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番外編 翌日、団員たちに“甘やかされた余韻”がバレて赤面するリオン編

 翌朝。僕はいつも通り店の掃除をしながら、昨日の“夜の甘やかしタイム”を思い出していた。


(……リオン、かわいかったな……)


 めずらしく弱音を吐いて、抱きしめたら離してくれなくて、耳元で「好きだ」と言われたあの声の甘さなんて――。


(思い出しただけで、僕が照れる……)


 差し入れのチョコを手にそんなことを考えながら、騎士団本部の前を通った時。


「――副団長、今日なんか機嫌よくね?」

「……いや、むしろ“妙に落ち着いてる”というか……?」


 団員たちの声が聞こえてきた。


(……え?)


 角を曲がって、コッソリ副団長室を覗くと――そこにリオンがいた。いつもより髪がふわっとして、目元がやたら柔らかい。それに、顔がほんのり赤い気がする。


(あ……昨日の余韻が、ほんのり残ってる……)


 そりゃそうだ。あんなに甘えてたんだから。


「副団長、昨日なにか良いことでも?」


 団員のひとりが悪気なく聞く。


「……別に」


 リオンは素っ気なく返すが、声がかすかに低く掠れている。


(あ、それ甘やかされ声だ……)


 僕しか知らない、あの柔らかい夜の声。


 団員たちはそれに気づかず、


「え〜? なんか“疲れ切ってる”感じじゃなくて、“満たされてる”感じというか?」

「“恋人ができた翌日みたいな顔”だよな」

「わかる!!!」


(うわー……!! 言う……!!)


 心臓が止まりそうになる。案の定、リオンの肩がピクリと跳ねた。


「……誰が……そんな顔を……」

「いやいや副団長、今日は妙に優しいっていうか……角がないっていうか。あっ、もしかして昨日、真琴殿と――」

「待て」


 リオンが即座に止めた。でもその“止め方”が、完全に動揺している。団員たちはそれを見逃さない。


「副団長……図星……?」

「ち、違――」


 リオンの声が、思いっきり裏返った。


(――やばい、バレる! 昨日のことが絶対バレる!!)


 しかも団員たちは、誤解の方向へ暴走した。


「真琴さんに告白したんですか? ついに!」

「逆ですか? 真琴さんからですか?」

「副団長、もしかして昨日、デート……?」

「違う!!!」


 リオンの否定が、もはやほぼ悲鳴だった。団員たちの視線がさらに鋭くなる。


「じゃあ、なんでそんなに照れてるんです?」

「照れてない!!!」


(いや照れてるよ……すっごく……)


 その時、ついにひとりの団員が核心に触れてしまった。


「副団長、昨夜……真琴さんに“慰めてもらった”とか……?」


 リオンが固まった。瞬きも呼吸も止まったみたいに。


(……終わった……)


 案の定――顔全部が真っ赤に染まった。


「っ……うっ……!」


 普段威厳の固まりみたいな人が、言葉にならない声で震えてる。


「えっ、副団長……まさか本当に?」

「真琴さんに、甘やかされたんですか?」

「ど、どうなんですか?」


 追撃が止まらない。もう見てられなくて、僕は慌てて姿を見せた。


「み、みなさん! リオン様をからかわないでください!」


 団員たちは僕を見るなり「あっ本人きた!!!」と盛大にざわついた。リオンはというと――僕を見た瞬間、さらに赤くなる。


「ま、真琴……っ……」


 その反応が完全に“バレてます”の証拠になってしまい、


「副団長ガチだ……」

「本当に甘やかされた翌日の顔だ……」

「真琴さん、昨夜なにを?」

「な、なにもしてません!! なにもしてませんから!!」

「真琴、黙れ」


 リオンが小声で遮ってくる。でも、その声がまた甘い。


(ほんとに……かわいいんだから……)


 団員たちは確信を得て大盛り上がりする。


「副団長がデレてるなんて、初めて見ました!」

「真琴殿、責任取ってくださいね!!」

「お二人とも、お幸せに!!!」

「ま、待てやめろ帰れ黙れぇ!!!」


 リオンの絶叫が響いた。


 結局その日。リオンは顔を真っ赤にしたまま一日を過ごし、団員たちは副団長の“恋バナ”で幸せに盛り上がり続けた。


 その日の夜、店番を終えて自室に戻ると――リオンが部屋の前で待っていた。壁に背を預け、腕を組んで、眉間にささやかな皺を寄せている。


 明らかに不機嫌……というか、拗ねてる顔だ。


「リオン……ずっと待ってたの?」

「……ああ」


 短く返事をするけれど、声が低い。怒ってる? いや、どちらかというと“むくれてる”。


「今日は……すまなかった」

「え? リオンが謝ることなんて――」

「団員どもが、余計なことばかり言った」

「ああ……それは……まぁ……」


(だって、完全に余韻が出てたし……)


 そんなことリオンに言えない、絶対に!。


 するとリオンは一歩、僕に近づいた。夕食のあとの時間で、廊下は薄暗い。光の少ないところで見るリオンの顔は、やけに色っぽい。


「真琴」

「はい」

「……君のせいだ」

「えっ僕!? な、なんで!?」


 思わず素っ頓狂な声が出る。リオンはじっと蒼い目を細めて、


「昨夜……あんな顔をさせるからだ」

「ど、どんな顔?」

「……言わせる気か」


 低い、甘く掠れた声。まだ怒ってるのに、声だけは完全に“甘やかされ翌日”仕様だ。


 僕の鼓動が一気に跳ね上がる。


「だって……そんな、リオンがああいうふうになるなんて思わなくて……」

「真琴が……あんなふうに抱きしめてくるからだ」

「……!」


 その瞬間、リオンの耳まで赤くなった。


「君の腕の中は……安心する。完全に油断した」


 僕は、胸の奥がぎゅっと痛むくらい嬉しくなった。けれどリオンは、さらに顔を赤くしながら続けた。


「……団員たちに“甘やかされた”などと騒がれて……屈辱だった」

「ご、ごめん」

「謝るな」

「えっ?」

「代わりに……責任を取れ」

「責任?」


 言っている意味がわからず首を傾げると、リオンは僕の腕を掴んで、ぐいっと引き寄せる。それは、息が詰まるほど近い距離だった。


「私を……あんな顔にした責任を」

「え、えっと、その……どうすれば?」


 問いかけた瞬間、リオンの額が僕の肩に落ちる。そして抱きしめられた。ぎゅうう、と子どもみたいに強く。


「……真琴。今日は、誰にも邪魔させたくない」


 声が本当に弱くて、甘くて、胸が溶ける。


「ずっと……悔しかったんだ」

「リオン……」

「君の前では……かっこつけたいのに……。団員に見られて……全部、崩れた」


 それはもう、甘えというより“縋る”に近い抱きつき方で。僕の胸元を軽く握る指が、ほんの少し震えていた。


(……かわいい……こんなの反則だよ……)


 僕はそっとリオンの頭を撫でた。


「リオン。僕はあのときのリオン、かっこ悪いなんて思わなかったよ。むしろ……すごく愛しいと思った」


 その瞬間、肩口に押し当てられていたリオンの額が熱を帯びた。


「……真琴。そんなことを……言うな……」

「どうして?」

「理性が……持たない」


 掠れた声で呟く。抱く腕がさらに強くなった。


「今日は……私を甘やかせ」

「うん、いいよ」

「中途半端は許さない」

「僕もそのつもりだよ」


 リオンの呼吸が止まった気がした。そして次の瞬間、僕は部屋の中へ押し込まれた。扉が閉まり、鍵がかかる。


 リオンは僕の腰を抱き寄せたまま、小さく囁いた。


「……真琴、覚悟しろ」


 それは昼間から溜め込んだ悔しさと嫉妬と甘さを、全部詰め込んだ声だった。

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