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校正者のざれごとシリーズ

校正者のざれごと――編集者、編プロとの静かな戦い

作者: 小山らいか
掲載日:2026/02/13

 私は、フリーランスの校正者をしている。

 今回私に来た仕事は、ジャンルとしては一般教養。いまの日本とアメリカ、そして他の国々との関係について、専門家である先生たちが自身の見解をまとめたものだ。私にとっては、久しぶりにきちんとした文章を読む仕事となった。年末からこれまで、年表のようなものやデータを確認するもの、索引の校正など、文章ではない仕事が続いていた。校正というと文章を読む仕事だと思われがちだが、意外とそうではないものも多い。

 今回の仕事は再校で、初校はうちの校正プロダクションの別の校正者が担当した。校正は最初に原稿がゲラ(校正紙)になったものが初校、それを反映して次に上がってくるのが再校、さらに必要があれは三校、念校などと進んでいく。

 校正者は横のつながりがあまりないので、他の校正者の作業内容を知ることはあまりない(おそらく。いや、もしかしたら人と接するのが苦手な私だけかも)。再校の作業のいいところは、別の校正者の仕事ぶりが見られるところだ。初校ではどんな赤字を入れ、エンピツでどんな指摘をしたのか。興味深く見ていく。見落としがちな誤植への指摘などを見て、「へえ、こんなところも拾ってるんだ、すごいな」などと思いながら赤字の引合せをする。右手に再校ゲラ、左手に初校戻し校を置き、右手に赤ペン、左手に青の色鉛筆を持つ。初校で校正者が入れた指摘に対し、編集者が採用したところは赤字で丸がついている。それが再校にきちんと反映されていれば初校戻し校に青字でチェックを入れる。直っていなければ再校のほうに赤字を入れる。

 校正は赤ペンで指摘するというイメージが強いと思うが、実際はエンピツで疑問出しをすることのほうが多い。ここは、こうしたほうが読みやすいのでは? この言葉はこちらのほうが用語としては正しいのでは? など。そして、そういった提案を編集者に受け入れてもらえるよう、できるだけ信頼してもらえる根拠を探す。たとえば「仮想通貨」という言葉。ビットコインなどが出始めた頃は、これらはそう呼ばれていた。しかし、「マイニング」という過程を経て作られるこのビットコインなどの成り立ちを考えると、現在の呼び名である「暗号資産」のほうが実態に合っている気がする。金融庁のHPでは「資金決済法の改正(令和2年5月1日施行)により、法令上、『仮想通貨』は『暗号資産』へ呼称変更されました」とある。ゲラではよく「仮想通貨」や「暗号通貨」などの言葉を見かけるが、これに対し「『暗号資産』トスル?」とエンピツを入れる。

 ときには、2、3行の文章を前に、どうしても納得できず数時間ほど頭を悩ませながら代替案を考えることもある。この文章は本当は何が言いたいんだろう。前のページの内容から考えると、ここはこの言葉じゃないよな。そしてさんざん迷った挙句、エンピツでそっと書き添える。でも、初校に続いて再校も担当することになり、初校戻し校を見て自分が書いた提案が受け入れられていないことに気づく。そうかあ、ダメだったか。ちょっともやもやしながら、気を取り直してもう一度最初から読んでいく。内容はあくまで著者のものなので、こればかりはどうしようもない。

 先日まで担当していたデータを確認する仕事では、編集者から相談を受けた。毎年担当しているので顔なじみなのだ。今年は元データである厚生労働省のデータの仕様が変わったので、どのデータを使うか迷っているとのこと。そこで、校正の作業からは少しはずれるが、初校でいくつか提案をしてみた。ところが、再校を見ると私の提案はほとんど採用されず。担当の編集プロダクションが今年から変わり、編集方針にもいろいろと提案しているという。編集者もそれを頼りにしているらしい。まあ、仕方ない。最終的に、この資料を利用する人が読みやすい誌面になってくれれば。

 とある仕事の依頼内容は、時間(そして予算)がかなり厳しいものだった。校正プロダクションの社長とも相談し、依頼先の編プロの担当者へ電話で交渉してみる。

「作業時間も限られてしまうので、基本的には素読み中心で……」(注:素読みは、内容の調べなどはせず基本的な誤字脱字だけを拾うこと)

 すると、編プロの担当者は私の言葉を遮り、急に声を荒らげた。

「素読みだったらうちでもできますよ。見本のゲラ、見てます? そんな難しい内容じゃないですよね。こちらは、ふつうの校正をお願いしたいんです」

 あまりの剣幕にしどろもどろになり、「わかりました」と言ってすぐに電話を切った。

 ふつうの校正――「ふつう」というのが実は難しい。校正は出版社によって求められるものが違うので、どこまで作業するのか簡単には判断できない。作業前には、できるだけ相手が何を求めているのかを確認するようにしている。

 ……それにしても、ずいぶんひどい言われ方だったな。あんな言い方、しなくてもいいのに。思わずため息をつき、作業に戻る。

 冒頭の再校の校正が終わり、担当者へゲラを納品した。しばらくして、その担当者からメールで返事があった。

「迅速かつ丁寧に見てくださり、大変助かりました」

 こんなひと言が、校正者にとっていちばんのご褒美だ。落ち込んでいた気分も何とか持ち直す。さあ、また明日から、次の仕事もがんばろう。


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