ。

居て、何を話すの?

ルーピアって知ってるのかなナギ。

教えてあげようかな。

教えてどうするの?

アネットから聞いてるんじゃないの?

聞いてたらどうするの?

あたしだけ知らないってなっちゃったらどうする?

こないだ砂浜で話した時みたいにうまく話せなかったらどうする?

あたしがうまく話せないからいけない?

扉をほんの少し開ける。

突き当りにドワンが座ってる。

扉を閉める。

サファの時あたしうまく話せていたかな。

変じゃなかった?

ドーゲンさんにきつく言っちゃった?

でもあれはドーゲンさんが悪くない?

ドーゲンさん言い方がきつくなかった?

あたしきつい言い方する人苦手だし。

ちゃんと話せてたかな。

ドーゲンさん怪我大丈夫だったかな。

ナギもケガしてた。

アネットとの練習で怪我したの?

回復を禁止されてるの?

危ない事してるの?

でも練習でたくさん体くっついてなかった?

危ない事なのあれ?

危ない事に見せかけているの?

なんでそんな事してるの?

今日は何をしてるの?

あたしはナギとうまく話せてる?

キューがナギのこと努力家で熱心って言ってた。

あたしは何に努力してる?

努力してないからいけないの?

あたしなんか悪い事した?

アネットの事は楽しそうに話す。

アネットの事は口数が多くなる。

あの人が努力してるから?

努力って何?

あたしは?

あたしは努力してない?

だからこんなに変な感じするの?

みんなは努力してあたしは努力してないから?

扉をほんの少し開ける。

突き当りにドワンが座って、下の出入口の方を見てる。

扉を閉める。

ドーゲンさん、初めて会った時からずっと怪しかったな。

でも今日話したら普通の人だった。

詐欺はだめだけど。

ちゃんとしてくれないからこれから。

スロウスパーあたしもやってみようかな。

誰と?

あたしは誰とする?

ナギはアネットとしてる。

他にもどこかでしてるかも。

あたしは?

なんであたしは?

どうして?

突き当りにドワンが座ってる。

扉を閉める。

今日ミライ君いなかったな。

よかった。

ちょっと口悪いけどサファの方が話しやすい。

なんでキューはドミヌスに気をつけろって言ってたんだろ。

変わってるから?

ドーゲンさんはなんでミライ君と道場やってるんだろう。

魔物に勝ててよかったな。

死んじゃったら大変だもんね。

あたしもあの針避けられるかわかんないし。

けっこうはやかった。

アネットなら避けれてた?

ナギはどうやって戦ってただろう。

あたしはナギといたらどうやって戦う?

ナギを守る?

ナギはアネットが守る?

そういうの教わってるの?

でもあたしの方が強い。

キューなら避けれてた?

あたしだから避けられなかった?

避けちゃだめだった?

突き当りにドワンが座ってる。

騒音って何?

何かを守ってる?

誰を守ってる?

宿を守ってる?

じゃあなんであそこにいる?

キューを守ってる?

あたしを守ってる?

ナギを守ってる?

なんで守ってる?

どうしてずっといる?

誰から守ってる?

あたしから守ってる?

あたしが変だから?

今日うまく話せてたのかな。

だから守ってる?

あたしがうまく話せなかったから?

だからナギを守ってる?

ドワンが立ち上がる。

こちらに近づいてきた。

あたしは扉を閉める。

鍵をかける。

ベッドに横になる。

ブランケットを頭から被る。

扉が鳴る。

耳を塞ぐ。

しばらく扉の前で人の気配がして、足音は遠のいていった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ