表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/90

番外編 アルセリア市民は見た!商人さん視点:騎士様こわかったその2

 ――私は、ただいつものように納品に来ただけ。ここの店主である真琴さんは礼儀正しいし、話しやすい人だ。


 騎士団副団長のリオン殿が店にいると聞いたときも、正直少し緊張したが、まさかあんな目に遭うとは思わなかった。


「こんにちはー、失礼します!」


 いつものように店に入った瞬間、私は見惚れてしまった。そこにいたのは、完璧に整った姿勢で、やわらかく微笑む騎士――リオン殿。


(うわ……なんだこの“王宮の広報に描かれる、理想の騎士”みたいな笑顔は!)


 品があって、優しげで、誠実で――ちょっと近寄りがたいほど、完璧な“騎士スマイル”。


 私は緊張しながら、真琴さんに挨拶した。


「真琴さん、いつもお世話になっております」

「こちらこそ。いつも素材をありがとうございます」


 真琴さんが笑うと、店が明るくなる。その横で、リオン殿は目を細めた。


(いや……これはもう……守護神だな)


 そう思った矢先、違和感が走った。リオン殿が、すっと真琴さんの前に立った。それは自然な動きではある。だがわかる、あれは壁だ。完全に“間に入ってきた”動きだった。


(え? なに? 私、なんか失礼した!?)


「商人殿、貴殿の品はいつも素晴らしい」


 耳障りのいい柔らかな声。しかも微笑んでさえいる。


(なんて優しい……いや、でもなんで寒気がするの?)


「いえいえ、とんでもない! 副団長殿にそう言っていただけるとは光栄で――」

「ただし」


 怖かった。笑顔のまま、声だけがすっと低くなるのが、ものすごく怖かった。


「真琴に“親切すぎる”必要はない」


(……え? 今……なんて?)


 やわらかい笑みなのだ。怒っているようには見えない。けれど目が――目がまったく笑っていない。


(こ、これは“笑っているのに、怒っている人”の目だ!)


 私は慌てて言った。


「え、えぇと……もちろん仕事上の礼儀でして……」

「なら良い」


(――リオン殿、見るからによくなさそうな顔してません!?)


 心の中で悲鳴をあげる。本能が訴える。


(これは……大型魔獣に背を向けちゃいけない時と同じやつだ!)


「真琴さんは本当にいい人ですねぇ。こんな方が恋人なら幸せでしょうに」


 ただの社交辞令だった。当然深い意味はない。それなのにリオン殿が、微笑んだまま言った。


「商人殿……もしや、真琴を狙っているのではないか?」


 あ、これは地雷だったのか。なぜ私は触れてしまったのだ。


「へっ?」

「残念だが、彼には既に決まった人がいる」

「あ、そう、でしたか……?」


(ひぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~)


 目の前で、すごい迫力の“静かな威嚇”が行われていた。しかも、真琴さんが真っ赤になっている。


 リオン殿は一切目を逸らさない。


(恋愛の只中にいる恋人の“アレ”じゃないですか!? 私はなぜその現場に居合わせているんですか!?)


 私はもう、命の危険を感じてしまい。


「し、失礼しました! 本日はこれで!」


 逃げるようにカタログを投げ置き、店を飛び出した。外に出て、膝が笑った。


「な、なんだ今の……リオン殿……笑ってたのに……あれ絶対、怒ってたやつ!」


 鼓動がまだ速い。


(ひょっとして……真琴さんが好きなんじゃ……?)


 店でのやり取りを思い返す。あの壁みたいな立ち位置。妙に距離感を詰めてくる感じ。声は丁寧なのに、圧が怖すぎる笑顔。


(……いやもう確定だろう)


 そして商人として、私は特別に学んだ。


・嫉妬した騎士様の営業スマイルは、素人には処理できない。

・真琴さんの隣に近づくと死ぬ。


 商人としての教訓が、ひとつ増えた気がする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ